第138話 境界線

目覚めたら泣いていた

怖い夢を見たわけでも

悲しい夢を見たわけでもなく

ただだらだらと涙が流れ

拭うことすら億劫で

泣きながらベッドで

膝を抱えて座っていた


カーテンを揺らす風

ふと窓に目をやると

憎らしいほど澄んだ空が

ちっぽけな僕を見下ろして

まぬけな泣き顔には目もくれず

ひたすら空は空だった


空の色を映して海は青いのか

海の色を映して空は青いのか


遠くに広がる海は

何も言わずにそこにあり

少し傾いた日が波に乱反射して

キラキラと光をこぼす

青かったはずの空は

いつしかオレンジに染まり

輝く海のそのはるか先の

キラキラを見つめた


終わりの時とはなんと儚いものなのか


暮れゆく日の中僕は知る

この手につかめるものなんて

限りなくゼロに近いから

だからむやみやたらと

空へと手を伸ばしてしまうのだと

それでやっぱりこの手の中に

残るのはただの虚しさだけ


流れ続ける涙はほのかにしょっぱくて

実はこれが海なのかもしれない


抜け出せない逃げ出せない

それでも空はそこにあり

それでも海はここにある

うれしくて悔しくて

それでもやっぱり何もなくて

空と海の境界線を

僕は泣きながら探しているのだ



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