第10話 絵にかいた落胆
「し、翔平…さん…。」
七海は俯きながら翔平の名前を呼ぶ。
「え?
なに?」
思い詰めたような七海の声に翔平は七海を見つめる。
「…
翔平…さんは、私を…。」
翔平は無言で七海の次の言葉を待つ。
「私を…。
私を、抱きたいとは思わないのですか?」
「え?」
翔平は驚いたように声を出すと、七海は顔を上げ翔平を見つめる。
その七海の目には涙が溜まっていた。
「私…、私、魅力ありませんか?
HKLは失格ですか?
…
翔平さん。」
七海の頬に一筋涙が零れる。
それを見た翔平は右手の人差し指で鼻の頭を掻きながら口を開く。
「七海。
僕は、涙や泣き顔は嫌いなんだ。」
「え?」
今度は、七海が驚いて聞き直す。
「うーん。
そうだ!
一緒にお風呂に入ろう!!」
「え?
お風呂?
え?
ええー?!」
呆気にとられた顔をしている七海を後目に、翔平は椅子から立ち上がるとバスルームに消えて行った。
「な、なに?
お風呂?
え?」
七海は慌てて立ち上がると、翔平の後を追ってバスルームに入って行く。
バスルームの浴室では、翔平が浴槽にお湯を入れていた。
「翔平さん?」
「七海、さっきお風呂も掃除してくれたよね?」
「え?
ええ。」
七海は掃除機をかけた後、バスルームに入り、浴槽の中や周りを、洗剤を付けて洗っていた。
「じゃあ、お湯を張るだけでOKだ。
この風呂は唯一自慢のジェットバスなんだよ。
それに専用の液体のソープを入れると、泡がもこもこして気持ちいいんだよ。」
「翔平さーん。
さっきの答えは?」
あまりのことに思い詰めた顔からキツネにつままれたような顔をしている七海を見て翔平は笑顔を向ける。
「さて、お湯がいっぱいになるまで、少し時間がかかるかな。」
そういうと翔平は七海に近づき、七海を横向きに抱き上げる。
「きゃっ!」
抱き上げられた七海は慌てて翔平の首に手を回し齧りつく。
「やっぱり七海は、軽いな。」
「嘘。
ご飯を食べたから重いでしょ?」
「いや、軽いよ。」
小柄な七海は片手でも持てるのではと思うほど、翔平にとっては軽かった。
翔平にしがみついている七海の息が翔平の首筋をくすぐる。
翔平は七海を抱き上げたまま、バスルームを出るとリビングを横切り、洋室のベッドまで歩いて行き、そっとベッドの上に降ろすと、七海はコロンと上半身をベッドに横たわる。
翔平は、七海の横に腰掛けると、横になっている七海に覆いかぶさるようにして、七海の唇にキスをする。
「翔平さん…。
私、生姜焼き臭いかも…。」
「それは、僕も同じだよ。」
そう言いながら翔平は再び七海の唇にキスをすると七海は嬉しそうな顔をして、翔平の首に手を回し抱きしめる。
いつしか二人はキスをしながら舌を絡めあっていた。
七海にとっては、そんな深いキスは初めてだったが、夢中になって翔平を求めていた。
しばらくして翔平は七海から唇から口を離すと、七海の首筋に顔を埋める。
「七海、ポニーテール、痛くないか?」
翔平はベッドにポニーテールが当たり、痛くはないかと気にしていた。
「ううん。
少し痛いかも。
外していいですか?」
「ああ、もちろんいいよ。」
七海の首筋に顔を埋めながら翔平が答えると、七海は片手で縛っていた髪ゴムをほどいて、ポケットにしまう。
その間、ずっと翔平の息が首筋に当たり、くすぐったかったが、だんだんと気持ちよくなってくる。
その内、息だけでなく翔平の唇を首筋に感じ、目を固くつぶる。
(あれ?
