第28話:ウララ崇め奉られる
「お帰りなさいませ」
すでに配下に加えた魔族の面々に出迎えられ、俺と荒神がゆっくりと大広間の上座へと移動する。
一段高くなったところに俺が座り、その下右側に荒神が控える。
今日は辰子は、ユミとショウと遊んでいるらしくこの場に居ない。
ウララがすぐに俺の膝に飛び乗って来て、その目を閉じる。
最近では、辰子に俺の膝を取られる事が多くここぞとばかりに堪能しているようだ。
「ああ、いま戻った。結構な数の魔族に来てもらえたからな……楽しみだ」
俺の言葉に、配下の魔族達が難しい表情をしている。
「来てもらったとか嘘ね……きっとまた無茶苦茶な魔法で拉致してきたね」
「ああ、戦争の真っ只中で相手戦力を無傷で捕縛するとか、想像しがたい事ではあるがタナカ様ならな」
「ええ、タナカ様ですからね。おかしくないのですね」
「当然」
なにやら古参4人が失礼なやり取りをしているが聞かなかった事にしよう。
「おい、マヨヒガ! 頼む」
俺の言葉を受けてマヨヒガが座敷の中央に黒い球体を作り出すと、ペッと何かを吐き出す。
1人目はこいつか……ホーク大佐と呼ばれてた奴だな。
なるほど鷹の魔族っぽく、テンガロンハットに目だけを覆う仮面を付けている。
背の丈は2m程か? 背中に大きな鷹の翼が生えているのが特徴だな。
「ホーク? ホークなのね?」
「えっ? ネネ? 生きていたのか?」
どうやら顔見知りらしい。
まあ、猛禽類同士だし何か繋がりがあるのかもしれない。
「いや、それよりもここは?」
それから周囲を見渡しながらホークが呟く。
今まで見たことも無いような建築様式の建物だからな、その反応も仕方が無いだろう。
続いてペッと、また1人の魔族が吐き出される。
うん、グレズリー1等兵か。
こいつは見たまんま熊で、最初は魔物かと思ったくらいだがどうやら魔族のようだ。
ややこしい見た目をしている。
「んん? わしはどうしたのじゃ?」
「グレズリー!」
「ホーク大佐か! ここはどこなんじゃ?」
「いや、俺に聞かれても……気が付いたら真っ暗な空間に閉じ込められ、これまた気が付いたらここに居たのだが」
「ふむ……わしと一緒か」
えらく偉そうな一等兵だな!
大佐とタメ語とか、こいつらの軍律はどうなっているんだ?
もしかして、そんなに縦社会厳しくないのかな?
そんな事を思っていると、今度は兎型の魔族が吐き出される。
マヨヒガ容赦ねーな……
女でも関係なしに畳に叩き付けるように吐き出しやがった。
『バニー隊長! 』
「あら、貴方達も捕まったの?」
バニー隊長余裕だな……
大人の魅力(みりき)って奴か? というか……よく考えたら、他の連中もそこまで焦っては居なかったな。
そして百人衆最後の1人が吐き出される。
狐耳にふさふさの尻尾を持った狐型の住人だ。
『フォックス! 』
うん、ここまで来ると軍隊のコードネーム大集合みたいな感じだな。
他の有象無象の連中も次々と吐き出される。
他にはモグラの魔族や、イタチの魔族に、狸の魔族と山猫の魔族等々……
『魔物はどうされますか? 』
『ああ、取りあえず後で外に放ってくれ……先にこいつらを引き込んでから躾けさせるから』
『かしこまりました』
『ご苦労だった。助かるよ』
マヨヒガと簡単にテレパシーでやり取りをすませると、魔族の方に向き直る。
感謝の意を述べた後で、一瞬家が大きく震えたが気にするほどの事じゃない。
目の前の魔族達がビクッと身体を震わし、身を寄せ合っているがまあいいだろう。
「ようこそ、我が城へ」
「な……何者なんだお主は! 面妖な技を使いおって」
「全く抵抗すら許さずに、こうも簡単に捕まってしまうとは」
俺の言葉に一等兵と隊長が、焦った様子で問いかけてくる。
何者と言われたら答えるしか無いだろう。
「俺は田中……この城の主であり、中野を倒す為に北の世界からやってきたものだ。お前たちには俺の部下としてその手伝いをしてもらいたい。嫌だとは言わぬよな?」
そう言って軽く威圧を放つと、その場に居た全員に緊張が走る。
何故か、配下の魔族達も緊張しているのが気になるが。
「断ると言ったら?」
「ん? 良く聞こえなかった。もう一度言って貰えないか?」
ホーク大佐が腕を組んでこっちを睨み付けてくるが、さらに魔力を上げて威圧を掛ける。
全く気にした様子も無く、鋭い目つきをこっちに向ける大佐……流石だな。
その足さえ震えて居なければ。
生まれたての小鹿もかくやという程に震えているが大丈夫か?
