第11話 めしまず

 吾輩はネコである。

 名前はちび太。



 ご主人様は今日も勤め先のスーパーで、値引きシールが張られた出来合いの総菜を買ってきて晩御飯にしていた。


「料理は時間がかかる。料理をするならその時間を小説を書くのに使いたい」


 などと意識高いことを言っているものの。

 長い付き合いの吾輩は、単にご主人様が料理がへたくそなだけだと知っている。


 先日も何を思ったのか半年ぶりに料理を始めたと思ったら、いきなり玉子焼きを真っ黒のパリッパリに焦がしてしまって、


「うん、メシマズ――料理がヘタクソなヒロインの気持ちが分かったな。つまりこれは料理を失敗したんじゃなくて、純然たる創作活動の一環といえる」


 悔し紛れにそんなことを言っていた。


 そして、


「せっかくだ、メシマズヒロインのまずい飯を食べて『おいしいよ』と言ってみせる主人公の気持ちにもなってみようじゃないか。食べ物を粗末にするのはもったいないしな」


 真っ黒な玉子焼きを時々涙目になりながら、もそもそ完食するご主人様だった。


 ご主人様はあまりお金がないので、食べられそうなものはたいてい何でも食べるのだ。

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