第19話:青騎士に会ってみた(その後:3人の人間編)
取りあえず青騎士の案内はボクッコがするようだ。
他の3人は緊張でガチガチに固まっているか、まあ無難な人選だろうな。
「青騎士の部屋はカイザルの横でいいだろ?」
「ええ、私は構いませんですね…」
若干引き攣っているが、問題無いだろう。
本殿に入って右の通路を行くと男性陣の部屋、左に行くと女性陣の部屋があるのだが、ボクッコが青騎士を連れて本殿に上がろうとする。
「あっ、ブルータス靴ダメ!」
ボクッコに続いてそのまま上がろうとした青騎士を、彼女が注意する。
つっても全身鎧だし、ブーツの部分だけ脱ぐのも変だよな。
「えっ? 土足はダメなのですか?」
「うん! 種族柄裸足の連中はそこの水桶で足を上がってから上がる。僕たちは靴を履いているから脱いでから上がる」
ボクッコに言われて、慌ててガチャガチャと甲冑の足の部分を外そうとしているが見てられないな。
「おい、ブルータス!」
俺はブルータスを呼び止めると、魔法で新たな衣装を用意する。
当然、鬼だから袴がいいだろうな。
戦場では武者鎧を着せよう…お蔵入りした源氏八領の1つでも与えておくか…それは部屋にでも用意しよう…青騎士だから月数が良いかな?
そんな事を考えながら、紋付の袴を着せてみるが中々に様になっている。
素顔も中々の美丈夫だし、うん俺の配下にピッタリだな。
「こ…これは?」
「ああ、そんな暑苦しい鎧でこの中をウロウロされても見ててうっとおしいからな。大丈夫だ、前に着てた鎧よりも頑丈だし、ほら足袋に草履なら脱ぐのも楽だろう?」
俺の言葉にブルータスが視線を足元に落とす。
「これは草履と言うのですね…なんか、あまり靴として意味を成していないような」
「なに、雰囲気だよ! この城にはそっちの方が似合う」
それからブルータスが草履を脱いで、本殿に上がろうとしてボクッコに頭を叩かれる。
「靴は脱いだら揃える! そのくらいは常識」
お前もこの間まで、靴があっちこっち向いていた癖に偉そうだな。
とはいえ、靴を脱いで振り返って揃える姿は中々に様になっている。
そして、それを倣うように真似をするブルータスの姿も悪くないな。
そして、本殿の右の通路に消えてく2人の背中を見送ると、俺はルカ達の方に振り返る。
「取りあえず、お前らのその薄汚れた服もどうにかしないとな」
そう言って俺が指を鳴らすと、ルカには巫女装束、ユミとシュウには子供用の着物を着せてやる。
うん、顔が西洋人だからとっても残念な仕上がりになってしまったが、まあ良いだろう。
ついでにユミはおかっぱにでもしたいところだが、女の子の髪を勝手にいじるのはマナー違反だな。
「わぁ、綺麗!」
「これ下がスースーするぞ!」
「カッコいい!」
三者三様の感想だが、まあ悪くは思っていないらしくて安心する。
取りあえず、3人の住む家を用意しないとな…
「おい、お前ら付いて来い」
俺が3人に声を掛けてから歩き始めたら、3人が一瞬ビクッとしたあとで恐る恐ると言った感じで俺の後ろを付いてくる。
その横を辰子も嬉しそうに付いてくる。
取りあえず本殿の近くでも良いが、出来ればこの城の敷地の外が良いな。
俺は、森に道を作りながら500mくらい進むと、目の前に鬱蒼と広がる森に手を翳す。
森の木々や草花がまるで意思をもったかのように移動し、割と広いスペースが出来上がる。
「ちょっと、今のなに? それも魔法なのか?」
「そうだよ! パパは魔法でなんでも出来るんだから」
ルカがこれでもかというくらい、目を見開いているが正解! 魔法だよ。
そして例に漏らさず、またも辰子がふんぞり返っている…転ぶなよ。
俺からしたら、造作も無い事でもみんなが驚いてくれるのが少し嬉しい。
「ああ、これからここにお前らの住居を作るからな」
さらに魔法で小さな屋敷を作り上げる。
部屋数は…そうだな居間とそれぞれの部屋が一つずつ…広さは今が10畳、それぞれの部屋が8畳もあれば十分だろう。
あっという間に家が出来上がるのをみて、今度は3人ともが驚いている。
ヤバいヤバい…こんなに驚いて貰えると調子に乗ってやらかしてしまいそうだが、まあ記念すべき最初の住人だし少しサービスしても罰は当たらないだろう。
それから、風呂とトイレに、あとは台所だな…
