65.魔の手
「よぉし30秒だ。さて、始めるぞ!! 復讐の時間だァ!!! 」
アルシアのその一言を合図に魔人たちは一斉に動き出した。
僕はまず腕を出現させる影、その1つ1つに意識を集中させる。
その対象は250を超える。
これまでとは比べ物にならないほどの場所から同時に腕を出現させ、それでいてより強く、より繊細さが求められることを今僕はしようとしている。
それを念頭に置いて掌から影へと意識を飛ばす。
目を見開く。
そして全身全霊を込めて叫ぶ。
「闇魔法ッ!!!!! 」
瞬間、魔人一体につき6本の腕が出現する。
そしてそのうち4本が足と腕を固定。
残る2本でヘッドロックをかける。
しかし流石魔人と言うべきか、そう簡単には絞めきれない。
むしろ首の力だけでどんどん緩められてしまう。
「ヴォォォォ!! 」
魔人の低い唸り声があちこちで響いている。
このままじゃもたない。
でも僕だって、僕だって負けてたまるか!!
「闇魔法ッ!!! 」
闇魔法の重ねがけをする。
こんなことした事など無かったが案の定、体は徐々に悲鳴をあげ始める。
体のあちこちで筋の切れる音が聞こえている。
それでも今は構っていられない。
もっと掌に魔力を集中させる。
「闇魔法ッ!! くっ···。おらァァァァ!!! 」
3度目の重ねがけ。
つまり各腕の力は通常の3倍に跳ね上がる。
すると徐々に魔人の首が軋み始める。
腕も魔人の抵抗虚しく極まり始める。
それでもまだ決定打にかける。
もっと、もっとだ。
まだ足りない。
4度目のやみま···あれ?
突然目の前が赤くなる。
鼻からも耳からもドロっとした生温い|液体(・・)の流れる感覚があった。
そしてそれと共に頭の中で警鐘が鳴り響く。
これ以上は体がもたない、と。
でも今を逃せばこの魔人の大軍は絶対に倒せない。
ならば今無理せずしていつするのか。
やるしかない!
そんな自暴自棄にも近い無謀な考えで突っ込もうとしたその時だった。
「回復魔法! そして魔力強化! 」
途端に体から聞こえていた悲鳴が鳴りやみ、体中に力が漲る。
横目で声のした方を見ると彩華が両手をこちらに突き出していた。
あとでお礼言わなくちゃななんてことを考えながらもう一度全魔力を掌に集める。
そしてその全てを手から放つ。
「闇魔法ォォォォ!!!!! 」
“ガギンッッ!!! ”
という盛大な音とともに250を超える首が一斉に90°を超えて折り曲がる。
そして一瞬、間を置いて“ドスンッ!”
と音をたてて倒れ込んだ。
「ハァハァハァ···。お、終わった···。」
そう思った通り、魔人は再び動き出すことは無かった。
それに安堵した瞬間、一気に疲労感が津波となって押し寄せてくる。
たまらず僕は仰向けに倒れ込んだ。
「なっ···お、おいおいおい。どうなってんだ!? 魔人ってめちゃくちゃ強ぇんじゃなかったのかよ!? だから俺は復讐にお前らを利用したってのに···どういう事だよ!!! どうなってんだよ!!!! 」
アルシアの悲痛な叫びが聞こえてくる。
返事をしてやりたいけどあいにく疲労あら声も出せない。
どうしたものかと思っているとアルシアのすすり泣く声が聞こえてきた。
復讐のためにと超強力な戦力を整えて万全を期してここに来たはずが戦闘開始から5分足らずで壊滅したのだ。
七光り息子には少々手厳しい現実かもしれない。
すると今度は複数の足音が僕に近づいてくるのが聞こえる。
見上げると9人全員が僕のことを取り囲んでいた。
そして隼人が目が半開きの僕の顔を見て肩を揺さぶる。
「理! 大丈夫か!? 意識はあるか?」
「う、うん。なんとか···。それよりみんなは怪我はない? 」
「馬鹿野郎!人の心配してる場合かよ。でもみんなお前のお陰でかすり傷一つない。ってそれはいいんだよ!お前はどうなんだ?起きれるか?」
僕は無言で首を振る。
それを察して隼人はゆっくりと僕のことを寝かせてくれた。
「あとはあいつをどうするか、だな。俺としちゃレイラを含め人間にあんなことしてくれたんだ。この場で斬り捨てても文句はねぇぜ。」
「まったく···。バティは野蛮だねぇ。あたいとしちゃ一先ずこいつから情報を得るのが先決だと思うがね。側近はどう思うんだい? 」
「私もそれが優先だと思います。何せ我々はこれから人間の街へと潜入しようとしているのですから。情報はいくらあっても無駄になることは無いはずです。それに魔人の解除方法が解明できれば次は理にこんな無茶をさせなくても済みます。」
これには全員が大きく頷いてくれた。
何か僕が特別、大切にされているようで少々照れくさかった。
「なら決まりだね。バティ、そういう事だけど我慢してもらえるかい? 」
「あぁ。わかった。お前らに任せるよ。」
そう言ってあっさりと引き下がった。
「しかし理も無茶苦茶なやり方をするな。守ってくれと言うから何事かと思えば闇魔法を重ねがけしたヘッドロックとはな。俺はそんなこと考えもしてなかったぜ。」
そう言ってバティは感心した様に何回か頷いた。
実を言うとあれはほんとに賭けだった。
魔人についてはなんの情報も無かった。
ましてや弱点なんて以ての外だ。
そんな状況で僕が至ったのは魔人も元は人間というところである。
単純にでかくなっただけというような代物では無いのだろうが体の構造に大きな違いがあるわけがない。
そんな賭けにでて見事勝ったのだ。
もしかしたら他にもっと効率の良い方法があったのかもしれないが僕にはこれしか思いつかなかった。
そして問題はこの後だ。
「ねぇみんな。この魔人の亡骸はどうしよっか···。お墓を作ろうにもこんだけでかいと埋めれないしかと言ってここに放置ってわけにはいかないし。」
するとアルシアを水魔法で作った氷で拘束したレンがこちらに近づいてきた。
「俺は火葬してやるのがいいかなって思う。こいつらに罪は無いんだ。だからせめて弔ってやるべきだろ?それに火葬ならそこまで場所を必要としないしな。」
火葬はたしかにいい案だ。
レイラさんたちにはこれっぽっちも悪いところがない。
アルシアのせいで、巻き込まれたのだ。
殺したのは僕だ。
だからせめて弔ってあげる責任があると思う。
「そうだね。今から火葬をしようか。」
「理、ちょっと待ってくれ。」
「なに? 」
「魔人の火葬なんだが一体だけ残しておいてくれないか? 仏さんにこんなことするのは少々気が引けるが今後のために弱点を探りたい。つまり解剖をしたいんだ。」
「わかった。僕としてはあまり気が進まないけど側近にそれは任せるよ。でも終わったらちゃんと弔ってあげてね。」
「あぁ。わかってる。」
こうして僕たちのせいで犠牲になったあまりにも多い人たちを火葬という形で弔うことが決まった。
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