この娘は今まで、あまり良い経験をしてこなかったのかなぁ。
じゃあ、じっくりと攻めて見ますか。)
翔平はゆっくりと唇を七海の首筋から耳元にキスをしながら這わせていく。
七海の首筋から、そしてポニーテールをほどいた髪から何とも言えない若い女性の良い匂いが翔平の鼻をくすぐる。
翔平は、今度は七海の反対の首筋に同じように顔を埋め、吸うようにキスをする。
七海はくすぐったかったが、身体が動かなかった。
(なにか違う…)
七海は、ぼやッとし始めた頭で思った。
以前付き合っていた男は、キスをするとき歯が当たるのではないかと思うほど、口を強く押し付けてきたが、翔平のキスは優しかった。
また、顔や首筋もせわしなくキスをされたが、痛いだけで気持良くなかった。
しかし、翔平は優しくゆっくりと時間を掛け、しかも優しく、七海は、初めて気持ちいいと思った。
バスルームの方からお湯がいっぱいになったことを告げるチャイムが鳴った。
「翔平さん?」
七海には何のチャイムかわからず、翔平に尋ねる。
翔平は七海の首筋から顔を上げると、優しく唇にキスをする。
「お風呂がいっぱいになったチャイムだよ。
一緒に行こう。」
「はい。」
翔平は先に立ち上り、七海に手を差し出す。
七海は、その手を掴んで立ち上ろうとしたが、足がおぼつかなくバランスを崩しそうになる。
「大丈夫?
そうだ、ちょっと待ってて。」
そう言うと翔平は整理ダンスの方に歩いて行き、何かを取り出すと戻って来て、七海の膝に持ってきたものをそっと置く。
七海は置かれたものを見ると、白い色のふわふわした大きなバスタオルだった。
「使っていないけど、この前洗っておいたからきれいだよ。」
七海はそのバスタオルを手に取ると、頬ずりをした。
バスタオルは柔らかく、優しいいい香りがした。
(あ、翔平さんの匂いがする)
翔平は、中腰になり七海の背中と脚の下に手を差し込み抱き上げる。
七海はバスタオルを持ったまま翔平の胸に寄りかかった。
(小さな子供になったみたい。
でも、今まで、小さい頃でもこんなことをしてもらったことはなかったな。)
七海が物心ついたころ、実の父親は全くと言っていいほど七海に関心を持たず、それどころか邪魔者のような扱いをされていたので、翔平のような男性に抱き上げられたことはなかった。
翔平は七海を抱き上げたまま、バスルームに入って行き、洗面所でそっと七海を降ろした。
洗面所には翔平のバスタオルが物干しにかかっていた。
翔平は七海からバスタオルを受取ると着替えの服を入れる籠の上に置く。
そして、七海の着ているセーター、ブラウス、ジーパンの順に脱がし、籠の上に置いて行く。
「七海、肩に手を置いて、片足ずつ挙げてくれるかな?」
翔平は、しゃがみ込んで下から七海を見上げるようにして言った。
「え?
