第10話:東の魔王がウザくてやっちまった……辛い……

「魔王様……東の魔王様ヒガ様がお越しです……」


 若干緊張した様子でエリーが声を掛けてくる。

 東の魔王? ダレそれ?

 大魔王が居る事はこないだ知ったが、魔王って俺以外にも居るの?


「んっ? 誰じゃそれは?」


 エリーが呆れた様子で溜息を吐いてる。

 いや、だって誰も説明してくれなかったし。

 そもそも俺、ここに転生してきてまだ半年も経ってないからね?

 数百年生きてる君たちと違って、そんな詳しい事情知らないよ?


「なんで知らないんですか? この世界の他に、あと4つ世界がある事くらいはご存知ですよね?」

「知らぬ……」


 エリーが軽く眩暈を起こしてる……大丈夫?

 てか呆れすぎて人が眩暈を起こすって、あれ本当だったんだな。


「取りあえず、お会いしてください。ここで間違えると他の魔王様方を敵に回す事になりますから」

「えー……面倒臭い……」


 次の瞬間思いっきり睨まれた……

 エリー怖いよ……最近、エリーの俺に対する扱いが雑になってる気がする。

 辛い……


 取りあえず転移で応接室へと向かう。


「お待たせいたしました。北の魔王タナカヒトシ様です……」


 エリーが扉をノックしてから開ける。


「初めまして、わしが魔王タナカじゃ!」


 取りあえず、どういう力関係か分からないし普通通りいっとこう。


「あっ? おめー、先輩に対してその態度なんだ? 嘗めてんのかコラ!」


 うわぁ……めっちゃ嫌な奴っぽい。

 先輩とか言われても、初めましてだしな……てか一応挨拶してんだから、挨拶返せよ。


「うむ、失礼した。何分この世界の事に詳しくないものでしてな……お気に障ったのなら謝ります」


 あぁ、面倒くさいなー……大体俺生まれて半年なんだけど、いきなり魔王やらされて今度はこんなおっさんの相手させられて、もう魔王やめてーわ……飽きたし。


「ちっ、これだから下剋上あがりは嫌なんだよ! 自分が一番つえーとか思ってんじゃねーぞ!」


 下剋上ってか前魔王がふざけた事言ってたから、ちょっと反抗したら倒しちゃっただけなんだけどね……

 しかも、今まで俺より強い奴に会った事無いし。

 この魔王って強いのかな?

 前の魔王より弱そうなんだけど……

 見た目は40代くらいか?ムキムキマッチョでマジ体育会系って感じだよなぁ……


「大体さー、普通てめぇの方から大魔王様や俺たちに挨拶に来るもんじゃねーの? いつまで待たせんだよ!」


 だって知らなかったし、誰も教えてくれなかったんだもーん。

 いいじゃん、今会えたんだしさ。


「お前んとこの魔族も、キモイ奴ばっかだしさ……大体お前全然勇者殺してねぇらしいじゃん? マグレでキタサン倒したんじゃねーのか?」


 前の魔王ってキタサンって名前だったんだ……ふーん……

 てか何しに来たの? 文句言いに来ただけ?


「はぁ……で、今日は何の用件で?」

「あっ? てめぇがいつまで経っても挨拶にこねーから、こっちから見にきてやったんじゃねーか! 勇者一人も殺せねー腰抜けじゃ俺らに会いになんてこれねーわなー!」


 こいつムカつくなー……

 大体知らなかったつってんだろ! ウジウジグチグチしつけー野郎だな……


「用件はそれだけですか?」

「んだてめぇ、生意気だなぁ? 先輩が来てんだから酒の一杯も用意できねーのかよ!」


 えー……こんな状況でも一緒に酒飲みたいとか思っちゃうの?

 意味がわかんねーこいつ……めんどくせー奴来たなー……

 相手するの辛い……


***


「てかさぁ、お前んとこの魔族みんな気持ちわりーな……」


 あぁ、それは同意できるけどね……

 でも他人に言われると腹立つわ……


「俺んとこはベッピン揃いだぜー? それにメッチャつええから! お前らんとこの魔族なんてうちの幹部一人で瞬コロだぜ? あっ? マジだからな?」


 素面でも飲んでても絡み酒か……


「そういや、ウロ子だっけ? 名前も可愛いけどあいつはイカしてるな! なぁ、俺んとこにくれよ!」


 名前可愛いか? やっぱこの世界の感覚についていけないわ……

 一昔前のヤンキーの先輩みたいだなこの人……イチイチ自慢かどうかよくわかんねー事言ってくるし。

 うちの面々も、みんな死んだ魚みたいな目してるわ。

 この世界に来てからこんな目よく見るようになったな。


「あの、ヒガさん飲み過ぎでは?」

「あっ? 俺が酒に酔ってるっていうのか?俺が酔うわけねーだろ! 本当に生意気だなてめーはよぉ?」


 めっちゃ酔ってますやん……

 いや会った時からこんな感じで変わってないか。

 どっちにしろ面倒くさい……

 連日イケメン勇者んとこのビッチ3人の相手で削られてるのに、ここに来てこいつの相手とかそろそれ限界っす。


「大体さー、こいつらの目も気に食わねーなぁ? 雑魚魔族の癖に、酌くらいしにこいや!」


 そう言ってヒガが盃を投げつける。


 ピクッ……こいつもう殺っちゃってもいいっすか?

