第104話 灰色

自分に正直に生きるなんて恐ろしくてどうしようもない

この腹の中、渦巻く感情はきっと誰にも見せられない


それでも気になるのは怖いもの見たさで

好奇心にかられて突き立てるナイフ


真っ二つに切り裂いた腹の中から出てくるのは魑魅魍魎たち


妬み、恨み、怒り、欺き、強欲、怠惰、


ありとあらゆる負の感情が具現化して飛び出した


あまりにも汚い感情たちが全身のあらゆる場所を蝕んで

こんなにも汚れていたことを冷静な自分が受け止めた


溢れ出す澱んだ感情

よくもまあこんなに悪意だらけに育ったなぁと半ば感心しつつ見送れば

最後に飛び出た重い灰色がニヤリ笑ってこう言った


「これがおまえの本心さ」


見て見ぬふりしてやり過ごしてきた現実を突きつけられて

とっさに尻尾を踏みつける


ジタバタ足掻くそれはどう見ても滑稽で、手探りで握ったナイフを振りかざした


「殺しても、消えやしないさ」


ニヤニヤ笑いのソイツに何度も何度も切りつける

ドロリとした灰色はまるで血液のように飛び散って

返り血を浴びた体もそんな灰色にまみれた


ああ、もう、消し去ってしまいたい


吐いても吐いても拭えない気持ち悪さと

洗っても洗っても取れない灰色が

己の汚れを否応なしに責め立てる


狭いトイレに響く水音に紛れて一粒だけ涙がこぼれた

灰色に染められた濁った涙


「さあ、あきらめてイキロ」


アイツの勝ち誇った声が聞こえた気がした


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