第25話 ゲームセンター③

 プリクラマシンの中で俺とエリちゃんが印刷された写真の取り合いに興じていると、詩音がその顔に不穏な笑みを湛えて、入り口のノレンから顔を覗かせていた。


「し、詩音!?」


「なんだよ。マジで豊崎が現れたじゃん」


 どさくさに紛れてエリちゃんは俺に抱きつくと、これ見よがしに腕を絡めてくる。

 しかし、当の詩音はというと存外冷静であり、俺とエリちゃんの二人を見つめながらニヤニヤとしていた。


「フフフッ。私がいない間に随分と楽しそうですね?」


 そうは言うものの、詩音の目元は笑ってはおらず、どこか狂気に満ちている。

 それに気付いた俺は素早くエリちゃんの手元から例の写真を奪い去ると、そのまま制服の内ポケットに無理矢理押し込んだ。


「あー! なんで取るんだよはーくん!」


「この写真は俺が責任をもって天に還す。だから安心してくれ」


「天に還してどうすんだよ!? それはウチとの大切な思い出なんだからウチに返せってーの!」


 俺に写真を奪取されたことが相当気に食わないのか、エリちゃんが飛びつくようにして俺から写真を奪い取ろうとしてくる。

 だが、流石にこればかりは無理な話だ。

 こんな物を詩音に見られたらそれこそ一大事、世紀末そのものだ。

 故に、エリちゃんには悪いけれど今回だけは勘弁してもらおう。


「あのぅ、ハガネくん……。今しがた制服の内ポケットに仕舞い込んだモノは一体なんなのですか?」


「あん? それはウチとはーくんが――」


「いやいやいやいや!? なんでもないぞ詩音、それよりこのゲームセンターの中にクレープやアイスクリームを販売している売店があったからそこへ行かないか!」


 かなり強引ではあるが、この場はなんとしても凌がせてもらう。

 俺はプリクラマシンから外に出ると、詩音に回れ右をさせてその華奢な両肩を掴んで歩き出した。

 その時、あとから駆けてきたエリちゃんが俺の真横に並んで歩くと、ムスッとした顔で見上げてくる。


「おい、はーくん。例の約束を忘れたワケじゃねえよな?」


「礼の約束だと?」


「コレだよ、コレ」


 と、エリちゃんはその胸元から紙のようなモノをちらりとだけ見せてくると、俺の反応を楽しむかのように口元を笑ませた。


「まさかとは思うけど、はーくんがウチとの約束を破るなんてマネはしねえよな〜?」


「……ぬぅっ!? なぜそれを!」


 エリちゃんが胸元から見せてきたモノ――それは、先程俺が没収したハズの『チュープリ』だった。

 あのとき、確かに彼女の手元から奪ったハズのそれをなぜかエリちゃんは持っていた。

 それを目の当たりにした俺は開いた口が塞がらず、呆然自失としてしまった。


「こんなこともあろうかと、二枚印刷しといたんだよ」


「ば、バカな……そんなことが」


「おいおい、なんだよはーくん。随分と足が震えてるじゃねえか? まさかとは思うけど、ウチに恐れをなしたのか?」


 エリちゃんは薄い笑みを浮かべてそう言うと、口元から八重歯を覗かせ例の写真を胸元にそっと忍ばせた。


 なんという知将だ。

 まさか、あの時にこうなる事を既に予測しており、余分に二枚も印刷していたとは完全にしてやられたというものだ。

 これでは流石に太刀打ちできん……。


「ニシシ~、ちゃ~んとさっきの約束は果たしてもらうかんな?」


「エリちゃん、その約束とはまた例の……」


「最初はもう一枚だけ同じ写真を撮ろうとか思ってたんだけど――」


 と、エリちゃんは俺の尻を厭らしい手つきで撫でまわしてくると、艶のある声でそっと囁いた。


「キスだけじゃ物足りねえから……その先をシテくれたらこの写真を処分したげる」


「そ、その先とは……?」


「それはもちろん、○ックスだろ?」


「むううううううううっ!?」


 愛らしいはずのエリちゃんの笑顔に俺は戦慄し、背筋に悪寒が走った。

 まさか……これが『恐怖』というものなのか!?


「あのぅ、ハガネくん大丈夫ですか? 顔色が悪いようですけど」


「え? あ、いや、大丈夫だ。気にしないでくれ!」


「そうそう、気にすんなよ豊崎。はーくんはちょっとしたことで不安になるとこうやってすぐに顔に出るからさ?」


 胸元に仕舞い込んだチュープリをちらつかせ、俺の顔を見上げて微笑んでくるエリちゃんはなんとも嗜虐的だ。

 しかもさり気なく俺の尻を弄っていた片手に力を込めてくると、そのまま掴み上げるようにして何度も持ち上げてくる。

 これはなんというか、エリちゃんにとんでもない弱みと尻を掌握されてしまったのではなかろうかと思い、俺はガクガクとした震えが止まらなかった。


 あの純粋だったエリちゃんは、いつからこのように歪んでしまったのか……。

 俺はそんな彼女に悲痛な思いすらも抱いてしまう。


「あの、エリちゃん? それは流石に……」


「なぁ、豊崎! さっきウチとはーくんでさ――」


「おおっと詩音! そこにお前の大好きなチンチラさんのぬいぐるみがあるけど取ってやろうか!?」


「え!? どこですか! 是非ともお願いしますハガネくん!」


 エリちゃんの言葉を遮るように俺は詩音の肩を掴んでUFOキャッチャーの筐体へ連れ出すと、背後を振り返る。

 すると、エリちゃんがすぐ後ろに立っており、クスクスと笑って俺に迫ってきた。


「ニシシ~、しばらくはこれではーくんと楽しめそうだぜ!」


「む、むぅ……」


「ハガネくん、このチンチラさんはこのゲームセンターの限定品らしいですよ! これはなんとしてもゲットしなければなりません!」


 俺の心情を知らない詩音が、ケースの中に転がるチンチラさんのぬいぐるみに瞳を輝かせて腕を引いてくる。

 そのあどけなさに少しだけ心癒されるも、背後から再び尻を弄んでくるエリちゃんの行動に緊張してしまい、俺はぬいぐるみをゲットするのに数千円という金を消費する羽目となった。

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