その736 オリヴィエ
「ほ、法王国よりオリヴィエ・ライズ・バーリントン様のご到着にございます!」
ミナジリ城の謁見の間にて、「ちょっとやってみなよ」とダイモンに任せた、オリヴィエ到着の口上。
ガッチガチに緊張こそしているが、中々悪くない滑り出しである。
あいやー……報告通り、本当にライゼン団長とクリス副団長がいる。法王国の姫君とはいえ、聖騎士団の最高戦力を二人を護衛に付けるとか、ゲバン君は阿呆なのだろうか。彼らは勇者の盾って改めて決まったばっかりじゃないか。
んで……あの中央をおしとやかに歩き、優雅なドレスを纏い、気品に満ちたあのご尊顔。
「ぅぉ……」
思わず声が零れてしまった。
隣に控えるナタリーちゃんからの視線が熱い。石炭からダイヤへ変化させるくらい熱い。あの子、目で殺しにきてる。
しっかし、クリスもそうだが、とんでもなく可愛い。
くりんとした瞳、通った鼻、瑞々しい唇。珠のような肌というのは彼女のためにある言葉かもしれない。少女のようで、そうでないような……レティシアともルナとも違う。
彼女はもしや――、
「ミケラルド・オード・ミナジリ様、お初にお目にかかります。法王陛下が第一子、ゲバン・ライズ・バーリントンの娘、オリヴィエ・ライズ・バーリントンと申します。また、急な訪問にもかかわらず拝謁賜りました事、心より感謝致します」
目を伏せ、最高にキマってる
これまでは不敬にあたらぬよう、オリヴィエは目を伏せ歩いていた。そう、このタイミングで初めてオリヴィエは俺を見たのだ。
四ちゃいの俺を。
隣のライゼンやクリスも驚いていたようだが、オリヴィエは俺のこの姿を見るのは初めてだろうからな。
玉座から出た足が床に届かないのだ。なんかのギャグかと思う程、異様とも言えるこの光景。
しかし、オリヴィエはすっと目をを戻し、輝かんばかりの笑顔を見せ微笑んだ。
やはり彼女は、生粋の貴族と言える。
おそらくゲバンがそう育てたのだろう。ルナ王女よりも、レティシア嬢よりも、深く政治の世界に足を突っ込んだ、エリート中のエリート。子供と思って接すれば、後で痛い目に遭うだろう。
「オリヴィエ殿、遠路はるばるようこそいらした。
「ありがとうございます。
「それはそれは……先の
ピクリと反応するオリヴィエ。
俺が父親に対して挑発したのだ、仕方ないだろう。
まぁ、この謁見での目標は、クルスアゲ、ゲバンサゲだしな。
「ふふふ、そのような事はございません。父はミケラルド様の活躍に
「ふむ……では、ミナジリ共和国としてではなく、冒険者ミケラルド個人として受け取ろう」
「……それは一体どういう事でしょう?」
「ん? ゲバン殿は私の活躍に対する礼をしたのだろう? 確かオリヴィエ殿はそのように言ったと思ったが、聞き違いだったか?」
俺はロレッソに顔を向け言った。
「いえ、確かにそのように仰っておりました」
ロレッソの証言をもらい、俺は続ける。
「私はクルス殿に個人的に頼まれ、個人的に
言うと、オリヴィエは言葉に詰まった。
オリヴィエとしてはミナジリ共和国に対しての礼という事で手土産を持って来たが、些細な言い間違いによって俺の名前を出してしまった。
「いえ……そのような事は」
そうだ、父の非とする訳にはいかない。
こうなってしまった以上、『それでも尚、ミケラルド個人に手土産を持って来た』と言い張るしかないのだ。
「うむ。しかし、そうなると私からもゲバン殿に何かなくてはな。ナタリー、どう思う?」
「わざわざ法王国の将軍が個人に対して感謝をしたのですから、これを機にゲバン殿との交友の機会を設けてはいかがでしょう」
「お、それはいいかもしれないな。どうだ、オリヴィエ殿、頼まれてくれるだろうか?」
「承知致しました、法王国に戻り次第、父より改めてご連絡させて頂きます」
「この身は法王国に入れない故、よろしく頼む」
さて、ゲバンとやらはわざわざ法王国を出てまで、俺に会いに来るだろうか。
「そうだ、先の戦いでは法王国……いや、クルス殿には多大なる迷惑をかけた。私個人からクルス殿に謝罪の意を表してこれを用意した。オリヴィエ殿には申し訳ないが、是非クルス殿に渡して欲しい」
俺はロレッソに合図を送り、用意した箱をオリヴィエの下に持って行く。
ロレッソから箱を受け取ったオリヴィエに、俺は言った。
「開けてみてくれ」
箱をオリヴィエの顔が驚きに染まる。
「こ、これは……!」
箱から現れたのは、オリヴィエの両手にも収まりきらない――巨大なダイヤモンド。
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