「さてと、さっきのボクッコの説明を聞いてたから分かると思うが、基本的にここでは建物の中では靴を脱いでもらう」
俺に言われて3人が慌てて履物を脱ぐ。
「まずはここが台所だな…裏に薪小屋を用意してあるから、釜戸の横の薪が無くなったら自分達で持ってこい」
そう言って、旧日本式の台所を見せるとルカとユミが目を輝かせる。
「凄いねお姉ちゃん! もう外で寝なくても良いんだね!」
「ああ、それにここなら火を起こして料理も出来るな」
そうか…君たちは外で寝てたのか…
思わずホロリと涙が出そうになるが、グッと堪えてなんでもない風を装いながら淡々と家の説明をする。
「それから、ここが風呂だ。取りあえず家の説明が終わったらすぐに入れ。まずは身を清める事からだな」
俺に言われてルカが一瞬警戒するような眼を向けるが、他意など無いからな。
「水を張ってから裏で火をくべれば湯が沸くが、今日は俺が湯を張っておいてやったからな」
五右衛門風呂の中から湯気が上がっている。
冷めないように魔法で固定をしたお湯だから、今日のところは問題無いだろう。
「お風呂なんて、入った事無い!」
「ああ、湯浴びすらした事無かったな…汚れたら川で水浴びするだけだったし」
「もう、冬でも冷たい水の中に入らなくて良いんだね!」
シュウが凄く嬉しそうに話すのを見て、またも涙腺を刺激されるがお前らどんだけ不憫な生活を送ってたんだよ!
「それから部屋は3箇所用意してあるから、相談して好きな部屋を選べ! つっても、特に差は無いからな。それと部屋の隅に置いてある厚い布を引いてから、薄い布を体に掛けて寝るんだ。ベッドなんてものはない」
「本当にここに住んで良いのか?」
ルカが伺うようにこっちを見ているが、俺は無言で頷く。
それから笑顔で、ユミとシュウの頭を撫でる。
「ああ、ちゃんと真面目に仕事をすればずっと居ても構わない。もうあんな辛い目には会わなくて済むぞ」
俺の言葉に二人は弾けたような笑顔を浮かべるが、ルカを見るとその頬を涙が伝っている。
「ああ、どんな仕事か分からないが…頑張る! この子達に出来るような仕事は無いかもしれないが、こいつらの分も俺が働くからさ」
そう言って俺の手を握って、うつむいたまま嗚咽を漏らす。
「ふっ、よっぽど我慢してたんだな…良く頑張ったな」
俺がそう言ってルカを抱きしめて、背中を優しくポンポンと叩いてやると大声を上げて泣き出す。
まあ、中学生の子供がこんな小さい子を面倒見てたんだ…よっぽどしんどかったんだろう。
溜まらなくなったのか、ユミとシュウもルカに抱き着いてくる。
「お姉ちゃん、良かったね!」
「僕も頑張るから! ここでずっと一緒だよ!」
こんな環境で育っても、良い子に育つんだな。
思わずもらい泣きしそうになったら、もう一人抱き着いてく子が居た。
「辰子もー! 辰子もパパとずっと一緒!」
うんうん、可愛いなぁ…でもいつか、パパ嫌い! とかパパの洗濯物と一緒に洗わないでとか言い出すんだろうな。
ちょっと悲しい…
あれっ? いつの間にか実の子のように思い始めてる俺が居る。
まあ、いいか。
「ユミとシュウにもちゃんと仕事はあるぞ! お前らの仕事は辰子のお友達になってもらう事だな!」
俺がそう言うと、3人がこっちを見て満面の笑みを浮かべる。
「うん、私頑張って友達になる」
ユミちゃんそれは、ちょっと表現としてどうだろうね?
「僕も、辰子ちゃんと仲良くしたいな!」
うんうん、よろしく頼むよ! でも嫁にはやらんぞ!
「パパ、有難う! 二人とも宜しくね」
辰子が心の底から喜んで居るのが分かって俺も嬉しくなる。
「で、俺は何をしたら良いんだ?」
1人取り残されたルカが、いつの間にか泣き止んでこっちを不安そうに見てくる。
といっても、ルカにもそこまで難しい仕事を押し付ける気は無い。
「ああ、ルカは日が昇ったら本殿に来て、まずは庭の掃き掃除だな。それから本殿の掃除をしてもらう。かなり広いから1人だと大変かもしれないが、昼には1時間の休憩を取ってもらって家で2人と食事をとってから掃除の続き、掃除が終わったら読み書きの勉強だ。読み書きが出来るなら他の仕事を与えるが」
説明を受けたルカが、またまた驚いている。
ちょっと仕事がきついか?
