JUNE 6

夏至肉

第1話

 重く黒い雲が空を覆っていた。

 日の光は届かない。

 嗅覚を尖らせると、雨の匂いが鼻腔を刺激する。


「はぁ、6月だね。」

 由美は、窓ガラスに頬を当てながら言った。


「そうね。6月ね。」

 葵は、何を今更? と言った風に返す。

 放課後の教室に由美と葵の2人だけだった。

 

 その返しに由美は「6月ってことは、一年の半分が過ぎたってことだよ。」と興奮気味に話す。


「だから?」

 やはり、葵は由美が何を言いたいのか分からないようだった。


「だ…だからって…私たちが花の女子高生でいられるのももう半年ってこと!」


「あー」


 葵の返答は棒読みのそれだった。


「なにそれ、葵ちゃん。いいの?このまま私たち彼氏も出来ずに何もないまま、人生で一番輝いていると言われる高校時代が終わっちゃうんだよ!」

 由美は「フン!」と鼻を鳴らして言った。


「別に私は進学するし、そんなJKブランドなんて興味ない。なんか由美の発想オッサンみたいだよ?」


「……オッサンって! そんなことないよ!私はピチピチの18歳だもん!」


「だからそう言う表現だよ。」


 葵は溜息を吐きながら指摘する。


「そんなことないもん!」 由美は怒るが葵は「はいはい」と軽くあしらった。


「でもさー、あと半年もしたら卒業じゃん? そしたら葵は進学で関東に行くんでしょ? そう考えるとやっぱり寂しいよ。」

 由美は急に少し真面目な顔付きでそう言った。


「まぁ、たしかに寂しいね。」葵も少し思う所があるようだ。


 それを聞いて由美は『パン!』と柏手を一つ叩いて言った。


「だからさ、だからさ! これから私たちひと月に一回想い出作りしようよ!」


「想い出作り?」


「そう! 美味しいもの食べたり、ショッピングしたり、映画見に行ったり!」


「それって、いつも私たちやってるじゃん。」

 興奮気味の由美に対して葵は冷静に答えた。

 先週は、由美がどうしても食べてみたいと言うから、パンケーキを食べるために30分並んだし、その前はタピオカを飲みに片道1時間掛けてお店まで行った。映画だって由美の好きな若手俳優を見るために何度行ったことか。


「それは……ほら、気の持ちようっていうかさ、これから残り少ない日々を大切にしよう!って意識を持って遊ぼうってこと!」


 由美は苦し紛れに言った。


「はいはい、分かった分かった。それじゃあ、その遊びのためにも今度の中間試験頑張んなきゃね。」


「ゲェ…」


 さっきまで熱を帯びていた由美が急に冷めていくのが分かる。


「なんで6月に中間試験があるのー。」


「そりゃ、私たちの高校は2学期制だからでしょ」


 それを聞いて由美は、「ただでさえ、梅雨でジメジメして集中できないし、6月は祝日が一つも無いんだよ!おかしいでしょ⁉︎ 私は連休の為に頑張ってたりするんだよ!」と半ば逆切れとも取れることを言う。


「連休の為って……やっぱりオッサンみたいな事言うね。」


「オッサンじゃないよ!」


 葵は「ごめんごめん」と謝りながら、ふと何かを思い付いた様だった。


「そういえばさ、さっき1年の半分が終わるーって言ってたよね?」


「うん? 言ったけど? てか、今もその話の延長じゃん?」


「この前ニュースで見たんだけど、年間交通事故で亡くなる人って4000人なんだって。」


「急にそれがどうかした?」

 今度は由美が葵の話の意図を理解できないでいた。


「いや、だから。年間4000人が交通事故で亡くなってるんなら、単純な話今年も半分終わったって事はさ……」


 葵が話を終える前に由美は「あ、」と声を漏らす。


『2000人が亡くなってるんだ。』

 二人は示し合わせたでもなく、声が重なった。


 由美は、「でもうちらには、関係ないことじゃん? 死んじゃった人には悪いけどさ」と、咄嗟に言った。「考えても仕方ないじゃん、だって毎年、4000人亡くなるのはもう決まってるようなもんなんだからさ。」とも。


 葵はそれに対して「関係なくないよ。」と返した。


「え?」

 由美はやはり葵が何を考えているのか分からなかった。


「だってこれから半年間にまた2000人が亡くなるんだから。でもその2000人は今、。」


って? どういうこと?」


「だから、病気と違って交通事故はさ、突然車やらバイクやらに跳ねられたり、ぶつかって死ぬってことでしょ?」


 由美は「そうだね。」としか返答出来なかった。


「私も、由美も、いいえ…きっとみんなそう。まさか自分が轢かれるなんて考えてない。今を精一杯生きてる。それなのにそれが突然終わるの。」


 由美はそれを聞いて「でもさ、ちょっと考えすぎかなーって思うよ。」

 そう言って、「あ、そうだった!今度私スマホ変えようと思うんだよねー!」と話を逸らしにかかる。


 それを聞いて、葵も「うん……そうね少し考え過ぎだったかも。」

 

 と言いながら「その2000人のうちの何人かは、自転車をこぎながら。信号待ちの運転席で。学校帰りの横断歩道で。はたまた、今スマホを見ているのよね……」と呟いた。


 外は今尚、雨が降っている。6月の梅雨時期、外を出る者は皆一様に傘を差す。ある統計では雨の日の交通事故は晴天時の5倍に昇る。




















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JUNE 6 夏至肉 @hiirgi07

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