こうですか?」
七海は言われた通り翔平の肩に右手を置き、右足を上げると、翔平は自分の腿に七海の右脚を乗せ、ソックスを脱がせていく。
「そ、そんなことまで…。
自分で、脱ぎます。」
七海は恐縮して顔を赤らめた。
「いいから。
反対の脚。」
「は、はい。」
七海は右脚を降ろすと、左脚を上げる。
翔平は同じように、左脚のソックスを脱がせる。
たかがソックスを脱がせてもらっただけだが、七海のとっては初めてのことで、体の芯から熱くなるようだった。
翔平はゆっくりと顔を上げ、下着姿の七海を見つめた。
七海はこの時のために新調した白のフリルのついた下着を着ていた。
「かわいいな。
それに素敵だ。」
七海は下着姿になると、手足が長く、そして、ふくよかな体の線がスタイルの良さを強調していた。
胸や腰回りも着痩せして見えるのか、下着姿だと丸みを帯びていた。
「翔平さん、何だか恥ずかしい…。
それに私だけ…」
翔平の視線を一身に受け、七海は恥ずかしそうに両手で胸を隠すような仕草をする。
翔平は立ち上ると、自分で洋服を脱ぎ始める。
シャツを脱いで上半身裸になると、いつもは洋服の下で気が付かなかったが贅肉があまりついていなく細身だが逆三角形の体形に無駄のない筋肉質の身体がよく見えた。
「…」
七海は、翔平のその体を見て、ついうっとりと眺めていた。
翔平は、ズボンを脱ぎ均整の取れた全身を七海の前にさらけ出す。
「翔平さん。
すごい身体。
スポーツ、やっていたんですよね?」
七海の羨望ともとれる視線を感じ、翔平は右手の人差し指で自分の鼻の頭をひっかく。
「まあ、浅く広くだけどね。」
翔平はおどけた様にボディビルのポーズをとって七海に見せる。
「うふふふふ。
似合っている。」
七海はすっかり緊張が解けていた。
「さあ、寒くなるから入ろう。」
「翔平さん、先に入っていてください。
髪を結わいて直ぐに行きますから。」
「わかった。
じゃあ、七海は、このタオル使ってな。」
翔平は、素直に返事をすると棚からタオルを出して、七海に渡すと、履いていたトランクスを脱ぎ、全裸になり、干してあったタオルで前を隠す。
(す、すごい…。
あんなのが、入るのかしら…)
七海はタオルで前を隠す前に翔平の男性を見て目を丸くしていた。
「じゃあ、先に入っているからね。」
そう言って翔平は浴室の中に入って行った。
七海は、髪をアップに結わくと、下着を脱いで籠の上に置く。
浴槽の中からは翔平がお湯を流している音が聞えていた。
籠の上に置いてあった服は、軽く皺にならないような感じで置かれていた。
七海はその間に下着を挟み込む。
そして、翔平から渡されたタオルで胸から腰のあたりまで隠すように片手て押さえると、浴槽のドアをノックする。
「翔平さん…。
入っていいですか?」
「もちろん。
入っておいで。」
浴室から翔平の声が聞え、七海はそっと浴室のドアを開け、中を覗きこむ。
浴室は明るく、そして中から白い靄と石鹸のいい香りがして来た。
広い湯舟には、翔平が浸かりながら七海の方を見ていた。
七海は、そっと湯舟に近づいて、しゃがみ込む。
「翔平さん、少しだけ向こうを向いていてくださいね。」
翔平が言われた通り、反対側を見ていると、お湯を身体に掛けている音が聞えた。
「もういいかい?」
「まーだだよ。」
七海の楽しそうな声が聞える。
お湯を流す音が止み翔平がもう一度「もういいかい?」と尋ねる。
「いいですよ。」
七海の声で振り返ると、前を隠していたタオルは取ったが、片手で胸と片手で下半身を隠し恥ずかしそうにしている七海がいた。
その姿を見て、翔平の心臓の鼓動は激しく波打った。
(本当に素敵な、可愛い子)
翔平は体勢を直して、手を出して七海を呼び込む。
七海は頷いて湯舟のへりに片手を置き右足からそっと湯舟に入る。
湯舟にはバスソープが入っているのか香りとともに泡立っていた。
「七海」
翔平が七海の方に両手をあげる。
七海は両手でその手を掴むと静かに湯舟に浸かって行く
翔平の目の前には七海の形のいい乳房があらわになっていた。
翔平は七海の手を掴んだまま、自分の方に手繰り寄せる。
七海も抵抗することなく、自分から翔平の脚の上に乗り、翔平に抱きつくと、翔平の脚には七海の柔らかなお尻の感触があった。