「ホーク……悪い事は言わないね。この人に逆らってはダメね」
ネネが若干青ざめた表情で、ホークを諫める。
「なななな情けないぞ。そ、そんなかかかか簡単に大魔王さささまを裏切るとか……裏切るとか……」
噛み過ぎだろ。
そんな無理をしなくても、もう選択肢は無いというのに。
「まあ、そこの鷹は後だ。残ったお前たちはどうする?」
ホークを思い切り睨み付けると、震えがぴたりと止まった。
覚悟を決めたのか?
中々に忠義に厚く、胆力もありそうだ。
是非ともこいつには臣下の1人に……ん?
俺は腰を上げて、上段の間から下に降りてきホークの目の前で手を振ってみるが全く反応が無い。
どうやら気を失ったらしい。
情けない奴だ。
ふと他の連中に目をやると、バニー、グレズリー、フォックスの3人が何やら思案した様子だ。
他の魔族達はその様子を心配そうに見ている。
こいつら有象無象の連中は既に完全に心が折れているが、目の前の上司が抵抗を選んだらどうしようといったところだろうな。
「パパー! 新しい人連れて来たんだって?」
そこに辰子とウララが飛び込んでくる。
たく、真剣なやり取りをしているというのにコイツと来たら……無邪気で可愛いな!
俺が辰子に手招きすると、すぐに傍にやって来て目の前の魔族達を眺める。
ウララは俺の肩にピョンと飛び乗ると、連中を一瞥しただけですぐに目を閉じる。
こいつは、いつもマイペースだな。
「うわぁ! 皆可愛いね! これから宜しくね!」
辰子が心底嬉しそうに全員に微笑みかけると、グレズリー大佐の頬が綻ぶ。
「これはめんこい娘じゃのー。お嬢ちゃんはタナカ殿の娘さんかの? ほら、飴ちゃん食べるかい?」
急に1オクターブ程高い声で、辰子に話しかけると懐かしのペロペロキャンディを、そのモサモサ毛皮の中から取り出す。
ご丁寧に紙の袋で包装されており、鑑定かけたが毛皮の中にあったわりに特に雑菌とかも付いて居なさそうだ。
その様子を横目でバニー隊長が冷ややかに見ている。
「本当に貴方は子供に甘いのですから……大体侵攻した先々でもそうやって人間の子供すら甘やかして回ってるの知ってるんですからね」
なんだ、ただの子供好きか。
一瞬、幼児愛者かと疑ったが、近所のお爺ちゃんが地域の子供達を眺める目によく似ている。
そうだな、裏のおじいちゃん的な感じだな。
「わあ! パパ貰っても良い?」
一瞬顔を大きく輝かせたあと、辰子がこっちを見て不安そうに尋ねてくる。
俺が大仰に頷いてみせると、グレズリー大佐のところに一直線に走っていくと、飴を受け取る。
「有難う! こんな大きな飴食べた事無い!」
くっ……あんなに嬉しそうに……今度、辰子の顔より大きな飴を作ってやる。
いや、いまはそんな事を気にしてる場合では無かったな。
「おお、ちゃんとお礼が言える良い子じゃな! 賢い賢い!」
そう言って大きな手で頭を撫でられた辰子が目を細める。
うんうん、微笑ましいと言えば微笑ましいが、大きな熊が少女を襲っているようにも見えるな。
「グレズリーと言ったな……俺は魔族と人が手を取り合って生きていける国を作るつもりだ。魔族が侵攻した国で子供たちがどのような目にあっているか知っているか?」
俺の言葉に、グレズリーが一瞬苦しそうな表情を浮かべる。
子供好きで、いろんな国で人間の子供も関係なしに可愛がっているという程の男だ。
どこかの町の鰐の住人を思い出したが……親戚とかじゃないよな?
「ああ……じゃからわしはこうやって努力して、出世してその子らを手助けしても邪魔をされぬ地位に上り詰める事を目指しておったのじゃ!」
それから悔しそうに拳を握り締めて叫ぶ。
横ではバニーさんがドン引きだ。
フォックスさんがさっきから空気……というかこっちを凝視して固まっているが放っておこう。
「ふん……俺ならその子達も全て救えるぞ? 俺の領内には既に3人の孤児が住んでいる」
「大魔王様に逆らうような魔族というから、どんな奴かと思うておったが案外骨がある男のようじゃの……それに信念もある。ならばわしと一騎打ちしろ!」
ん? こいつマジか?
一騎打ち? 誰と? ……俺と?
