リヴィエラ工房

 一方その頃、アリシア達は魔導機工場へと訪れていた。

 魔導機精製は基本的に効率よく霊子が獲得できる神樹の根の上、それも地下に作られることが多いが、この工場もその様な地に建てられていた。


 そのため目の前に見えている建物は研究棟だけである。アリシア達は魔力炉の形状に合わせて球形に造られた琥珀色の研究棟を訪ねた。

 しかし、中には誰もいる気配がない。


「おかしいですね。どうやら中には誰も居ないようです」


「それなら地下の工場に入るチャンスじゃない? どの道、廃液を止めるなら入る必要があるし」


「そうですね」


 地下へと通じる階段は敷地の奥にあった。しかし、入り口は施錠されているのか開けることが出来ない。


「参ったね。これじゃ中には入れない」


「こういった時はやはりイスマイルの出番ですね。転移をお願いします」


「出来ないよ」


「?」


 アリシアはその返答に冷たい視線で返した。


「そんなゴミを見るような目で見ないでほしいな……僕の転移は一度、見た場所しか行けないんだよ。ここは無理」


「やれやれ、それなら私の出番だね」


 フィリアはそう言うと、小瓶を取り出した。中には銀のドロリとした液体が入っていた。


「これでもイシュメルの血を引いてるからね」


 そう言うとフィリアは水銀に魔力を込め、直接触れないように瓶から取り出した。すると、フィリアの手の中で水銀が鍵の形に変わった。


「本当は悪用厳禁だけど、どんな鍵穴にも対応する流体マスターキーだよ」


 フィリアは得意げな顔で水銀の鍵を披露した。


「すごいです、フィリア。早速お願いします」


「任せて、アリシア」


 そう言ってフィリアは扉の前に立った。しかし、しばらく経ってもフィリアは立ち尽くすのみであった。


「フィリア、何かありました?」


「ごめん、ここ鍵穴タイプじゃなかった」


 魔導機によって制御された、生体認証の扉であった。



*



 ドゴォンとアリシアの放った光の柱が扉を粉微塵に破壊した。


「不用心ですね。セキュリティ意識を持つなら物理的な衝撃にも気を使わないといけません」


「…………」


 その様子を見て他の二人は絶句していた。


「アリシア、なんだかエルドに似てきたよね……」


 フィリアがボソリと呟いた。いくら《竜》の接近とカイムの容態で時間がないとは言え、その行動はいささか過激であった。


「だけど、今回は急いで正解のようだ」


 アリシアの破壊活動に反応して警報が鳴り響いた。しかし、それよりも問題なのは――


「《伝承の獣》……」


 アリシア達の目の前に現れたのは、足を引きずるようにゆっくりと歩みを進めてくる皮膚のただれた人の形をした獣であった。

 それは目に見える範囲でも工場の到るところをうごめいているようであった。


「どうやら不完全な変異のようだ。だけど、ここで一体何が起こっているんだ」


 周囲には彼らを除いて誰も工員が居ない。

 普段、人を煙に巻くような態度ばかりとるイスマイルも、目の前の状況を前に険しい表情を浮かべていた。


「とにかく先へ進みましょう。フィリア、浄水区画の見当は付けられますか?」


「まあ、何とかやってみるよ」


 アリシア達は得物を構えると、紺碧の回廊を駆け出した。

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