第116話 戦争の足音
「ありがとうございました」
引き上げる最中にある兵士からお礼を言われた。
「俺は微力を尽くしただけだ」
「アレックのことです。どうやったのか分からないですが、遺体を綺麗にしてくれたのでしょう」
「酷い怪我だったんで、俺が修復した。アレックとは親しいのか。彼はなぜ俺の忠告を無視して前線に出た」
「きっと、彼は仲間の恩金ばんざいの声に耐えられなかったのでしょう。かくいう私もあの声を聞いたら魔獣に向って攻撃してました」
「そうか、仲間が死んで行く声に耐えられなかったのか。謎がとけたよ」
俺とは考えが違うようだ。
生きていればこそ、仇討ちも出来るってものだろう。
同期の分も長く生きるのが生きている者の務めじゃないのか。
だが、これがこの国の風土なんだろう。
俺には理解できないが、そういうものなのだろう。
嫌な思い出を振り払うようにこの国を後にした。
ゴーレム騎士団に死者が出なかったのが幸いだ。
旅行の疲れも癒えて俺は三人の弟子を指導していた。
「偉いぞリリオ。もうゴーレム使役のスキルが使えるなんてな。ケネスの道場に通っていいぞ。ゴーレムを使った戦闘方法を教えてくれるはずだ」
「うん」
「モリーとユフィアは魔力変質が使えるようになったのだな」
「これでポーションを作ってぼろ儲け」
「病気の人達を救いたいですわ」
「次は魔法防御だな」
「何の役に立つの。どっちかと言えば攻撃の方がうれしいかも」
「これを簡易魔道具にすれば薬草が作れるぞ」
「薬草とポーションで丸儲け」
「私は防御の方が嬉しい」
「ユフィアには後で鉄皮スキルを教えてやろう」
「はい」
マリリの所に顔を出す。
「どうしたの冴えない顔つきだけど」
「ティルダを見たら、ビースト国の出来事を思い出して」
「聞いたわ。案内役の人が亡くなったのよね」
「そうなんだ。ちょっと行動に悔いが残って」
「私の事?」
話にティルダの名前が出たので、ティルダが近寄って来た。
「アレックの事だよ。良い奴だったのに」
「そうだね。スラムでは毎日のように死んでたけど、やっぱり悲しみは慣れないわ」
「フィルは充分な働きができなかったって悔やんでいるのよね」
マリリがそう言った。
「もっと別なやり方があったんじゃないかって思うんだ」
「ゴーレム騎士団は護衛任務で死者が出る事もあるの。それで、私も悔やんだわ」
「それでどう克服したんだ」
「なるべく精一杯生きるの。もちろん疲れたら精一杯休む。それが供養よ」
「俺もそうするよ」
「湿っぽい話はもう止めて、商売の話をしましょ」
「よし、精一杯商売するぞ」
「ゴーレム使いを増やしたいのよ。ぬいぐるみを使った獲得方法を新しく入った子に教えてほしいわ」
「いいよ、講習会を開こう」
「ユニスキル使いとデュオスキル使いを集めたわ。よろしくね」
ユニスキル使いはスキルが一つ、デュオスキル使いはスキルが二つしかない。
「スキルが少ない奴は確かに可哀相だな」
「そうでしょ。差別されているのを見たら放っておけなくて」
平和な日々は過ぎて行き、ゴーレム騎士団は千人を超えた。
その間にスタンピートは何度も起こった。
おれはその都度借り出されて現場に赴く事に。
対処方法が確立されているため、大事には至らず僅かな被害で収まった。
こんな生活が永遠に続くのかなと思っていたある日。
「大変です。戦争が始まりました」
ランデ男爵が駆け込んで来た。
「この国が戦場になるのか」
「いいえ、商都市連合国にジャッガム帝国が攻め込みました」
「関係ないなら、無視していれば良いんじゃないか」
「そうはいきません。大陸統一を掲げるジャッガム帝国に商都市連合国は各国に連合を求めました」
「この国も連合に参加するって言うんだな」
「ええ、そうです」
アルヴァルの野郎は確か帝国に身を寄せてたのだったな。
アルヴァルは死んだが、まだ充分に借りを返してもらってない。
帝国に借りを返してもらおうか。
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