学校
「おはよう糸ちゃん」
いつもよりも少し小さな声がした。
「おはよう、京子ちゃん」
「大丈夫? ちょっと疲れているみたい」
京子ちゃんはとてもやさしい、だからきっと優しく声をかけてくれたのだと思った。
「うん、大丈夫」
今朝目が覚めるとき、なんとなく、糸とフエルトの匂いがした。
見ると、私の枕の横にミミミが「おいてある」ようにいた。私が出来上がってすぐのミミミを置いた場所だった。机の上の新聞はきちんと片付けられていて、ストローの入ったコップがそのままあった。
ミミミは本当に「かがりぬい」の状態だった。
「夢・・・」
着替えながら、ちらちらとミミミを見たけれど何も変わらない。そしてランドセルを持って部屋を出ようとしたとき
「行ってらっしゃい、糸ちゃん」
とミミミの声がした。
みると、縁取りのミミミに戻ってこっちを見ている。
「ありがとう、ミミミ、行ってきます。じゃあおやすみなさい」
「おやすみ、学校から帰ったらよろしくね」
「はい」
これが、今から始まるミミミとの朝の挨拶だった。
そのことを思い出していると
「糸ちゃん・・・本当に大丈夫? ぼーっとしてるみたい 」京子ちゃんの本当に心配そうな声に
「大丈夫、大丈夫! 」
心の中では京子ちゃんに今までの事を「話したい!!! 」と叫んでいるけれど、それをしたらミミミは
いなくなってしまう。
そちらの方が嫌だった。
学校について、京子ちゃんといっしょに教室に入ろうとしたとき、すっと真横を男子が通った
「お! 復活! 美女と野獣! 」
「もう! れい! 」
そう言ったのは元気が取り柄の、「どうして? 」と思う、一年生からクラスが一緒の「上(かみ) 礼(れい)」だ。名前はかっこいいが、礼なのに礼儀知らずと、喧嘩になると私は言う。サッカークラブも同じだった、確かに上手で小さい頃から
「県の選抜」に選ばれている。でも本田圭佑の真似をしているのか
「だって俺は神だもん! 」が口癖の、ちょっと鼻につく子だ。だけどやっぱり結果は残しているので、女子の一部にはバレンタインのチョコをあげる人もいる。
しかもだ、私のお姉ちゃんと礼のお姉ちゃんは「親友」で、赤ちゃんの時から一緒にいることがあった。こういうのを「腐れ縁」というのかな、と思っていると
ふっと私の席に礼がやって来て
「姉ちゃんが・・・お前が疲れていないか見て来いって」
ちょっとふてくされた、恥ずかしそうな感じだった。
そうなのだ、私は礼のお姉ちゃんからは、私のお姉ちゃん以上に優しくしてもらっているのだ。
「ありがとう、大丈夫だって伝えて。私もお姉ちゃんから「本当に会いたいって伝えて」って言われたから」
「いっつも電話しているくせにな」
「それは私もそう思う」
そうして二人で話して、すぐにまた礼は男子の集まっている所に戻った。私の周りにも女の子が何人かやって来て、話題は同じようだった。
「礼君、お姉さんがいたんだ」 「桑野と礼の姉ちゃん友達?」
「うん、お姉ちゃんと親友なの」 「すっげー仲いいの」
「どんな人?」 「桑野の姉ちゃんって? 」
「うーん・・・ 「うーん・・・・・
さばさばしててね・・・ おれの姉ちゃんより
私のお姉ちゃんより 優しいし
しっかりしているよ」 女らしいかな・・・」
お互いのお姉ちゃんのことを褒めた。
先生に宿題を全部やってきたことを褒められて、私はウキウキした気分で家に帰った。するとミミミは起きて新聞を読んでいた。
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