78.護りたいもののために僕らのするべきこと


「はい。ではまず理さんとウィッチさん、隼人さんと彩華さんの2人組に別れてください。」


 アルミリアに言われた通り、僕らは指定されたペアで固まる。


 何をするんだろうか。

 まさかこのペアでまた手合わせを?

 あ、いやでも彩華さんは戦闘には全く向かない補助がメインの魔法しか使えない。

 だとしたら何を···?


 と、そんな感じで僕がアルミリアの意図を読み取ろうと思案しているとアルミリアがその答えを口にする。


「では、当面はこのペアで組んで修行をしていきましょう。なぜペアを分けるか、それは理さんたちと隼人さんたちでは成長の仕方が決定的に違うからです。」

「成長の仕方···ですか?」

「えぇ。そうです。もうご存知のことと思いますが隼人さんと彩華さんにはレベルというものが存在しています。これは人間の特性ですね。そしてこのレベルを上げるためには経験値が必要です。酷な言い方ですが隼人さんは呪いをかけられていた時にこれでたくさんのレベルアップを果たしました。」


 そう言われて隼人と彩華の顔がくもった。

 アルミリアも事情を知っているからそれを今更咎めるつもりは無いのだろうが、隼人たちからしてみれば傷に塩を塗りこまれたような気持ちだろう。

 それでもその気持ちをなんとか心の奥底に押し込んで再び顔を上げる。

 それを確認したアルミリアは話を続ける。


「つまり、隼人さんたちは理さんたちと同じ修行を行ってもレベルが上がらないため一向に成長できないのです。ですから私が敵をご用意します。ひたすらその敵と戦ってください。そうですね···。今日のノルマは50体としましょう。」

「分かりました。よし、彩華頑張るぞ!」

「うん! サポートなら任せて!」


 2人お互いの顔を見て頷きあった。

 そして次にアルミリアは僕らの修行内容について話を始めた。


「そして理さんたちの修行ですが魔力を引き出すコツを掴んでもらいたいと思います。」

「コツ···ですか?」

「はい。コツです。お二人はとても高い潜在能力を秘めています。それは間違いありません。ですがそれをほとんど使えていないのが現状と言えます。なぜなら使い方をご存知ないからです。人も魔族も潜在能力の9割は使わずじまいとも言われています。魔力にいたってはそれがさらに顕著なのです。つまり、これの引き出し方さへ覚えてしまえば魔力というのは格段にアップします。」


 それを聞いて僕とウィッチは互いに顔を見合わせた。

 どちらも驚きと嬉しさの混ざりあった表情をしている。


「その潜在能力を引き出すためにあたいらは何をすればいいんですか? 」

「はい、まずは坐禅を組んでいただきます。」

「「坐禅?? 」」


 それを聞いて僕とウィッチは声を揃えて再び顔を見合わせた。

 どちらも疑問一色の表情をしている。


「ただ坐禅を組むだけ、という訳ではありません。坐禅は精神統一をするための手段として取り入れます。肝心なのはその先です。精神を統一させて自分の奥底に眠る力に呼びかけるのです。これが1番難しいところです。恐らく、初めは何も起きないことに焦りや苛立ちなどを感じてしまうと思います。でもそこでせっかく統一した精神を崩さないように気を付けてください。|いつかは(・・・・)その時が、魔力の方からお二人へ呼びかけてくれる時が来ます。そこまでは忍耐強く頑張ってください。ですがそこまで来てしまえばあとは簡単です。その感覚を絶対に離さないように細心の注意を払いながら1度だけ、自信の持てる最高の魔力を持って魔法を放ってください。その時の感覚がコツとなります。」


 なるほど···。

 つまり1度自転車に乗れればあとは体が覚えているのと同じ感覚、というわけだ。

 乗れるようになるまでは難しいけど乗れてしまえばあとは苦労することはない。

 それがコツを掴んだということなのだろう。


 ウィッチを見ると彼女も彼女なりに納得したのだろう。

 何度かうんうん、と頷いている。


「では皆さん、修行内容について質問はありますか?」


 これには全員が首を振った。

 そして全員の目に自然と力が宿る。

 自分をより高みへ、そして護るべきもののため、護るための力を手に入れる。

 その覚悟をみんなが再確認した瞬間だった。

 それを見たアルミリアも安心したように少し微笑んだ。


「その様子でしたら心配なさそうですね。2週間のうちもう半日が経過しようとしています。時間がありません。でも決して焦らないようにお願いします。焦りというものは総じて身を滅ぼすものです。みなさんなら必ず成し遂げてくださると私は信じています。では、行きましょう!」

「はい!!」


 こうして護りたい物のために僕らは厳しい修行へと足を踏み入れるのだった。

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