第84話 春に。
冬の痛みに慣れた頃
ほんの少しの春が芽を出し
そろりそろり忍び寄る春に
ますます警戒心を強める
なぜ人はいつも春を待つ
待って待って待ちわびて
声の枯れるまで祈ったところで
来る春は決して
胸の奥にはびこる氷を
溶かしてはくれないのに
大きな顔して来る春を
無条件に受け入れてはいけない
一つ季節が巡って
ただ時が過ぎただけ
ただ名も知らぬ花の香りが
生々しいまでに掠めていくだけ
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