第102話 運命ではなく、宿命。
俺の心はあの日からずっと、止まったままだった。
友達になろうと好意を向けてくれた秋月さん。
泣きじゃくる俺にハンカチまで差し出してくれた。それを振り払い、結局ここに居る。
──噴水、木のベンチが並ぶ憩いの場。
◇
秋月さんは、自分ではない他の誰かに優しくする姿を見て好意を抱く子だったんだ。
見返りを求めない。善度100%の優しさ。
正義のヒーローに恋をするような真っ直ぐな子。
俺はたぶん、条件を満たした。
当たり障りなく過ごせば、そう遠くない未来に秋月さんと付き合える。ずっと見てきたからわかるんだ。
ここがゴールでハッピーエンドの終着点。
千載一遇のチャンスにして奇跡。
……それなのに、その想いを振り払った。
「なにやってんだよ……俺」
馬鹿なことをしたなと後悔をしてみるも、悔やむことができない。
これで良かったとさえ思ってしまう。
いつの間にか俺は、目的を見失っていたんだ。
秋月さんと付き合うためにタイムリープをしてきたはずなのに。
「…………そっか」
〝目的を見失った先に未来はない〟
妖精さんに口を酸っぱくして何度も言われた言葉を思い出す。
「そういうこと……か」
──それは、今更過ぎる答えあわせだった。
◇◇◇
俺が後悔しているのは、いつだって最側のことだった。
俺は最側のことを殆ど知らない。
更衣室で一人で着替えることに怯えていたこと。
ハンカチを買いに行く日、待ち合わせに遅れて来たこと。
風間とのこと、学校を辞めたこと、友達が居ないこと。
そして、七夕の日。
どうしてあんなにムキになっていたのか。俺はその理由さえも知らない。
メロンソーダが好きとか、星が大好きとか、プンスカする時は本当には怒っていないとか、そんなどうでも良いことはたくさん知っているのに、本当に知らなければいけないことを何一つ知らない。
それでも、一つだけ確かなことがある。
それは、俺が関わったせいで学校を辞めてしまったこと。
関わることで、きっと不幸にしてしまう。
だから……関わらないことが、唯一してあげられること。
そうすれば、未来は元の形を辿る。
最側は四天王になって学校を辞めることもない。
「わかってる、はずなのに……」
どうしてこう、心や気持ちってやつは言うことを聞いてくれないのかな。
会いたい。話したい。側に居たい。
とめどめない想いが、溢れてくる。
気を抜くと、すぐにでも会いに行ってしまいそうで……怖い。
住んでいる団地の部屋番号も知っている。
携帯電話の番号も脳裏に焼き付いている。
「…………」
だからもう、おしまいにしよう。
この世界に、さよならをしよう。
◇◇◇
穏やかに流れる風。
空を見上げると満天の星。
月明かりも綺麗で風が気持ちい。
絶好の死に日和だ。
結局、運命は変わらない。こうなるように出来ているのかもしれない。
もしかしたら、宿命と呼ぶのが正しいのかも……しれない。
だって、俺はいま、
自分の意思で学校の屋上に来ているのだから。
ここまでの足取りはとても軽かった。
まるで、こうなることを望んでいるかのように、軽快な足取りだった。
──やっと、終われる。
でも、あの時とは少し違う。
申し訳ない気持ちが押し寄せてくる。
「……妖精さん、ごめんね」
心残りがあるとしたら、始まりの日に交わした妖精さんとの約束だった。
死ぬなと何度言われたのか、正直わからない。
でも、運命には逆らえない。
……都合よく、運命を口にしているだけかもしれない。
それでも、もう……。
地面のないこの先の一歩を踏み出さずにはいられない。
「……妖精さん、今までたくさん、ありがとう」
精一杯の感謝を、言葉に乗せて。
──俺は最後の一歩を、踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます