第9話:女勇者が来ない……辛い

「魔王覚悟!」

「うっせぇ、お前いま何時だと思ってんじゃゴルァ!」


 半端痴女が振るってくる剣を魔法障壁ではじき返す。


「つか、貴方少しは真面目に戦おうと思わないんですか! プンプン!」

「うぜぇ! 真面目にやったらお前らなんか瞬きの瞼が降りる前に消滅するわ! 感謝しやがれ!」


 エセドジッ娘の聖属性魔法も魔法障壁ではじき返す。


「つか、その魔法障壁反則なのよ! そんなに頑なに童貞守ってどうすんの!」

「誰が童貞じゃ! つかお主ら魔王相手に失礼過ぎるじゃろうが!」


 ビッチウィッチの高位爆撃魔法も魔法障壁ではじき返す。


「今日もお仲間の皆さんはお元気ですね」

「えぇ、私はもう諦めたのですが、何故か3人が諦めてくれなくて」


 おいエリーに、イケメン勇者何寛いでやがる!

 紅茶とか飲んでねーで、この暴走3人娘連れてとっとと帰りやがれ!


***

「はぁはぁ……今日も座ってるだけの魔王に負けた……」


 半端痴女が膝を付いて、床に落ちた折れた剣を見つめながら肩で息をしている。


「もぉ、なんで魔王の癖に聖属性魔法が効かないんですか!」


 僧侶も法力が尽きたようで、真っ白な顔をしている。

 若干やつれてるな。


「貴方……そんなにガードが固かったら一生童貞よ!」


 なんでビッチウィッチはそんなに俺の性事情が気になるんだ?

 まさかビッチルートのフラグが立ちつつあるのか?


「もう満足した? 皆帰ろうか……」

「つか、お前じゃ! お前! お主、わしを倒す気も無いくせに何しに毎日来とるんじゃ?」

「一応、3人の保護者という事で……」

「じゃったら、ちゃんと首に縄付けて見ておれ!」

「まぁまぁ……」


 エリーたんもまぁまぁじゃないよ……


***

 厚かましい事に、イケメン勇者が


「申し訳ないのですが、いつものように送って頂けますか?」


 と言い出した。

 まぁ、この状態で歩いて帰れってのもちょっと酷いか……

 いつものように……そう、いつも3人が勝手に暴れて力尽きてわしが魔法で送り返して居る。


 なんでこんな事になったかというと、俺が一度面白いかなと思って3人の前で勇者を殺して見せた。

 その時は、3人とも見事に髪も肌の色も真っ白になって燃え尽きてしまったからなぁ。

 アルビノって儚くて綺麗だよねー……

 一応、一瞬で髪が白くなるなんて科学的にあり得ない事らしいけど、ここはほら……ワンダーランドだからフフッ。


 流石にやり過ぎた。

 エリーたんにもやり過ぎって言われた……

 でも、俺を殺しに来てる勇者殺して何が悪いんだろ?

 普通魔王ってそういうもんじゃないのか?

 なんか、最近周りの魔物達も丸くなってきた気がする。


 最初は人間滅ぼせ的な過激派が半分以上居たが、なんか勇者の相手して適当に遊ばせてたら人間面白いってなったらしい……

 そもそも勇者が弱すぎるんじゃなくて、魔王城と城下町に住む俺の直属の魔族と魔物が強くなったらしい。

 一応魔王城の城下町に住む魔族と魔王領に住む魔物も、魔王直轄になるらしい……

 で、まぁ直轄の部下達には遊びながらここまで通せといってあるから勇者が辿り着けてるだけで、本来なら城下町にすら辿り着けないレベルの勇者ばかりらしい。

 ここまで実力差があると、もうどうでも良くなってきたとか。


 いま、この世界で一番平和なのは恐らく魔王城だろう。

 そして、人間にとって一番安全なのは魔王城だろう。

 皮肉だねフフッ……


 ちなみに、なんでイケメン勇者がこうなったかっていうと……なんでか知らないけど復活させたらこうなってた。


「完敗です……正直言ってこの実力差は努力云々でなんとかなるものでは無い事に何故今まで気付かなかったのか……」


 3人は涙を流して喜んでたけど、勇者は何か憑き物が落ちたようなスッキリした顔をしてた。


「どうしたの勇者?」

「また、魔王を倒しに来るんですよね勇者様?」


 戦士と僧侶が、そんな勇者の姿を見て狼狽えてた。

 正直、勇者殺したときよりちょっと面白かった。


「今まで散々失礼な事して来たのは重々承知です。ですが、もう二度と私は貴方に立て付こうなどとは考えません。なんならこの命を差し出しても構わないのでこの3人を希望の町に送り届けてもらえませんか?」

