98.緊張
側近たちと協力して作った美味しい夕食も食べ終え、いよいよ寝るだけとなった時アルミリアから集合をかけられた。
ぞろぞろと僕らが集まると何やら嬉しそうな顔でアルミリアがみんなの前に姿を現した。
「みなさん今日もお疲れ様でした。そしていよいよ、明日がこの修行の最終日となります」
そう言ってアルミリアは右手をさっと突き出した。
そこには4本の棒が握られている。
「明日はその集大成として実戦をして頂こうと思うのです。対戦相手はこのくじで決めましょう」
そう言ったアルミリアの顔はやけににこやかだ。
そこでふと側近が手を挙げた。
「あのー、くじは4本ありますが私とウィッチは別々でくじを引くということでしょうか?」
そう言われてみればそうだ。
側近とウィッチはコンビで修行をするように言われて実際にそうしてきた。
隼人と彩華もセットなのだからくじが1本余るのだ。
ここで僕は嫌な予感がした。
そーっとアルミリアの顔を見ると益々嫌な予感が募る。
そのアルミリアが満面の笑みで自慢げに口を開いた。
「いいえ、予定通り側近さんとウィッチさんはコンビでやってもらいます」
「じゃ、じゃあもう1本って······」
僕はそう言ってそーっとアルミリアの方に手を出した。
「あら、理さん勘がいいですね。そうです。私の分です。私も参加します」
やっぱり。
僕の嫌な予感が物の見事に的中した。
夕食で呼びに来た時からやけにそわそわしていたのはこれだったのかとようやく腑に落ちた。
戦闘狂のアルミリアがこんな絶好の機会を逃すはずがない。
この2週間必死に修行した僕らの力を味見しようとするのは当然のことと言える。
だけどこれのメリットは何もアルミリアだけにあるわけではない。
生の女神サマリアとの決戦を前に同程度の力を持つはずのアルミリアと手合わせできるのだからどこまで自分の力が通用するのか、見定めることが出来るのだ。
ともなればこれは僕らにとっても絶好の機会と言える。
そう考えられるようになると僕も心做しかわくわくしてきた。
よしやってやるぞ、と気合が入る。
「さて、ではそろそろ運命のくじ引きといきましょう」
アルミリアのその言葉で僕と側近と隼人がそれぞれ棒を掴む。
そして一気に引き抜いた。
「棒の先にはなんと書いてありますか?」
アルミリアにそう問われみんなが棒の先を確認する。
僕の棒には 2 とだけ書かれている。
「私の棒は1と書いてあります」
「俺のも1だ」
「はいでは決まりですね。明日の組み合わせは隼人さん、彩華さんコンビと側近さん、ウィッチさんコンビが初めに対戦です。そしてその後私と理さんが対戦となります」
僕はみんなにバレないように小さくガッツポーズをした。
もう一度アルミリアとやれる。
それが嬉しかった。
これを “嬉しい” と感じられるのもこの2週間の修行がそれだけ自信に繋がっていることの現れだった。
ようやく僕にも護るための力が身についた。
そんな実感が持てているのだ。
「では対戦相手も決まったことですし今日はもう寝ましょう」
「はい」
そうアルミリアに呼びかけられ、各々がそれぞれの寝床へと散っていった。
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「ん······」
朝陽が射し、微睡みに終わりを告げる。
寝ぼけ|眼(まなこ)を擦りながら開くと綺麗な青空が広がっていた。
14日目。
いよいよこの修行も最終日を迎えた。
のそりと起き上がって伸びをする。
朝の心地よい空気を肺いっぱいに吸い込んで吐き出した。
よし、やってやるぞと沸々と気力が湧き上がってくる。
そんな僕の後ろからコツコツと足音がする。
「おはようございます、理さん」
「アルミリア様、おはようございます」
「その様子ですと体調も問題なさそうですね。朝食にしましょう」
「はい」
そうしてアルミリアに連れられて行くと側近と彩華はもう起きていて朝食の準備をしていた。
どこから調達されているのかはわからないが食事は毎日欠かさず提供されている。
しばらくして隼人、次いでウィッチの順に起きてきた。
全員揃ったところで軽めの朝食を済ませる。
食べながらみんなの顔を見回すとどこか落ち着かない雰囲気を醸し出していた。
それもそうだ。
いよいよこれが最後の仕上げなのだから。
各々が護りたいもの、それのためにここまで踏ん張って力をつけてきた。
その成果が試される時がもう目前に迫ってきているのだ。
そわそわせずにはいられなかった。
「ではそろそろ行きましょうか」
全員が食事を終えた頃、アルミリアの一言で皆の表情が変わった。
研ぎ澄まされた刀剣のような、鋭く美しい顔。
僕も負けじと気合を入れる。
どこまで通じるか、そんな弱気ではなくアルミリアを倒す。
そう心に誓って。
「では皆さん準備はいいですね?」
隼人はこの緊張を楽しむように微笑を見せながら側近たちを睨んでいる。
彩華は隼人の背後に立ち瞳を閉じて魔力を高めている。
側近はいつもと変わらない落ち着いた姿勢で火蓋が落とされるのを今か今かと待っている。
ウィッチは空を見上げ一度大きく深呼吸するとキッと睨みを効かせた。
それを見てアルミリアも準備万端と判断する。
右手を天に掲げた――
「始め!!!」
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