《劣等剣士》

 それはアリシアの糾弾より遡ること一ヶ月前のことだ。


「残念だが、魔法の使えない劣等剣士である君は騎士にはなれないよ」


 エルドに浴びせかけられたのは容赦のない言葉であった。


「そ、そんな……卒業規定にはそのような文言は一言も」


 エルドは反駁はんばくした。悔しかった。

 エルドの亡くなった両親は騎士であった。その騎士になることは、幼い頃からの目標で、憧れであった。


「エルドの言う通りです。それに彼は、今年の卒業生の中でも武芸で右に出る者のいない剣士です。座学も申し分ない、それを一方的に卒業取り消しにするなんて……」


「イーグルトン少佐、いくら弟君とはいえ、そのように公私混同されるのはいかがなものか」


「な!? そのようなつもりは」


 理事の一人はまるで聞く様子もなくイーグルトンと呼ばれた女性騎士を制した。彼女の名はフレイヤ・イーグルトン、伯爵家の令嬢にしてエルド達の担当教官でもあった女性で、エルドの姉でもある。


「弟とは言え、愛妾の息子などを迎えるからだ」

「下賤な血を持つ者を貴族に迎えるだけでもおぞましいのに、よりによって魔法の扱えないものが騎士に名を連ねるなど、公国の恥だ」

「どうせ武術の授業でも不正を働いたのだろう」


 理事は皆、爵位を持つ貴族である。彼らはその気品を微塵も感じさせること無く、口さがなく騒ぎ立てる。


 この国ではどれだけ能力を持っていても、身分や血脈、魔法の資質で差別される。エルドはそれがたまらなく悔しかった。


(ごめん父さん、母さん、僕は騎士にはなれないみたいだ……)


 エルドには野望があった、亡くなった両親の死の真相を明かす。そのためには両親の死の秘密を握る貴族に近付く必要があり、彼らの側に仕えるために騎士学校を優秀な成績で卒業しなければならなかった。そのために武芸に勉学にと励んできたのだ。


「全くこの様な不正者が、エインズワース公のご子息を差し置いて主席とはな」


「くっ、そういうことですか……」


 エインズワースとは、公爵位にあるこの国の筆頭貴族である。結局の所は彼の取り巻きが、余計な気を利かせてエルドを排斥したというのが真相であった。


 実力の差は無視して、血筋や地位によって貴族の面目を保つ、それは民に対する貴き者の義務を忘れ、この国にのさばる彼ら貴族の現状をよく表していた。


こうした貴族の腐敗が顕在化し、エルドは騎士の道を閉ざされてしまったのだ。

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