77.塵
戦いが始まるということで避難も兼ねて僕は隼人たちのもとへ向かった。
「隼人、怪我はどう? 」
すると隼人は思っていたより元気そうに笑顔を見せて答えてくれた。
「あぁまぁだいぶ良くなったぞ。もうほとんど痛みもないし。彩華、ほんとありがとな。」
「これぐらいしか私の役目は見つけられそうにないからね。だからどんなに怪我しても私が治してあげるから、どんどん頼ってよね。」
「いや、できれば彩華の世話にならない方がいいんだけどね···。」
そう言って隼人は苦笑いした。
頼りにしたいのは山々だがそもそも怪我をおわないのが一番いいことなのだ。
彩華も言われてからそれに気づき、少し恥ずかしそうに小さな声で謝っていた。
「大丈夫。彩華のことは頼りにしてるから。さて、そろそろ始まるんじゃないか?」
隼人のその言葉の通り、僕らがアルミリアたちの方を振り向いたちょうどその瞬間に戦いの幕が切って落とされた。
例のごとく、アルミリアが先に仕掛ける。
両足で強烈に地面を蹴飛ばし、弾丸のように2人の元へと飛んでいく。
「土魔法!!! 」
ウィッチがそう唱えた。
それを見てアルミリアは標的をウィッチに絞る。
そしてアルミリアと2人の間に5重の岩壁があっという間に完成した。
しかしアルミリアはそこに何も無いかのように岩壁を容易く打ち砕き、一瞬でウィッチに肉薄する···はずだった。
「あれ? ウィッチが···。」
そう、この一瞬の岩壁の目隠しを利用してウィッチは僕らの視界から消えたのだ。
アルミリアもそれに気づき、踵を地面に擦らせながら急停止する。
その踵のあとは大きくえぐれておりアルミリアのスピードの恐ろしさを物語っていた。
そしてその一瞬のすきを突いて側近がアルミリアへと仕掛ける。
銀色の髪をなびかせながらの強烈な拳の連打。
それは身体能力をフルに使った、まさに息つくまもないほどの攻撃。
しかしアルミリアはそれを左手の親指のみで受け止める。
それもとても楽しそうに。
「側近さん、なかなかやるじゃないですか。」
そう言ってアルミリアは空いていた右腕を大きく振りかぶる。
そしてそれを待ってましたとばかりに側近が叫ぶ。
「今です!!! 」
そう言い終わった時にはアルミリアの右腕は側近の右肩に|言葉通り(・・・・)めり込んでいた。
そしてそれと同時にアルミリアが右脚で後ろ蹴りを繰り出す。
するとそれに合わせたかのようにウィッチが地面から現れ、腹部に右脚が突き刺さった。
その右手には火魔法で作った燃え盛る炎の剣を握りしめて。
「「ゴハッ···!! 」」
ウィッチと側近、2人の呻き声がシンクロし、これまたシンクロして5mほど弾き飛ばされて止まった。
そしてそのまま動き出す気配もない。
「では、手合わせはこれでおしまいです。皆さんお疲れ様でした。」
そんなアルミリアの顔は久々のストレス発散にスッキリしたと言わんばかりに笑顔を浮かべていた。
僕と彩華でそれぞれ側近とウィッチを隼人の横まで運ぶ。
側近は左肩が誰が見てもわかるほど窪んでおり、アルミリアの拳の威力を物語っていた。
僕らが2人を運び終えるのを見るとアルミリアの顔が元の、キリッとした顔に戻る。
「では、お二人の治療の時間も兼ねて私から今後の修行の方針をお伝えします。理さんと隼人さん、彩華さん、ウィッチさんは初めの1週間はひたすら魔力を高める訓練を行います。魔力量で言うと理さんが1番高いですがそれでもサマリアと比べればまだまだ子どものお遊戯、といった所でしょうか。これではとてもではないですが太刀打ちできません。塵も積もれば山となるとも言いますがいくらつもろうが所詮塵は塵です。そんな文字通り吹けば飛ぶようなものでは駄目なのです。」
僕らはこれに黙って頷いた。
アルミリアの言う通りだ。
塵の山ではどうにもならない。
一人一人の力は小さくとも、と言う事もあるがそもそも今の僕らじゃ小さすぎるのだ。
それは今回の手合わせで痛みと共に実感出来た。
そして今度はアルミリアは側近の方へと顔を向ける。
「そして側近さんは初めの1週間は私と手合わせをしつつ、攻撃の際の型というものを習得してもらいます。先程の攻撃も魔族の中では相当お強いのだなという印象は持ちました。でも、そこで終わりです。つまり、サマリアから見れば|大したことない(・・・・・・・)のです。ですからまずは基本から、習得の度合いに応じてその先はお教えします。」
「はい。わかりました。」
側近はまだ治療の済んでない肩を庇いながら小さく頷いた。
「治療にはもう少し時間がかかりそうですね。何か聞いておきたいことなどはありますか?」
すると隼人が質問を口にする。
「じゃあ俺から質問。ここにほかの人たちが入ってきたりすることは無いんですか? 時間以外はここは元いた場所と変わりがないように見えますが。」
「それでしたら心配いりません。初めにも言いましたがここは時間軸の違う場所です。つまり、異空間というやつです。隼人さんたちの本来の世界も異空間と言えます。そしてこの異空間は先程私が作ったものです。つまり、ほかの人がここを見つけることは不可能なのです。これでご理解頂けますか?」
「なるほど···。わかりました。」
「他にはないですか?」
これにみんなが首を振った。
これで質問タイムはお開きとなる。
その頃には側近とウィッチの治療もほぼ終わっていた。
隼人と比べればどちらも怪我の具合が軽かったようだ。
「では、お二人の治療も終わったことですし早速修行へ移りましょう。」
「はい。よろしくお願いします。」
こうして僕らは塵からの進化の道のりを進み始めるのだった。
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