グレズリーの言葉に、その場に居た俺サイドの魔族が一様に驚きを隠せない様子だ。
全員がそわそわとし始め、どうにかグレズリーを諫めようとする。
「ああ、グレズリー……俺が分かるか?」
「アッ! ブルータス殿もいらっしゃったのですか? これは挨拶が遅れてしまい申し訳」
真面目か!
そんな丁寧な挨拶してる場合じゃないだろ?
四天王の1人がここに居るという事をなんとも思わないのか?
バニーだけはブルータスの方をチラチラ見ては、信じられないといった様子だったが、こいつは本当に気付いて居なかったらしい。
「あー、今は俺も裏切りの身だからなー……元々お前の上司でもなんでも無いし」
「いえ、四天王様といえば雲の上の人、礼を失しては……裏切り? ブルータス様ともあろう方が?」
ブルータスの言葉に、今度はグレズリーの方が驚愕の表情を浮かべている。
「なんというか……もはや逆らう気も起きぬほどの力の差を見せつけられてな。しかもこの国に住んでしまえば僅かばかりの反抗の芽も摘み取られてしまったよ。正直、この方と一騎打ちは無謀だぞ」
「なんと! ブルータス様にそこまで言わせしめるとは……」
それからグレズリーが悩む様子を見せる。
まあ、カインだったらここで一騎打ちを受けて立って、余裕でカッコよく勝つように立ち振る舞うんだろうが、俺はそんな安売りはしない方だからな。
「分かりました……まずは様子見という事で従うとしましょう。もし、わしにとって主に相応しくないと感じたら、容赦なく牙を剥いて死んで見せましょうぞ」
んー……覚悟が重いよ?
実際に働いてみて、合わないってなったら普通に解放するけどさ。
でも、実際に働いてみたら、辞めたいって思えないだろうけどな。
「ああ、まあ合わないと感じたらいつでも掛かって来るが良い。なに殺しはせんよ……俺に一撃でも浴びせられたら解放してやるから。最初はちゃんと従ってもらうけどな」
「フンッ!」
俺の言葉にグレズリーが鼻を鳴らすが、まあ良いだろう。
「さてと……お前らはどうする? というかそこの狐は大丈夫なのか?」
先ほどまでこっちを見たまた固まって居たフォックスが、いつの間にか平伏している。
「その……そちらにおわします狐の方とはどのようなご関係で?」
いきなり何を言い出すんだこいつは?
ウララの事を言っているのか?
「ウララの事か? 俺のペットみたいなもんか?」
俺の言葉にウララがチラッと片目を開けて、こっちを不満そうに見てきたがさほど気にしている訳でも無いらしい。
すぐに目を閉じて、眠りに入る。
「そ……そうなんですか? その……この世界のどの狐にも当てはまらない容姿といい、その尻尾に内包された妖気といい……私の髭が只者では無いと感じているのですが、そのような狐をペットに……」
妖気?
ウララの方を見るが、ウララは面倒くさそうに欠伸をして俺の肩から降りると、フォックスの方に近付いて行く。
それからフォックスをジッと見つめると、フォックスが青ざめた表情で額を何度も畳にこすりつける。
「これは余計な事を申しました……申し訳ございません! 私は貴女様の忠実な僕でございます! コーン!」
それからガタガタと震えてウララの前足に縋りつく。
ウララって一体なんなんだろうね?
転移で北の世界から簡単に俺に付いて来たり、どんなに激しい戦闘でも俺の肩でバランスひとつ崩すことなく眠ったりと只の狐じゃないとは思って行ったが。
ますます謎が深まった。
その頭にウララが前足をペシッと乗っけると、フンッと鼻で笑ったかのように見えた。
それからゆっくりとこっちに向かってくると、俺の肩で一瞬自慢気な表情を浮かべた後、またすぐ眠りに付く。
私って実は凄いのよ?
って声が聞こえそうな表情だったが、まあウララはウララだ。
気が付けば俺と一番長く一緒に居るペットだしね。
まあ、いっか。
「で、バニーさんはどうするの?」
「この状況で逆らうのは馬鹿のすることね。私も取りあえず貴方に従ってみて、いつでも逃げ出せるように準備させてもらうわ」
いけしゃあしゃあとこのアマは、円らな瞳でなんともまあ感じの悪い。
とはいえ、ここに住んでしまえばこっちのもんだ。
逃げる準備どころじゃなくなるのが目に見える。
「よしっ、それじゃあお前らこいつらを部屋に案内して差し上げろ! 今日は宴会だ!」
俺の言葉に配下の魔族達全員から大歓声が上がる。
そうだな、人間3人組も呼んでやるか。
あと、魚さんと蟹太も呼んでやらないとな。
前回、つい呼ぶのを忘れてしまったからな……
カイン? あいつは今頃城で接待を受けてるだろうから、別に呼ぶ必要は無いだろう。
魔王に転生したけど人間に嫌われすぎて辛い ウマロ @stimulant
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