第74話 エイブラッド伯爵邸

 人の出入りを数えると十人ぐらい常に中にいるようだ。

 慌てて男が駆け込んで来て慌しくなった。

 どうやら炭焼き小屋のアジトを潰したのが分かったのだろう。


 俺は人の出入りと合わせてこっそり中に入った。

 魔力ゴーレムを一人一人に張り付かせてタイミングを計る。

 今だ。

 スタンガン魔法を一度に放つ。

 ばたばたと男達が倒れる。


「何だよ。どうしたんだ」


 魔道具使いだけ影響を受けてないみたいだ。

 封印の力を発動されて俺の迷彩スキルが解ける。


「お前は賞金首のフィル。お前の仕業か」

「いつまでも封印が役に立つと思うなよ」


 魔力に精神感応エネルギーを奪われないように命令して土魔法で石弾を発射する。


「ちょろいぜ」


 魔道具使いの少年に石弾が当たり溶けるように消える。

 魔法防御だな。

 スキルの詠唱がない所をみると魔道具だろう。


 スタンガン魔法はさっきやって駄目だったから、撒菱を撒く事にした。


「へんだ。俺の靴は鉄板入りだ。対策はばっちりだよ」


 撒菱も効かないとなると、ゴーレムでタコ殴りしかないな。

 魔力結晶ゴーレムを五体出して近接戦闘させた。

 スキルを重ね掛けしたゴーレムは素早い。

 少年は動きについていけないようだ。

 剣で少年をさんざんに叩くが効いている風がない。

 防御特化って奴だろう。


「あれから懸命に集めた俺の魔道具の威力はどうだ。俺にダメージを与えられるのならやってみろってんだ」


 そうだ。


「ライタ、滅殺陣だ。空気を吸いだせ」


 ヒュウと音がして少年の回りの空気が吸いだされた。


「息が……」


 そういうと少年はパタリと倒れた。

 空気を慌てて戻した。

 風魔法を使い人工呼吸を開始する。

 悪人でも命だからな。




 程なくして少年は息を吹き返した。

 契約魔法でスキルが使えないように縛る。

 そして、魔道具を取り上げた。


 持っていたのは封印と物理防御と魔法防御の魔道具だった。

 調べたところ物理防御の魔道具は充填すると一回しか使えないようだ。

 それを少年は三十個以上を体に巻きつけ持っていた。

 よく作動させる魔道具を間違えないな。

 思考を強化するようなスキルを持っているのだろう。


 音につられて来た野次馬に近衛騎士を呼んで来るように頼む。

 程なくして近衛騎士がアジトに来て闇ギルドの人間を運び始めた。

 机の上の書類を見ると違法奴隷の納入先が書いてある。


 なになに、エイブラッド伯爵邸と書いてあるが、非常に罠くさい。

 だって、これ見よがしに机の真ん中に置いてあるのだから。

 でも行かなくちゃな。

 違法奴隷は放っておけない。




 俺は単身、エイブラッド伯爵邸に乗り込んだ。

 門番も居なくて扉も開けっ放しになっている。

 人の気配がしないので、凄い不気味だ。


 どんどん奥に入って行く。

 大広間でエイブラッド伯爵と思われる人物は待ち構えていた。

 側には一人薄汚れた違法奴隷が寄り添っている。

 伯爵は小太りの中年で髪をオールバックに撫で付けている。

 違法奴隷は髪の長さから女性のようだ。

 フラフラとしていて視線も安定しない。




「ふふふっ、遂にやったぞ。究極の力を手に入れた。近衛騎士の大群が来ると思っていたがまあいい。サンダー準男爵、貴様で試してやる」

「何を手にしたが知らないが観念しろ」

「おい、やれ」


 伯爵が違法奴隷を小突く。

 違法奴隷が絶叫を上げると魔力が集まり始めた。


 もの凄い魔力だ。

 王都が跡形も無く吹き飛ぶんじゃないかというぐらいの濃さだ。

 魔力視には違法奴隷が太陽より眩しく感じられた。


 俺は魔力ゴーレムに魔力放出させ始める。

 魔力に封印の魔道具と同じ事をして、違法奴隷が集めた魔力から精神感応エネルギーを奪い取るよう命令。


 吸い取ったエネルギーは魔力ゴーレムに吸収した。


『もう限界だ。これ以上は吸い取れない』

「そうだ、魔力結晶に吸い取らせよう」

『おう、了解』


 魔力結晶ゴーレムに精神感応エネルギーが吸い取られていく。

 エネルギーを吸い取られた魔力は花びらが散るようにはがれていった。

 違法奴隷の回りに漂っていた魔力が全て無くなり、伯爵はあっけにとられた表情を浮かべた。




「なぜだ。なぜ上手く行かない」


 その時、違法奴隷が伯爵の首筋に噛み付いた。

 伯爵から血しぶきが上がる。


「憎い……怨んで……」


 そう言うと違法奴隷は事切れて、伯爵を巻き込んで大爆発した。

 俺は魔道具使いから取り上げた物理防御を一つ作動させてあった。

 なんとか助かり辺りを見回すと伯爵邸の柱や壁が倒れて酷い有様だ。

 魔力結晶ゴーレムも残骸になっていた。


 違法奴隷、助けられなかったな。

 後味の悪い結果だな。

 俺は魔力の根源に魂が召されますようにと心の中で祈った。



 近衛騎士の到着を待つ間、金庫を漁る。

 他の違法奴隷の手掛かりがあるんじゃないかと思ったからだ。

 そこには本があり伯爵が何をやろうとしていたのかが分かった。


 魔力は精神感応エネルギーに反応する。

 強い感情に反応する訳だ。

 人間の強い感情というと憎しみや悲しみが人工的に発生させやすいのだろう。

 違法奴隷に憎しみを持たせて魔力を集めさせた。

 これを武器に使おうと失敗したらしい。

 なぜなら高濃度の魔力は奴隷契約を解除するからだ。

 これまでの仕打ちの怨みで違法奴隷は伯爵を殺害したのだと思う。


 本には憎しみを凝縮させると無限の魔力が得られると書いてあった。

 だが憎しみで魔力を集めると思考は破壊に向かうのではないか。

 平和利用なんてできっこない。

 この本は燃やそう。




 その本の他には日記と邸宅の見取り図なども見つかった。

 伯爵は忘れっぽい人間だったようだ。

 見取り図には隠し部屋や抜け道も書いてある。




 この邸宅には地下室があり、中には違法奴隷が沢山いた。

 奴隷契約を解除して話を聞けそうな人から話を聞いた。


「どんな事をされた」

「薬だよ。幻覚を見るんだ。大抵は化け物に襲われる」

「そんな酷い事を」

「滅茶苦茶さ。その時に言われるんだ。何でもいいから憎めってな。俺は冒険者やってたから魔獣に襲われるのにも慣れていたから良いが。人の悲鳴を聞くのは嫌なもんさ。たまらんかったよ」

「こんな事を引き起こした。闇ギルドには絶対ツケを払わせる約束するよ」


 俺は近衛騎士に後を任せ金庫にあった日記の手掛かりを頼りに闇ギルドの拠点に殴りこむ事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る