第79話 ミリタリーアント

 エルフ国の宮殿は木造で外観は白い木材が使われていた。

 中に入ると黄色みがかった木材が使われていて、微かな良い木の香りが漂う。

 俺達は木で出来た廊下をしずしずと歩いた。

 廊下は至る所できしんだ音を立てる。

 温かみのある宮殿だな。


「ガリアン王国から参りましたランデ男爵と申します。これは親書になります」


 エルフ国宮殿の一室で俺達は年齢不詳のエルフに迎え入れられた。


「外交官のアレグレッドです。所であなた達は先触れですかな。本隊はどの辺りまできているのですか」

「私達が本隊です」

「女子供ではないですか。馬鹿にしているのですか」


 宮殿に来たのは俺とランデ男爵とリンナとモリーとユフィアだ。

 モリーとユフィアは宿に留守番させようかと思ったが。

 リンナがエルフは子供を大切にする種族だから問題ないと言われたので従った。

 しかし、連れてこない方が良かったのかも知れない。


「正確には援軍はサンダー準男爵だけです」

「話しにならん」

「それなら私達は応援にきた腕利きの冒険者とでもお思い下さい」

「そうしてもらおう。いまいましい、ヴァレオの奴があんな法螺を吹かなければ」

「えっ、ヴァレ兄、ヴァレオ・サイラッドじゃないですよね」


 何故かリンナが食いついた。


「そうだ、そのヴァレオ・サイラッドだ。奴めミリタリーアントが数百の女王の卵を産んだとか言いやがって。肝心の本道の入り口も分からずじまいだし、奴は厄病神だ。といっても既に魔力の源に召されたがな」

「そんなヴァレ兄が死んだなんて……」


 リンナのすすり泣きが聞こえる。


「では、サンダー準男爵は好きに動いて下さい。私は知り合いの貴族と会談します」


 重い雰囲気をランデ男爵が破って言った。


「もとよりそのつもりだ。リンナ、行こう」


 俺は泣いているリンナの肩を抱きしめそっとこの場を立ち去るよう促した。


「リンナはどうしたい」

「ヴァレ兄の敵討ちがしたい」

「俺も手伝うよ。まずはミリタリーアントの戦力調査だ」


 ギルドで情報を集めた。

 ギルドはどこも国営だが、その仕組みにほとんど違いはない。

 俺はエルフ国のギルドに加盟してFランクになった。

 Fランクでも情報は教えてもらえた。


 エルフ国の森は地面には苔が地上には蔦が生い茂っていて大変に歩きづらい。

 ゴーレムが鉈を片手に道を切り開く。

 情報があった場所に到達した。

 ここいら辺りにミリタリーアントが出没するはずなんだが。


 カサカサという音が聞こえて蔦を掻き分け黒く光るミリタリーアントがやって来た。

 大きさは大体1メートラだな。

 ワーカーアントと呼ばれている種類だ。

 とりあえず観察しよう。

 ワーカーアントは器用に樹に登ると1メートラの葉っぱをちぎって来て森の奥に消えて行く。

 今度来た時には攻撃してみよう。


 来た。

 銃魔法を撃つ。

 あっけなくワーカーアントに穴が開いた。

 穴から白い体液を噴出して身体を細かく震わせて動かなくなる。

 楽勝だな。

 調子に乗って十匹ほど倒したら2メートラほどミリタリーアントがやってきた。

 こいつは大物だな。

 銃魔法を撃つが弾かれた。

 死魔法で仕留める。

 死魔法には対抗できないようで、身体を震わせ動かなくなった。


 ワーカーアントを十匹やっつけると決まって大物が現れる。

 繰り返しにも飽きてきた。


 今日はこのぐらいにしておこう。

 ギルドの買取所にミリタリーアントを持ち込む。

 1メートラのワーカーアントを次々にアイテム鞄から出す。


「おいおい、何匹狩ってきたんだ。お前は見かけた事が無い。年齢からして新人だろう。だが、凄腕だな。装備も充実してる」


 受付の人間が簡単の声を洩らした。


「おかげさまで」


 俺が2メートラのミリタリーアントを次々に出すと場の雰囲気がはっきりと変わる。


「凄えな。久しぶりに見た。傷がないな。訂正する超凄腕だ」

「それほどでもないな」

「それほどでもって。謙遜かい。ソルジャーアントをこんなにやっておいてよく言う」

「それほど厄介なのか」

「ワーカーアントが厄介なんだ。ワーカーアントを倒せば倒すほどソルジャーアントが寄ってくる。ワーカーアントは五匹までってのが、長生きのコツだ」

「関係ないな。ソルジャーアントを倒し続けるとどうなるんだ」

「噂では4メートラのジェネラルってのが出てくるらしい。見た奴はいないがな」

「挑戦してみよう」

「大言壮語もそこまで行けばたいしたもんだ。期待してるよ」


 金を受け取ったが、この国のお金は帰ったら使えない。

 ぱーっと使ってしまおう。


 モリーとユフィアを連れて買い物に出る。


「あれが食べたい」


 モリーが指差した先には1メートラの緑の果物が置いてあった。


「モリーったら食いしん坊ね。私はあれで良いです」


 ユフィアはオレンジ色のツルツルした果実を指差した。


「両方もらおう」

「持って帰るんですかい」


 売り子の獣人の男性は不思議そうに俺を見た。


「この場食えるのなら食いたい」

「いいですぜ。水脈ヤシの方は穴を開けるだけだし。ピミナンは手で皮を剥けば食えますぜ」

「やってくれ」


 水脈ヤシの実に工具で穴が開けられた。

 男はよいしょという掛け声を掛けて実を肩に担ぐ。

 ボールに実の中の汁を垂らし始める。

 モリーが好奇心に負けてボールの中に指をいれ舐めた。


「あまーい」

「そうか、皆で飲もう」


 三人でコップに入れた汁を飲む。

 薄いミルクのような匂いがして味は少しすっぱくて甘かった。

 ピミナンはねっとりして少し不思議な後味の残る味だった。




「今度はあれ」


 モリーが指差した防具店に入る。

 黒光りする鎧が飾ってあった。


「あれが見たいんだが」


 俺が甲殻の鎧を指すと店員がにこやかに応対し始めた。


「御目が高い。ソルジャーアントを加工した一品です。金貨十枚になりますが、いかがいたしますか」

「もらおう」


 俺はアイテム鞄に鎧を収納していると、モリーが他の物を物色し始めた。

 カミキリ虫魔獣の下翅を使った栞にユフィアが興味を示したので土産に購入。

 物見遊山も今日までだ。

 明日はジェネラルアントに挑戦してみたい。

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