戦の"華"

 リヴィエラ湖の湖岸の一部に州兵たちが押し寄せていた。

 彼らが構えるのは全時代的な弓やいしゆみではなく、魔導機製の銃であった。


 点火薬を用いて銃身内の爆発を起こして、金属の弾丸を撃ち出すという機構も研究されていたが、暴発の危険や装弾から発射までに複数のアクションを要するなどの欠点から、彼らの銃に採用されているのは魔導機構である。


 特に多いのは長筒の、複数の魔導機構を組み込んだもので《ブリューナク》と呼ばれるシリーズである。

 光弾の生成、発射、加速、これらを各機構で分担することで、貯蔵霊子を増やし、筒内の複数の加速器を使い分けることで弾の威力の調整を可能にしたことで、制圧から殺傷まで幅のある用途を実現している。


 兵たちは引き金を引くと、一心不乱に工場へと歩く《竜》の方へ、一斉に光の奔流を放った。

 まるでピアノの弦のように線を描きながら、光は《竜》の眼前に降り注いだ。


 そして、着弾した光条は周囲の空気を巻き込んで次々と誘爆を引き起こしていった。巻き上がる爆風、それが徐々に晴れていく。

 しかし、そこには無傷の《竜》が悠然と立っていた。


「駄目です! びくともしません」


「構わん、それでも撃ち続けろ。先程、入ったヒビを崩せば勝機はある」


 実際、結界こそ割れなかったが、その威力に《竜》は目を見開いて、たじろいだような様子を見せていた。


 兵たちは指揮官の男の指示に従い、一心不乱に銃を撃ち続ける。

 そして今度は、続けて後方の魔導士達が火・風・水・土・氷、各種の魔法を撃ち出し、追撃を加えていく。


「我らも続くぞ!!」


 更に、側に控えていた近接武器を持った部隊が駆け出した。

 各々、魔導士の作り出した氷の道や土の階段を駆け上がったり、魔導士の撃ち放った水流や旋風を背に受けて飛翔するなどして、《竜》の眼前に渾身の力を込めた一撃を加えていった。中には結界そのものをまるで床のように駆け上る強者までいた。


 近接兵たちの放つ一撃は、銃や魔法のそれよりも重く強力であり、まるで分厚い氷壁を削り取るように結界のヒビを広げていった。


「悪い、拾ってくれ」


 中には足を滑らせるなどして落下する者も居たが、数騎の天馬騎兵がそれをピックしたり、魔導兵が風や水によるクッションを生成することで、それらをカバーしていた。


 相手は巨体ではあるものの、攻撃の意思や動きは鈍く、数は一体のみだ。

 以前、公都の兵たちはイシュメル人の変異した無数の《伝承の獣》の膂力と数を前に苦戦していたが、今回の様な《竜》の性質はむしろ兵が組織的に相手取るには都合の良い部類と言えた。


「もしかして、本当に僕ら要らないかも」


 ローレンスの軽口も、あながちその通りかもしれないとエルドは思い始めていた。

 キャドバリー侯が練兵を欠かさなかったのか、想像以上に彼らの動きは緻密で、的確であったのだ。


「一旦、様子を見よう。ここらで大技が来るよ」


 エルドは戦況を見て、様子見を提案した。するとそれを機に、周辺の近接兵達は撤退の合図を受けて距離をとった。


「だが……」


 ローレンスは一瞬、ためらいのようなものを見せたが、エルドの頭にはこれから起こる光景がしっかりと脳裏に浮かんでいた。


 騎士学校時代に何度も読み込んだ教本。そこには、魔法のある戦場における基本戦術が記されていた。


 戦場において戦闘力を高める術は豊富にあり、お互いの力は競る場合が多い。加えて、回復魔法や身体強化によって高い耐久力を誇る兵たちは、否応なく消耗戦を強いられる。そして――


「総員、防御の体勢をとれ! 巻き込まれるような、間抜けは演じるなよ」


 魔導部隊が防壁を貼ると、エルド達も武器を構えて備えた。


 その時、天を覆わんばかりの無数の魔法陣が《竜》の頭上に展開された。


「放てぇええええええ!!」


 指揮官は腹一杯に溜め込んだ空気を一気に解き放つように大声を発すると、各々の魔法陣から巨大な火球が顔を覗かせた。

 それはまるで産道より産まれ出る赤子のように、ジリジリとその身を露出させていく。天を焼く程の劫火の炎、それらはまるで神の裁きのように、目の前の《竜》目掛けて降り注いだ。


 魔法戦の"華"とも言うべき極大魔法、硬直した戦況を一瞬で変えうる戦略級の"砲撃"が放たれた瞬間であった。

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