確かにあの広さの本殿を1人で掃除するというのは大変だろうな…
いずれは人を増やしたいとは思っているが…
「そんな事で良いのか? てっきりもっと大変な作業だと思っていたが…風呂に入れと言っていたから夜伽の相手とか」
こいつは何を言い出すんだ! 思わず噴いてしまったじゃないか。
大体14~15歳の女の子にそんな事させる訳無いし、何より見た目は凄く幼く見えるからな。
この世界じゃどうか知らないが、俺の中じゃ犯罪だ。
というか、そんな発想すら無かったわ。
「お前が何を思っているのか知らないが、基本的に俺は無茶は言わないつもりだ…と言っても1人で本殿の
掃除という時点で結構大変だと思うが…すまんな。いずれ人は増やすから我慢してくれ。あと5日働いたらに2日続けて休みをやるからな」
「ハハハ、本当に変な奴だな…いや、雇い主にこれは失礼でしたね。でもこんな好条件で、この家に住めるのならいくらでも頑張ります…それと申し訳ないが、読み書きは出来ないからそっちも頑張る」
一応ちゃんとした言葉遣いも出来るのか…
そこから教育しないかと思って心配したが、思ったよりまともで安心した。
「じゃあ、シュウとユミは最初の仕事ね! この家でかくれんぼしよ!」
横で俺の真似をして、辰子が2人に仕事を与えているがちょっと待て。
「その前に、風呂と食事だな」
俺が辰子の襟を掴んで持ち上げると、軽く睨み付けてメッと叱ってやる。
辰子がテヘっと舌を出して笑うと、俺の手を振りほどいて地面に降り立つ。
うん…中々に恐ろしい力だ…俺から掴まれて逃げ出せるなんてそうそう居ないしな。
「そうだったね! ごめんなさーい!」
でも素直に謝ってくれるところが、とっても可愛いな。
ああ、ダメだな…きっといま俺デレデレしてるわ。
前世で子煩悩な親をバカ親がと見下してたが、十分俺もその素質があったようだ。
「早速だが、お前ら風呂に入って来い! 今日のルカの最初の仕事は2人の身体を綺麗に洗ってあげる事だな。その間に、食事を用意しておいてやろう。基本的に今後は食材を定期的に渡すから、自分達で作れよ! あっ、ルカの二日ある休みのうち二日目だけは俺が食事を出してやるからな。食べたいものを言うが良い」
「そこまでしてもらうと、申し訳ないな…無いです…」
俺の提案に、ルカが申し訳無さそうにしているが俺の料理なんて魔法で一瞬だからな。
遠慮する必要は全くない。
「パパは魔法で一瞬で料理が作れるから、気にしなくていいよ!」
だから、何故お前がそれを言う…まあ、父親自慢がしたいんだろう。
愛い奴め!
「俺の前の世界のある国では、7日の最後の日は安息日といって一切の労働を禁じる習慣があってだな…まあ、詳しい説明は省くが、だから一日目の休みは3人で洗濯や掃除をして、二日目は自由にしておけるようにしとけよ」
「羨ましい世界だな…」
確かにこの世界は人間には住みにくいだろうが、俺が居るからには可哀想な子供達は全員俺が救ってやろう!
もう、自重する意味とか分かんないし、別に好き放題やっても良いだろう。
中野なんていつでも殺せるから、こっちの世界の魔族と人間を俺色に染めて、人間と魔族の連合軍でこっちの魔族と人の手で中野を滅ぼさせるのも面白そうだしな。
いざとなったら、こっちの兵隊全員に最大強化を掛けつつ、中野に弱体化の魔法を掛けまくって嬲り殺しも面白いな。
「まあ、いいやとっとと風呂に入って来い!」
「ああ、でも本当に良いのか? 風呂に入れて貰って、食事まで用意してもらうのは気が引ける…」
「子供が気を遣うな。それと、もう俺の国の住人になったんだ…お前らも辰子同様俺の子供みたいなもんだからな! 素直に甘えとけ」
「でも…」
「じゃあ、2人の最初の仕事は辰子と一緒にお風呂入る! ルカさんの仕事は辰子を洗う! けってーい!」
それでも遠慮するルカに対して、辰子が提案すると強引に手を引っ張る。
そこまでされて、ようやくやれやれと言った様子でルカが歩き始める。
その横で辰子がこっちを振り返ってウィンクをしてくる…まさか、俺の周りの魔族初の空気が読める魔族だ…と?
