すれちがい

 男は、湖の畔にある小粋な石造りの家を訪れていた。

 決して大きくはないが、どこか暖かさを感じさせる家の扉の前に立つと、男はすぅーっと深呼吸をした。


(十年ぶりだけど覚えているだろうか)


 久々の再会に男は胸を高鳴らせ、呼び鈴を鳴らした。そしてしばらくして、なにか慌てたような足音ともに中の住人が戸を開けた。


「レアなの!?」


 中年の女性は扉を勢いよく開けると「レア」という名を叫んだ。しかし、そこに立っていた人物を見て、落胆したような表情を浮かべた。


「えっと、あの……おばさま、お久しぶりです。覚えていますか?」


「まさかあなた……ローレンスなの?」


 女性はローレンスの顔を見て驚きの表情を浮かべた。彼女にとってもその再会は予期せぬものであった。


「はい。偶然こちらに立ち寄ったので挨拶をしようと、レアは?」


「それが……」


 ローレンスの問いかけに女性は表情を暗くさせた。


「レアの行方がわからないの……前に主人と喧嘩してから一度も家に帰らずで……」


「なんだって……」


 ローレンスの顔が蒼白く染まっていった。


「友達の家に泊まってるのかもと探して回ったんだけど、誰も見て無くて……もうどうしたら良いか」


「それはいつ頃からですか?」


「主人と喧嘩したのは一ヶ月前のことで……だからもしかしたら……」


 女性は悲痛な面持ちでそう呟いた。


「おばさま、まだそうと決まったわけじゃありません。俺が探してみますから、どうか気を落とさないで」


「ローレンス……そうね、私ももう一度街のみんなに聞いてみるわ。頼りにならないけど、州兵にも問い合わせてみるわ」


 そう言って女性は戸締まりをして去っていった。


(レア……君はどこへ行ってしまったんだ)


 久しぶりの再会に踊っていた胸は、落胆と喪失、そして焦燥で一杯となった。しかし、それらを振り払って、ローレンスは街の宿屋へと足を向けた。


(黒霧、凶暴化した動物、そしてレア……どうやらこの地で果たすべきことは多そうだ。まずはエルド達と合流しよう)


 今のローレンスに悲嘆に暮れている暇はなかった。為すべきことのためにローレンスは気合を入れ直す。

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