第二章 翡翠の湖沼に獣は泣く

旅立ちの日

 ついにエルド達は巡礼の儀の日を迎えた。


 「イシュメルの反乱」終結からの一ヶ月間、様々な出来事があった。


 エルドの知り合いのマスターの発見したレシピによって作られたビールを巡る暴動、フレイヤに恋慕する二人の騎士による恋の鞘当て、鉄道竣工式でのエルド達の親睦等、四人はお互いに信頼を深めながら、旅立ちの日を迎えた。




 公都の北にそびえるリキア山を切り崩して建てられた、アッシュフィールド城のテラスからはアリシアが顔を覗かせていた。

 その側に控えるのはエルド、カイム、フィリア、三人の守護騎士達であった。


 王城前の一帯は、貴族区画として彼ら御用達の商人や職人ぐらいしか、平民が立ち入ることを許されない場所であるが、この巡礼の日は例外であった。


「今年も無事、巡礼の季節がやってきました。初代公王・パーシヴァルはこの地の海賊を駆逐した後も、その足で国内を回り、国内の整備と魔獣駆除を率先して行いました。今年は巡礼に先立って、公都を始めとした国内各地で事件が起こるなど、決して安定した情勢とは言えません。しかし、パーシヴァルの意志を継ぐものとして、我々従騎士一同は、悩める民達の為にこれからの一年を捧げることをここに宣誓いたします」


 いつもであれば、空々しい貴族の妄言と民達も聞き流していたことだろうが、今年は様子が違った。


 長らく王座が空位であったところで、ようやく王女アリシアが巡礼の儀に旅立つのだ。これを経てアリシアは初めて王位継承の資格を得る。

 王の不在によって貴族たちが専横するこの状況が打開されるのではと、民達は期待を露わに歓声を上げていた。




 やがて、巡礼へと旅立つ従騎士達が王城の門より出て、貴族区画の大路を通り抜けていった。


 たくさんの従者を側に控えさせ、豪華に着飾った馬車を歩かせる貴族たちに対して、先頭を歩くアリシア達は馬二頭が引く簡素なほろ馬車というみすぼらしい規模であったが、その質素さが民たちには好意的に映ったのか、目の前を通るたびにアリシア達を讃え、王位継承を期待する声が上がっていく。



 そうして、貴族区画を通り抜けると、リキア山麓の公都中央通りを通過しながら、アリシア達は公都を旅立っていった。

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