第10話 開演

 ーー『救国のパレード』、まもなく開演です!ーー


 闘技場の支配人を名乗る、9つの尻尾を持った狼男による場内アナウンスがそれを告げる。沿道には多くのゲストが詰めかける。皆コスプレしているからゲスト自身がキャストのように振る舞える。ここ東京異世界ランドの最大の魅力といえる。オープン間もないというのに予習を済ませフリ真似をするゲストが半数。残りの半数もパレードを彩る群衆としての役割をしっかりと演じている。右では今日出会ったばかりのレアな姫キャラ同士が合わせているかと思えば、左では持参した商人風の衣装で不思議な踊りを披露する一団もある。はじめから合わせてパーティーを形成している生粋のレイヤーさんもいれば、仲間を現地で募り異世界での無双を夢想するスレイヤーもどきもいる。新たなホットスポットの出現に、TV局の取材班も来ている。皆がコスプレをしているから、本当に異世界に来てしまったかのような錯覚を起こさせる。沿道は既に狂喜乱舞といった様相を呈す。


 ヨーロッパの中世の楽隊を思わせる行進曲が流れる。ラッパとドラムのリズムに合わせ馬車馬に見立てた電動バイクが大きなフロートを牽引する。『はじまりの森』での死闘、『大きな砂漠』での熱闘、『闇の草原』での共闘。その合間に喧嘩別れや再会、レベル上げのシーンが織り込まれ、東京異世界ランドの見どころを紹介している。同時に、それはこの日のアイリス達の行程でもあり、『異世界ウオッチ』のあらすじでもある。異世界の群衆がそれに気付いていないに過ぎない。最後の4つのフロートは牢屋のようになっている。その中に招待された4組が入っている。群衆の歓声は、次第にその4つの牢屋に集中する。


 ーーさぁ、いよいよはじまる、本日のメインイベント!ーー


 場内アナウンスが、いつもとは違うイベントのはじまりを告げる。牢屋から出た4つのパーティーが紹介され、『闘技場』の舞台の上に立つ。白と赤、8人ずつだ。


 ーーレディースアンジェントルメン!ーー


 お決まりの挨拶が闘技場の空気を沸騰させる。売れないラノベ作家が考えそうな、ローマのものとは違うギリシアの神殿風の4本の柱。古代の建築の粋を集めたような威風堂々とした佇まい。上手には大きなトロフィーが飾られ、下手には龍が鎖に繋がれている。中央で、先ずは4人の女性が力強いダンスを披露する。普通の人間ではない。3つの尻尾を持つ狼娘達だ。


 ーーさぁ、もう目が離せない! ドッグファイトがはじまるぞ!ーー


 場内アナウンスに合わせて、件の4人がドッグファイトをお色気たっぷりに実演。現実世界でいう、尻相撲だ。ポロリこそなかったが、チラリだったらあったかもしれない。異世界人ならこんなときにどう振る舞うのか、それを考えた観衆は、否が応にも盛り上がる。現実には許されないような表現も、ここでなら許される。いや、求められているような気がする。そういった1種の集団催眠効果がある。


 ーー勝敗は、勝ち抜き戦だっ!ーー


 歓声はさらに大きくなる。

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