35.説得
「実は今後の作戦の事なんだけどね。僕を含めて数人で人間の街に潜入して王族を討とうと思うんだ。」
「それはまたどうして王族を?たしかに相手の中枢を狙うのは作戦としては当然ではありますが。」
するとバティが身を乗り出してきた。
「それについては俺から話す。」
「あなたは?」
「あ、ごめんごめん。まだ紹介してなかったね。彼は人間のバティ。ここに来る途中のフーガ村で怪我をしているところを見つけたんだ。怪我の治療をエルフにしてもらって今回の説得の旅に同行して貰った。」
「そういう事でしたか。」
「まぁそういうことだ。で、なんで王族を討つのかって言うとな···。」
そうしてバティは人間の街での仕組みや人々の暮らし、考えについて手短に話をした。
「人間を代表して俺からお願いする。俺たち人間を救ってくれ。あいつらさえいなければ俺たちに戦う理由なんてなくなるんだ。」
「なるほど。たしかにそれならば人間の王族を討つというのは至極真っ当な作戦と言えますね。でも我々は協力してあげることはできないのです。理由は···ご存知ですよね。」
「うん。知ってる。」
彼らがこの戦いに参加しなかった理由。
それは······
「ヴァンパイアが元は人間だから、でしょ?」
「その通りです。我々は元々人間でした。しかしこの世に多くの未練を残して死んだ者はこうしてヴァンパイアとして生まれ変わるのです。そのため我々は人間の血は吸いますが殺すことは極端に嫌います。だから戦争という殺し合いに我々は参加したくないのです。今回も同じです。いくら相手が悪であろうと人間であることに変わりはないのです。それを殺す手伝いをすることは我々にはできません。」
バティは何か言いたげな顔をしているが上手く言葉にできないのか何も喋らない。
ここで今まで静かだった老ドラゴンが口を開いた。
「お前さんたちは“殺さなければ”わしらに協力してくれるということじゃな?」
「どういうことです?」
老ドラゴンはあごひげを撫でながら答えた。
「この作戦で王族を討つのではなく捕らえるとすれば良いのじゃろ?捕らえたあとの処遇は人間に任せれば良いし戦争も終わるはずじゃ。」
そう言われて長は少し悩んでいるように見える。
「たしかにそれであれば我々が断る理由もないのですが···。」
「なんじゃ?まだ困ることがあるか?」
「本当のところどういう認識でいるかは分かりませんが我々のことは兵たちの多くが怖くて逃げた弱い存在だと思われていやしないかと思いまして。我々はそう思われていようが一向に構わないのですが兵たちからすればどう思うのか···。」
「大丈夫。それは僕が説得する。」
すると少し顔が明るくなったように見えた。
「本当ですか?それでしたら殺しはしないという条件でその作戦には協力いたします。」
「ありがとう。良かったぁ。ここまでの旅が無駄足にあらなくて。バティもありがとね。ここまでついてきてくれて。」
「いやいやこちらこそありがとうな。これで俺たちも救われる。」
こうしてヴァンパイアの説得は無事成功した。
時計を見ると5時半。
すると隣から腹のなる音が聞こえた。
「おっと、すまねぇ。」
バティが恥ずかしそうに頭をかいた。
「では少し早いですが夕食と致します。準備させますのでしばらく待っていてください。」
「おっ、そいつはありがたい。」
バティはすでに目を輝かせている。
バティはもしかして食べることが人生の1番の楽しみなんじゃないかと思う。
こうして僕らはヴァンパイアたちのもとで夕食をとることとなった。
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