第33話 ティルダ覚醒
家に帰り、魔力操作の簡易魔道具をティルダに渡す。
「なによ、これ」
半月型の簡易魔道具をしみじみと見つめるティルダ。
「魔力操作のスキルを覚えられるかもしれない道具」
「痛かったりしないでしょうね」
ティルダは少し不安な表情で尻尾を足の間に挟み言った。
「そこは大丈夫だ」
簡易魔道具を受け取ったティルダは魔力を充填してお腹に押し付けた。
「どうだ、何か感じたか」
「うーん、何とも言えないわね。感じるような感じないような」
「魔力が腹の中で交差してぶつかるのを想像するんだ」
「想像したわ」
「魔力がぶつかるのが分かれば、まずは成功だ」
「全然、分からない」
「駄目か」
そんなに簡単に魔力が分かれば苦労しないよな。
魔力放出の数を増やして、十本ぐらいの魔力が交差するようにしたらどうだろう。
いやここは思い切って百本だな。
「ちょっと改造してみるよ」
俺が簡易魔道具を作るのを興味深げにティルダは見ていた。
たけど、簡易魔道具が大きくなって行くうちに大丈夫かと心配になったみたいだ。
腹巻ぐらいの幅になった簡易魔道具。
魔力の充填はティルダには無理なので俺が行う。
試しに俺は簡易魔道具を軌道して自分で試してみた。
腹の中の魔力の感触があるのがはっきり分かった。
この感じはまるで魔力走査スキルだな。
「そこに寝て簡易魔道具を腹に載せてみて」
俺は床にシーツを引いてティルダを仰向けに寝せた。
腹に載せた簡易魔道具を俺は起動した。
「俺の魔力を受け入れてくれ」
「ええ」
「まだ何も感じないか」
「ちょっと待って少し温かい物が体の中にある。もの凄くだるい」
熱として捉えるのか、俺の時はそんな事無かったな。
個人差があるようだ。
それと、魔力疲労が起こるのは当たり前だ俺の魔力だからな。
俺は簡易魔道具を止めてティルダの回復を待った。
回復したようなので実験を再開する。
「胸の所に温かい物があるはずなんだ。それを動かしてみて」
「分からないけど、動いたような動かないような」
「スキルが増えてないかな」
「見てみるわ。ステータス・オープン。魔力操作スキルが増えてる!」
魔力視がなくてもスキルが増えるんだな。
熱として感じるのが魔力視の代わりになっているのかも。
魔力温感とかのスキルになっていないのはなぜだろう。
魔力の正体に近づいて禁忌を踏みそうになっているんじゃないだろうな。
俺もさっきステータスをチェックしたが新しいスキルは覚えていない。
魔力感触とか増えても魔力視ほど便利じゃないからいいけど。
とりあえずティルダには筋力強化のスキルを教えてみよう。
「その魔力操作スキルを使って全身に魔力を循環させてみて」
「ええ、魔力操作」
「そうしたら、魔力を感じながら魔力が筋力を強くするのを想像するんだ」
「やってみる。うーん強くなった気がしないのだけど」
「俺が手本を見せるよ。筋力強化」
「意識を集中するとフィルの魔力が分かるわ。フィルの全身からもの凄い熱気が伝わってくるけど、大丈夫なの」
着ぐるみゴーレムを感知しているのか。
「気にしないで、それを意識から外すんだ」
「あっ、循環する魔力の熱が分かるわ」
ティルダは集中を解いた。
「もう一回やってみる。魔力操作」
「スキルが増えているはずなんだけど」
「ステータス・オープン。凄い、筋力強化スキルが増えてる。こんな重要な事を教えてもらっても良いの」
「良いんだよ。命を助けてもらったから。だけど、魔力操作のスキルって、たぶん幻とか秘奥義のスキルだと思うから、人には言わない方が良いかも」
「そうね。魔力が操作出来るなんて聞いた事が無いわ」
「俺も聞いた事がないな」
手本を見せないと覚えられないのは魔力を感じるのが魔力視より劣るという事なんだろうな。
手探りで作業をするのと実際に見えてるのでは違うという事か。
魔力を感じるのは魔力走査スキルに近い気がする。
「ねぇ、魔法はどうやるの」
「魔力を水とかに変換するイメージを持たせて体の外に出すかな」