辰子…恐ろしい子…
まあ、冗談はそこまでにして、俺は俺の仕事をするか…
それから綺麗になった四人が居間にやってくる。
すまんな…折角の日本建築なのに俺はどうやら現代っ子だったようだ。
目の前に並べられる料理の数々。
子供達への鉄板料理!
ふわとろオムライス、フライドポテト、唐揚げ、タコさんウィンナーとポテトサラダ! さらにルカ用に女性に大人気シーザーサラダ、飲み物はデキャンターにミルクや、葡萄ジュース、オレンジジュースと紅茶を用意する。
デザートにケーキバイキングを用意して、フルーツコーナーにはメロンやスイカ、バナナにキウイ、葡萄に兎さんカットのリンゴを周りに並べる。
「パパ…やりすぎ」
辰子が若干呆れているが、歓迎会みたいなもんだしな。
ドーンと食っとくれ!
「何これ…黄色い塊の中から赤いつぶつぶが出て来た…美味しい!」
「こんな美味しい食べ物があったなんて…」
「これは…卵なのか? 昔に一度だけ食べた事あるが、こんなにフワフワして無かったし、味も全然違う」
「ああ、新鮮な卵を火力を調整しながら丁寧に焼き上げてあるからな。中は半熟でトロトロしてて美味しいだろ?」
3人が凄い勢いでパクつき始める。
うんうん、やっぱり日本の料理は偉大だな! えっ? 唐揚げ以外日本料理じゃない? いやいや、全部日本で食べられるからね。
小さい子2人は卵を食べた事無いのかな?
でも食べ進めるスピードを見た限り、気に入ってくれたようで何よりだ。
「おいおい嘘だろ? こんな新鮮な野菜食べた事無い…しかもソースがめっちゃうまいじゃねーか! これにも卵が入ってるのか? この一食で5日はタダ働きだぞ!」
「このウィンナー面白い形してて可愛い!」
「なんだろうこれ?」
シーザーサラダ美味しいよね? 俺も大好きだけど、サラダだから大丈夫とか思うなよ!
あれに掛かってるドレッシングのカロリーは、サラダダイエットをあざ笑うレベルだからな。
ああ、それからこっちの人達にはタコが分からなかったのか…ちょっと寂しい。
「この鶏肉、どうなってんだ? 外はカリカリ中はジューシーで止まんねーぞ!」
「このジュース美味しい!」
「ちょっ! どんだけ葡萄使ってんだよ! 贅沢過ぎるだろ!」
はい、果汁100%ですから!
どんどんと目の前から料理が無くなっているのを見ていると気持ちいいな…と思ったら辰子が凄い勢いで食べてたわ。
普通の人間で、普段は粗食だったらそりゃ食も細るわな。
「これ何?」
「ああ、それはお芋さんだよ! 油で揚げてあるんだってー!」
「油で揚げる? 油って焼くためにあるんじゃ…」
ああ、私のチェーンがあるからてっきり揚げ物も浸透してるかと思ったけど、基本魔族統治下の人間は口に入れる事も出来ないし知らなくて当然か。
「この芋を潰したのも美味しいね…」
「うん、キュウリがシャクシャクしてて、いくらでも入る」
うんうん、野菜もしっかりとらないとな。
それから全員がしっかりと食事を取ると、お待ちかねデザートタイム。
途中からルカもユミもシュウも、チラチラとケーキが並べられたテーブルを見ているのには気付いていたよ! HAHAHAHA!
好きなだけ食べるが良い!
「なあ、ユミ、シュウ…どうやら俺達死んじゃったのかもな…こんな美味しいものがたらふく食べられるなんて夢みたいだ…最後に神様が夢を見させてくれてるらしい」
ショートケーキを口に運んだルカが遠い目をしている。
そのほっぺをユミがつねる
「痛い!」
「ふふ、痛いって事は夢じゃないって事だよ!」
ああ、こっちの世界でも夢かどうかはそうやって確かめるのか。
「このリンゴ可愛い! 兎さんみたい!」
みたいじゃなくて、兎さんなんだけどね。
うん、ユミちゃん可愛いよユミちゃん!
「貴族がデザートは別腹だなんて言ってたが、その意味がようやく分かった…あんなに食ったのにまだ入るなんて…」
ルカが驚愕の表情を浮かべながらも、その手を止める事は無い。
つってもこっちの世界のデザートなんて、せいぜい甘いだけの砂糖菓子ばっかりだろうしな。
うんうん、どんどん俺色に染まっていけ!
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