決意の煌めき――3
二人の元へ、さらに近寄ってくる者がいた。
「佐奈井、峰継さん」
理世だった。枯れた下草を踏み分けながら、こちらへと近づいてくる。
「やっぱりここにいた」
「どうかしたのか?」
佐奈井は尋ねる。
「ここらの村の人が噂をしていた。動きがあったから、一応伝えておこうと思って」
「動き?」
佐奈井は食らいついた。また、状況が動いたというのか。
「北の加賀国から兵が押し寄せてきている。越前国でまた大きな戦が始まりそうだって」
「嘘?」
佐奈井は、すぐにでも駆け出したくなっていた。加賀国からの勢力は、間違いなく富田長繁の居城を攻めるつもりだろう。
そこには香菜実がいる。
「しかも、越前の民衆も彼らに呼応しているって。民衆は富田長繁すらも除け者にするつもりらしい」
「兵力は、膨らんでいるんだな」
わかっていたかのように、峰継は言う。佐奈井ですらも、こうなることは予想がついていた。
富田長繁が織田信長と繋がるのではないかという噂は、前々から聞いていた。越前国から富を戦のために奪うと見られた織田信長に仕えることを、民衆は納得していない。結局は越前国を売って強者に尾を振った桂田長俊と、富田長繁はさほど変わらないとみなされたのだろう。
織田信長に大敗して、越前国には兵力の余裕がない。この間の桂田長俊に対する一揆も、富田長繁は大勢の民衆を動員してやっと勝ったようなものだ。その大勢の民衆が一斉に手の平を返したら、富田長繁はわずかな兵と一緒に孤立するしかなくなる。
「……香菜実を助けないと」
佐奈井はつぶやいた。もう傷は塞がった。動けるし、多少は戦える。慶充のように、見捨てるわけにはいかない。
「ちょっと待った」
理世が声を張り上げる。
「何だよ、理世」
「今にも富田長繁の居城に向かってしまいそうだから言うけど、あんた本気なの?」
「そうだよ」
止まるつもりはない。
「そんな年で?」
子どもなのに、という意図が、理世の言葉にあからさまに含まれていた。
「だめなのか?」
理世は心配してくれているだけだ。一乗谷から逃げている間も、肉親というわけでもないのに傷ついた佐奈井を背負い、安全な場所まで守り抜いた。その佐奈井が、こんな戦に再び巻き込まれてはいけないと、彼女はただ思っている。
「私は危険だと言っているの。あんた正気?」
峰継の前ということも構うことなく、理世は語気を強めた。
「今は香菜実のほうが、ずっと危ないだろ」
彼女のそばにいるのは、息子を平気で見捨てた父篤英だけ。誰が、彼女を守るという?
「あんたが戦う理由もないでしょう」
佐奈井の耳には、香菜実を見捨てろと言っているように聞こえた。
「それ以上言うな」
佐奈井はすごんだ。よせ、と峰継が止めるのも聞こえない。
佐奈井の反抗に、理世は戸惑い、言葉を詰まらせていた。
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