「勇者! お前何言ってんだ?」

「ゆ……勇者様?」

「魔王! お前勇者に何したの?」


 濡れ衣です。

 何もしてません……

 嘘です……殺しましたね。

 復活もさせました……でもそれだけです。


「ようやく己の愚かさが分かったか……」

「はいっ、針で山を掘ってトンネルを作るような、絶対に無理だというような事が今なら分かります。逆に何故今まで分からなかったのか……」

「それで十分だ……全員無事に送り届けよう」


 こうして俺は4人を送り返して、たまに勇者がやってくる平穏な日常を取り返したかと思った……はずなのに……


 次の日


「魔王! 勇者を元に戻せ!」

「魔王、私達は貴方を倒して勇者の目を覚まさせます!」

「お前のせいで、勇者は全ての加護を無くした! その罪償ってもらうわよ!」

「魔王さん……すみません、どうしても止められなくて……」


 うおおおい! おまっ、舌の根も乾かねーうちに来てんじゃねーよ!

 こんにちわビッチスリーさようなら平穏……辛い……


 という事で、3人に毎日時間を問わずに襲われる日々が始まった……辛い


 ある時は睡眠中に……面倒臭くて着いた瞬間に送り返したけど。

 ある時は食事中に……飯食いながら力尽きるまで攻撃させて送り返したけど。

 また、ある時は入浴中……腹立ったからスッポンポンで出てやったら、半端痴女に鼻で笑われた……辛い……

 エセドジッ娘は赤面してキャーキャー言ってた……新しい扉が開ける気がした……怖いからやめたけど……

 ビッチウィッチに股間を凝視された……やべー滾る……アカン……新しい扉開けてたわ……

 俺もついに部下と同レベルに……

 エリーたんにめっちゃ説教されたけど。


 その間一回も女勇者が来なかった……辛い……

 俺の癒し……どこ行った?


「妾が居ますわ!」


 いまムカ娘はお呼びでない!


 ちなみに、イケメン勇者が意外と魔王城に馴染んでて面白い。

 こいつに黒い全身装備を与えて、黒騎士として魔王城幹部にしたら楽しくなるかも?

 それ、いいね! うんそうしよう!

 人型だし、見た目は良いしね……

 問題はこの3人だよなー……


「おのれ魔王! 本を読みながら戦うとかふざけんな!」


 半裸痴女五月蠅いなー……攻撃より声の方が気になって本の内容頭に入ってこないわ。


「きっと禁書に間違いありませんわ! その本を渡しなさい! 燃やして差し上げます!」


 エセドジッ娘、目的変わってるよね?


「禁書……卑猥な言葉ね……本物に興味無いのかしら?」


 ビッチウィッチがどこに向かっているのか、もはや全く理解できん。

 けど、ビッチウィッチ魔王ルートが気になったからイケメンに聞いてみた。

 一つ分かったのはビッチウィッチは凌辱系が好きだという事だ。

 本人はバレてないつもりだが、周りにはバレバレらしい。


 あぁ嫌いな相手とのそれを想像して興奮するタイプね……

 フラグはどうやら発生してないようです……辛い……


 てか、もはや3人を何回送り届けたかすら覚えてない。

 イケメン勇者の命、何個分だろう……


 ちなみにイケメン勇者一人で3万の経験値あった……勇者美味しい……

 2回殺しても経験値入らないのは、前回のハゲ親父を殺した時に分かったけど……一回ずつなら殺していいかな? 良いよね? 魔王だし……


 そして今日も女勇者が来なかった……辛い……

 イケメン勇者編が長くて……辛い……



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