意外な再会

 程なくして一行は湖畔の村・ウェンブリーに到着した。すっかり夜も耽っていたが、レンガ造りの家々の放つ灯りが湖面に浮かび、まるで蝋燭の火の様にゆらゆらと揺れる、暖かな光景が一行を出迎えていた。


「本当にありがとうございます。略奪を働こうとした我々を許してくださっただけでなく、こうして食料まで……」


 男は改めて感謝の意を告げる。


「おう、これに懲りたら二度とすんじゃねえぞ」


「だから、なんでカイムが偉そうにするの……」


 呆れてフィリアがため息を吐く。


「はい、二度とあの様な真似はいたしません。さて、こちらが村長の宅です。お取次ぎ致します」


 村に入ってしばらく歩くと、一際大きな邸宅が目に入った。




 村奥に建つ立派な村長宅、エルド達はそこに案内され、村長に挨拶することとなった。


「偉いことをしてくれた……よもや略奪に手を染めるとは」


「申し訳ありません、村長。気がどうかしていました」


 略奪に手を染めようとした男が頭を深く下げる。それを見てため息を吐くと、村長はアリシアの方へ向き直った。


「姫様、本当に申し訳ありませんでした。謝って許されることとは思っておりませんが、この者達も幼い子を抱えたり、働き盛りの子が鉱山に連行されそうになり追い詰められておったのです……」


「事情は理解しているつもりです。幸い被害は出ておりませんから、お気になさらないでください」


「ご寛大な処置、ありがとうございます」


 村長が頭を下げる。


「ですが、もしも再び略奪に手を染め、罪のない人にご迷惑をかければその時は……」


 いくら事情があるとはいえ、超えてはならない一線はある。アリシアはその点について釘を刺す。


「ええ、もちろんです。村の方でも、この危機を乗り越えられるよう努力いたします」


 村長は再び深々と頭を下げる。


「それで……食料に困っているところこのようなことを頼むのは心苦しいのですが、一晩宿をお借りできませんか?」


 この村を目指した当初の目的も、宿を取ることであった。アリシアはこの村の窮状を気にしながらも、宿泊させてもらえないか尋ねた。


「もちろんです! 殿下たちには、食料まで分けていただいております。この程度で恩を返せるとは思いませんがどうか心ゆくまでご滞在ください」




 宿をとった一行は、一階の食堂でエルドの狩ったデア・コカトリスを調理して味わうこととした。今回の料理人はエルドである。


「意外でした。エルドは料理が得意なのですね」


「騎士学校に通うようになってからは寮暮らしが続いたからね。休みの時は公都の家に泊まってたけど、レオンも自炊できないから自然とね」


 目の前に置かれたのはバターの香るパイであった。上には白いソースが掛かっている。


「私達はたまにご馳走になってたけど、今日のは一層手が込んでるね」


「ああ、待ちきれないな。さっさと頂くとしようぜ」


 皆が一斉にナイフを差し入れた。サクッという小気味いい音と共に、中のひき肉を切って割ると、しっとりとほんのり赤みのある白身肉が現れた。そして、パイの山を伝ってソースがひたひたと肉を白く染めあげた。


「うっすらと香辛料の良い香りがしてきます」


 アリシアが肉をパイ生地ごと口にほおばった。


「んっ」


 アリシアは艶っぽい声を出した。

 ホホやモモをすりつぶしたひき肉の旨味を彩る香辛料の香味、その中に眠る白身肉のジューシーさ、外を包むバターの風味のするさっくりとしたパイ生地、それらを酸味のあるクリームソースが調和し、芳醇な旨味が口いっぱいに広がった。


「とても美味です! なんと優しく調和の取れた味わいなのでしょう……」


 アリシアはうっとりとした表情を浮かべながら、ハニーエールを呷る。

 味の調和という点ではワインに劣るが、その爽やかなのどごしは胸いっぱいに広がる濃厚さを洗い流し、肉の素晴らしい後味を残していった。

 他の二人も酒こそ飲まないが夢中で肉を頬張る。


「あっさりだが、それでいてジューシー。魔獣の肉もたまには良いもんだな」


「このソースも美味しいよ。マスタードを入れてるのかな」


 皆思い思いに夕食を楽しんでいく。




 エルド達が食事を始めてからしばらく経った時、一人の男がエルド達に近付いてきた。


「はは、とてもいい香りだな。俺も相伴に預かっていいか?」


 一行はその声の主を見て表情を一変させた。


「君は……」


「よっ、エルド。それにカイムにフィリアちゃんも」


 爽やかで気さくな口調でブラウンの長髪の青年は挨拶をした。


「な、何故あなたがここに居るんですか!?」


 それを見て一番の驚きを見せたのはアリシアであった。普段は冷静で落ち着いた雰囲気の彼女が、どういうわけか取り乱しているようであった。


「お久しぶりです、殿下」


 そんなアリシアの様子を尻目に青年は恭しく一礼した。


「ローレンス……あなたはてっきり南方に行かれたのかと」


 彼の名はローレンス・エインズワース、筆頭貴族エインズワースの長子にして――――


「ふふ、婚姻を誓った相手の身を案じて、こうして馳せ参じた次第です。という理由では不足でしょうか?」


 アリシアの婚約者でもある。

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