「凄い。
広々している。」
七海は翔平に抱きつきながら顔だけキョロキョロさせ、二人で入っても足が延ばせる浴槽の広さに驚いていた。
「それだけじゃないよ。」
翔平は上半身を捻じり、後ろにあるスイッチを押す。
すると“グオーン、グオーン”とモーターが回るような音がした後、“シュパー”と湯舟の横にある穴から空気の泡が勢いよく出てきて、湯舟を泡立てる。
「きゃっ、凄い泡。」
七海は両手で泡をすくうと、子供のように“ふぅ”と泡を翔平の顔に飛ばす。
「こら。」
翔平は笑いながら七海の腕を掴んで抱き寄せ、無防備になった七海の右肩にキスをする。
「あっ。」
七海は静かに翔平の方を向くと、翔平は七海を抱き寄せ、唇にキスをする。
そして十分にお互いを確かめ合うと、七海の顎、顎の下、首筋と順に唇を這わせていく。
七海は、翔平の唇が首筋に触れた時、ぶるっと身震いした。
翔平は右手で下から七海の左の乳房に触れる。
ゆっくり乳房をマッサージする様に揉んだ後、乳首を軽く摘まむ。
七海は、眉を寄せ少し腰を浮かせた。
翔平は唇を、七海の肩から徐々に下に向かって唇を這わせていき、七海の右の乳房にたどり着く。
(なんて柔らかで、弾力性があるんだろう)
翔平はそう思いながら丹念に唇を這わせると、そっと乳首を口に含む。
七海の乳首は硬くなっていた。
翔平がその乳首を軽く吸ったり、舌で転がすようにすると七海は、ぶるっと再び身震いをする。
丹念に時間を掛けた後、翔平の唇は右の乳房から左の乳房に移動し、同じように時間を掛ける。
七海は、たまらず翔平の頭に腕を回し、力を込める。
翔平も両手で七海をお尻に手を回し、撫でまわしながら、乳首を吸い続ける。
いつしか翔平の男性自身が、七海の女性自身に触れ、七海に刺激を与える。
(ああ、いや…。
もう、もう…)
七海は、声が漏れそうなのを必死で我慢していた。
すると、“プシュー”と勢いよく出ていた泡が止まっていく。
「え…?」
「ああ、この泡、時間が経つと自動的に止まるんだよ。」
「そうなの…。」
七海は翔平に抱きついていた腕を弱め、力が抜けたように寄りかかる。
翔平は七海の身体を湯舟の中で横抱きにする。
髪をアップにした七海の小顔には玉のような汗が光り、興奮のせいか、それともお湯でのぼせたせいか、顔が朱くなっていた。
「七海、そろそろ出ようか?」
「うん。」
翔平は七海を起き上がらせると、自分も立ち上り、足元がおぼつかない七海の腰に手を回し、洗面所に連れていく。
洗面所の空気は冷たく、のぼせかけた二人には気持ち良かった。
二人は、バスタオルでお互いの身体についた水滴を軽く拭くと、七海は上半身に、翔平は下半身にバスタオルを巻きつけると、再び翔平は七海を抱き上げ、リビングを抜け、洋室のベッドの上に七海を運ぶ。
外は昼下がりで明るかったが、レースのカーテンが二人を隠していた。
翔平はベッドの掛け蒲団を剥がすと、シーツの上に七海を横にした。
そして寒くならないように毛布を七海に掛けると、サイドボードの当たりで何か探し物をしていた。
「あれ?
ない…。」
「え?
翔平さん、どうしたんですか?」
七海も翔平が何を探しているのか気になって声をかける。
「いや…、なんでも…。」
しばらくして、落胆した顔で翔平がベッドの腰掛ける。
「翔平さん?」
「七海、ごめん。
今日はこれ以上できない。」
「え?
どうして?」
七海は不安そうな顔をして翔平を見る。
「いや、七海がどうのじゃなくて、その、コンドーさんがないんだ。
買っておいて、そのサイドボードの上に置いておいたはずなんだけど…。」
翔平は明らかに落胆した声を出す。
「も、もしかして、コンド―さん…って、薬局の袋に入った箱みたいなものですか?」
「あ、ああ。」
「そ、それって、昨日、私が…。」
七海は顔面を蒼白にしながら言った。
「え?
なに?」
「昨日、朝、ゴミだと思って捨ててしまって…。
ご、ごめんなさい。」
七海は申し訳なさそうに謝る。
「そうか…。
まあ、仕方ない。
続きはまた今度っていうことで…。」
翔平は七海の裸体を見て、胸を膨らませていただけに、落胆が激しかった。
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