伝承 神樹の再生

 ――――かつて大地を災厄が襲った。



 大地は割れ、海は狂い、千々に裂かれた大陸を魔が跋扈した。わずかばかり生き残った人々もいつ訪れるとも知れぬ死を恐れて過ごすばかりであった。


 塵に空を覆われ、まともに日の差さぬ極寒の世界で、飢えて死ぬか凍えて死ぬか魔に食い殺されるか、死の選択の自由しか与えられぬ絶望の中、人類は滅びようとしていた。



 しかしある夜、一柱の光が降臨した。幽暗に慣れた人々にとって輝きすぎるほど眩しいその光は、やがて人の女の形を取るとその優しき腕を振るい魔を鎮めた。


 そして大地に降り立つと、膨大な神気を帯びた大樹を産み落とした。驚くことに大樹は大地に根を張ると、砕けた大地を繋ぎ合わせたのだ。



 かくして人々は災厄から逃れた。人々は女神を讃え、いつまでも忘れぬ感謝の証として新しく生まれ変わった大地に女神の名を付けた。


 様々な種が時に共存し、時に対立しながらも、人々は女神の名を冠した大地にたくましく生き、繁栄を取り戻した。そして女神は神樹の頂きで眠りにつき、永劫に渡って人々の行く末を見守り続けているという。




イルフェミア教会教理省編纂『女神イルフェミアの奇跡』より

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