 一瞬で部下たちの顔色が変わるのが分かる……

 悪い方向に……顔面蒼白で冷や汗垂らし始める。


「おうおうおう、そういう表情も出来んじゃねーか? 分かってんならいいんだよ!」


 横で大馬鹿が馬鹿笑いしてる。

 ああ……こいつ殺して―わ……

 エリーが必死で目で制止してくるのが分かるけど、そろそろ我慢の限界っす……


「おいっ、あれまずくないか?」

「魔王様……キレてますよね……」

「前魔王様の時の悪夢が蘇って来た……」


 部下達のひそひそ話が聞こえてくる。


『私達は大丈夫ですから、どうか……どうか抑えてください……』


 絶倫がテレパシーを飛ばしてくる。

 お前ら器がデカいな……魔王の俺なんかより全然デケーわ……尊敬するわ……


「今日俺泊まってくわ! ちょっとウロ子貸せよ! どうせお前も毎晩楽しんでんだろ?」


 ウロ子が顔を真っ赤にしてうつむいている。

 そのウロ子からテレパシーが来る……


『魔王様……私は大丈夫ですから……一日くらい……初めてですけど魔王様の為なら……』


 ウロ子ええコやなー……あかん……前世では喧嘩なんかほとんどしたことなかったのに、魔族だからか怒りの沸点が低く……いやこれ普通誰でもキレるだろ?


「おーおーおー、顔真っ赤にしてまんざらでもねぇって感じだなぁ? よく仕込んでんだろうな! クックック色んな意味でよぉ!」


 ブチッ!


「ぶぶ漬けでもどうどす?」

「なんだそれ?」


 分かるわけねーか……


「【三分調理キューピー】!」

「なんやそれ? 美味そうやなぁ! 俺に食わしてくれるんか?」


 目の前に湯気を上げたお茶漬けが現れる……

 ああ、お前にすぐに食わしてやるよ! 煮えたぎったお茶漬けをなぁ!


「えぇ、俺の居たところの料理でね……これ食ったらとっとと帰れや下種がぁ!」

「魔王様ダメです!」


 俺はそう言って全力でヒガの顔面にお茶漬けを叩き込んでやった!

 やった、やってやった!

 ウロ子がなんか言ってたけど関係ないわ……少しスッキリした!


「アチーッ! なんであちーんだよ! 俺は炎熱耐性マックスなんだぜ!」

「屋上へ行こうぜ・・・久しぶりに・・・キレちまったよ」


 ヒガがメッチャ顔面押さえて転がりまわってる。

 ヒガさんよぉ? その目は意味が分からないって感じだなぁ? お前許さねーよ?

 思いっきり睨み付けて顔面を鷲掴みにすると、そのまま転移する。


「魔王様! 魔王同士の争いは大魔王様によって御法度とされてます! このままじゃ……」


 エリーが何か言ってた気がするが、今の俺には聞こえねーよ!

 キレちまったからな……


「どこだここ! それにお前……なんだよその姿! それにその魔力! ヒッ……」

「あぁ? お前は人ん家で何好き勝手やってんの? 調子のってんじゃねーぞ!」


 老化の魔法を解除して、全力の魔力を開放してみたけど……なんか前より魔力上がってる気がするな。

 丁度いい……これで思いっきりぶつけられる……


「いや、わりー確かにちょっと調子乗ったわ……ほらっ、同じ魔王同士ブヘラッ!」


 思いっきりぶん殴ってやった。

 魔法でもスキルでもない、ただの拳だ……

 うぉーすげー飛んでったなぁ……

 3回くらい跳ねて壁にぶつかったけど……それでも壁が思いっきり凹んでるわ。


「同じ魔王同士? お前みたいな雑魚が俺と同じ魔王だって?」

「ひっ、すまねぇ……まさか勇者も殺せねー奴がそんなにつえーだなんて……」

「おいっ! 敬語使えよ? 雑魚が……口の利き方くらい弁えろ!」


 そう言って転移で目の前に移動すると顔面蹴り上げてみた……

 おー、すげー高く上がったなー……あっ、あれやってみよ!

 なんか、段々面白くなってきた


「【汚物花火爆破ヤサイプリンス】」


 空中でヒガを中心に大爆発が起こる。


「きたねえ花火だ!」

「魔王様!」


 あっ、エリー達が来た。


「ヒガ様は?」

「あそこ!」


 かなり離れたところでボロぞうきんのようになったヒガがピクピクしてる。

 俺はヒガの記憶を読み取って、ヒガの城の場所を突き止める。


「おいっ! 俺はいつでもお前のところに行けるからな? 分かってるよな?」


 ヒガの耳元でそう告げると俺は【強制送還リパトレイション】を発動させる。

 奴を城に送り返してやった!

 かなりスッキリした!

 あぁ気持ちよかった……


 ……やっちまった。


「魔王様、これはとんでもないことですよ! 下手したら大魔王様や他の魔王様方に粛正を受けるかもしれませんよ!」


 エリーたんがプンプンだけど、顔がそんなに怒ってない……

 おうっふ!

 その時すげー柔らかいものが顔に当たって、下半身を冷たくて柔らかい帯状のもので締め付けられる。


「魔王様! 正直……凄く嬉しかったです!」


 ウロ子が抱き着いてきてた……

 てか、ラミアの抱擁ってガッチリホールドやなー……これ絶対抜けられんわ……

 あと気持ち良すぎて、力も入らないし……


「魔王様! まぁ、今回は仕方ないですね……」

「これぞ、我が魔王様だモー!」

「ふっ、我が君はやはりこうでないと……」

「拙者も、このような偉大な魔王様を守れるように精進せねば……」

「いつか妾も……」


 皆が褒めてくれるのが凄く嬉しかった。

 気持ち悪い面々だが、俺の大事な仲間で部下だな……


***

 冷静に考えた……ヒガはかなり弱かった……

 前魔王よりも弱かった……

 でも大魔王ってどうなんだろ?

 基本的には魔王全員より強いんだよね……どうしよう……

 胃が痛い……辛い……

 眠れない……辛い……






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