「やってみる。魔力操作。駄目みたい」
ティルダは手を突き出したが何も出ない。
「手本を見せるよ。水魔法」
「水魔法なのに暑く感じる。不思議ね。魔力操作」
今度は突き出した手から水滴が出て宙に浮かんだ。
「やった、出来た。今度は斬撃強化を教えてよ」
「俺もそれは分からない。待って、ちょっと考える」
水魔法は水を薄い膜にして切れ味を高める。
変形を使った切れ味強化は剣の金属を流動させる。
後、今の所考えつくのは分子の結合を引き裂くかな。
「えーと、物の結合力を弱めて引き裂く力を剣の刃に発生させるなんてどうかな」
俺は腰の剣を抜き実際にやってみた。
「分かった気がする。魔力操作」
ティルダは腰から剣を抜いて一回、素振りした。
「ステータス・オープン。やった、斬撃強化を覚えた」
考えるに魔力操作って最初に覚えるべきスキルじゃないだろうか。
前にも思ったが魔力放出のスキルを持っている人が沢山いれば可能なはずだ。
「魔力操作があれば、スキルは増やし放題だと思うから気をつけながら色々試してくれ」
「今日はありがとう。じゃあ行くね」
「行ったな。ライタ、魔力操作の事どう思う。みんなが知ってて当然のスキルだと思うんだけど」
『失われた技術じゃないかな。それに魔力放出をレーザーみたいにして交差するって難しいだろ』
「うーん、それだけではないような」
『どうだろう。コロンブスの卵だと思うよ』
コロンブスの卵をライタの知識から調べたが、発想が分かれば容易いのか。
それでも過去に試した人はいそうな気がする。
魔力放出を体内で交差させると病気になるとか。
無いな、俺は少なくともなんともない。
「魔力を感知するスキルが覚えられないのも謎だ」
『超越者よ、ヘルプを寄越せ』
「くれる訳ないだろう」
『駄目元で言ってみた』
「契約魔法の許可が特別なのかな」
『たぶん温度として魔力を感じるなんて許可したら、暑さのあまり発狂するかもな』
「そうだね、許可は危ない」
『推測だけど、魔力を感じると禁忌に近づくから、超越者がスキルを作ってないとか』
「それだと魔力視はどうなるの」
『禁忌を犯したのに死ななかったから、特別視しているんじゃないかな』
「確かに興味深いとか言ってたもんな」
『スキルも微妙に不便だし、不親切極まりない世界だな』
「仕方ないよ人間が作ったんじゃないし」
『そうだな』
『質問に答えよう』
「ライタ超越者が」
『分かっている。ヘルプ寄越せと言った時から時間が経っているけどなぜだ』
『我々は十万を超える同胞がいる。全員に許可を取っていた』
「超越者ってそんなに居るの」
『まずは超越者の目的を話してもらおう』
『その前に許可が欲しい』
「許可って何?」
『ライタと呼ばれているスキルのコピーが欲しい』
「そんなの作ったのは超越者だから、勝手にコピーすれば良いんじゃない」
『我々にも色々とルールがあるのだ』
「ライタに危害が及ばないのならどうぞ」
『もらったお礼に質問に一つ質問に答えよう。先ほどの問いでいいのか』
「それでいいよ」
『我々の一番大きな目的だが、進化の芽を探している』
「進化の芽って何?」
『新しい生物になる可能性をもった個体だ』
『ははーん、なんとなく分かった。要するにこの世界は箱庭で、超越者は進化の実験しているってとこだろう』
『それには答えられない。一つ警告をしておく。魔力を感じるのは禁忌を犯す一歩手前だと言っておこう』
「それじゃ魔力視と魔力走査スキルは大丈夫なのか」
『それは大丈夫だ。スキル作成担当の超越者として保証する。では、さらばだ』
やっぱりな、魔力を感じるのは危ないらしい。
ティルダに知らせなきゃ。
「ライタ、少し謎が分かったね」
『そうだな、俺達が前に興味深いと言われたということは……俺達は進化しているって事なのか』
「そうみたいだね」
居場所を聞いてなかったので冒険者ギルドに行きティルダへ伝言を残した。
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