リヴィエラへ

 宿の部屋で、アリシアは犬の様子を観察していた。

 犬は酷く衰弱しているのか、短く息を切らせながら肩を震わせていた。肩が震えるたびに、首にくくられた首輪の鈴が切なげに鳴り響いていく。


「可愛そうだね。あんな風に戦わされて」


 フィリアは心配そうに犬を見つめる。こうして苦しみ悶える姿を見るに、到底人を襲うような種には見えなかった。


「以前イシュメル人が獣化した時と同じ症状ですね。どうやら体内の霊子が枯渇しているようです」


「霊子は生命の源だからな。限界まで酷使すりゃそうなるわけか。で、どうすりゃ回復させられるんだ?」


 カイムが尋ねた。


「基本的には霊子の自然回復を待つしかありません。生物は呼吸によって体内の霊子を回復させるものですから」


「となるとマウス・トゥ・マウスか……」


 話を聞いたローレンスは神妙な表情を浮かべたかと思うと突然犬の口元に顔を寄せていった。


「!?」


 口と口が触れ合う寸前、慌ててカイムがローレンスを引き離した。


「おい、動物と口をつけるなんて正気か!?」


「いやあ、だけど苦しんでたからさ」


「苦しんでるからって普通するかよ。まったく本当に変なやつだな」


「まあ冗談はさておき、なんでこの犬が村外れに一匹で居たんだろうな。普通犬は群れで行動するもんだが、首輪を見るにやっぱりここの村人の飼い犬だったりする感じか?」




 一行が犬に心当たりが無いか、辺りで聞き込みをしてみたところ、その手がかりはあっさりと見つかった。


「その犬は間違いありません。うちの娘夫婦が飼っとる犬ですじゃ。以前リヴィエラに酒を卸した時に行方不明になっとったのじゃがそれがどうして……」


 村長が語るには、孫娘が大層可愛がっていた犬で、行方が知れぬと分かって一家は必死で探し回ったそうだが、ついぞ見つからずにいたとのことであった。


「番犬じゃが、娘一家の前ではとても大人しく人懐っこい犬でのう。なんだってこんなことになったんじゃ」


「リヴィエラと言えば、この地方の中心都市だけど。わざわざそこでこの犬を拉致して例の薬を投薬したってことかな? でもなんだがやることがしょぼいというか、せこいというか。とても彼らのやる所業とは思えない」


 実際に対峙したエルドだからこそ分かる違和感のようなものがそこにはあった。


「ええ、どうにも今回の猟犬の話と彼ら、結びつきませんね」


「姫様、何か関係があるかは分からないのですが、実はあのような奇妙な魔獣の出現が他にも、リヴィエラの近辺で確認されておるのです」


「本当ですか? それはいつ頃のことでしょうか」


「それが奇妙なことに、増税が決まった前後からでして……よもや関係などあるはずはないのですが」


「偶然にしては少し気になる符合ですね。少なくともリヴィエラで何らかの不穏な動きが見られているのは間違いないでしょうね……」


 アリシアは考え悩む仕草を見せた。


「やはり、すぐにでもここを発ちましょう。この地で何が起こっているのか調べてみたいと思います。皆さんもよろしいでしょうか?」


 アリシアの提案に皆がうなずいた。

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