その706 三つの質問
その報酬内容を聞いた時、俺はバッと手を前に出した。
待ってくれと言わんがために。
「何か?」
「その前に、その質問に関する質問をしたいのですが……?」
「……いいでしょう、ただし、質問に関する事のみです」
「お聞きしたいのは一つだけ。霊龍、貴方が答えられない質問だった場合、それは質問回数にカウントされるのでしょうか?」
無駄に質問を浪費したくない感情は、霊龍にも理解出来るだろう。
これの答え次第では、俺の質問も限られてくる。
「私自身が答えられない事……回答が出来ないという事自体が私の答えです。当然、質問の機会は一つ失われるでしょう」
……よし。よし、よし、よし。
いいぞ、とてもイイ答えを得られた。
俺は宙に浮き、胡坐をかきながら腕を組んだ。
ぷかりと浮かび質問を考えていた俺は、それが決まった瞬間霊龍の目を見た。
「……まず一つ目。【魔族四天王たちは何をしようとしている?】」
最初の質問……それは、魔族の不可解な行動の答え。これがわかれば、俺の動きが決まってくる。ここで魔族と限定してしまえば、霊龍の答えが漠然としたものになってしまう可能性が高い。ならば、魔族四天王に括ってしまえばより明確な答えを得られるはずだ。
「……当代の勇者エメリーと聖女アリスの覚醒を未然に防ぐ事。それにより魔王復活を防ぎ、
「なっ!?」
「既に魔王復活に足るだけの魔力が魔界にあるのは
「世界の――っ!」
おっといけない。危うく質問してしまうところだった。
だが、有力な情報が得られた。世界の仕組みとやらに気付いたのは
なるほど、魔王という蓋を開けず、未だグツグツと煮込んでいる最中って事か。
先の戦争で、聖女アリスが
あれにはそんな意味があったって事か。
スパニッシュが地位を求めていないと言っていたのも、それで説明がつく。そして、魔人が魔族四天王に従っていた理由も。
ダンジョン帰りに魔界にでも行って
「……とりあえず、この問題に対し、貴方が手を出せないという事はわかりました。ご配慮ありがとうございます」
霊龍の目が細くなる。
まるで、ニコリと笑ったような?
「……では二つ目の質問です。【賢者プリシラの師、古の賢者とはどこに行けば会えるのか?】」
古の賢者の情報、出生、生い立ち、種族、名前、人相、狙い……やつについての情報はほとんど得られていない状況だ。霊龍の回答内容を知った今、これを聞く事で必ず進展があるはず。
「残念ながら、その質問に答える事は出来ません」
…………やはり。
「なるほど、それが目的でしたか」
霊龍は、まるで俺を褒めるように言った。
何故褒められたのかはわからないが、今回の質問に関する俺の狙いは明確だ。
古の賢者――やつは、霊龍の力の及ばない存在、または、霊龍自身の指示で動いている可能性がある。
質問に答えると、霊龍自身の存在に影響を与える存在……それが古の賢者。なんとも厄介な存在じゃないか。
それがわかっただけでも大収穫と言える。
無暗に近付いて殺される可能性を排除出来るだけでも大きな進展だ。
「では、最後の質問に答えましょう」
これは、やっぱり聞いておかなければならない事なのだろう。俺は自分の掌を見、強く握る。
「私の……いえ、【俺の中には一体何がいるんだ?】」
俺がそう言うと、そこからしばらくは沈黙が流れた。
俺は質問を投げつけた。後は霊龍の問題。しかし、その霊龍が動かない。まさか、それすらも答えられないというのか?
いや、違う。
……霊龍は、考え込んでいる? まるで、どう答えればいいのかを迷っているように見える。しかし、それならば答えられるという事。迷っている理由は何だ?
長い沈黙の後、霊龍はすっと目を閉じて、諦めたように言った。
「いいえ、アナタの中には
短く、簡潔に。
「いや、おかしいでしょう。そんなはずはない……」
そう言うも、霊龍は首を横に振るばかりだった。
ナタリーを守るため、ドゥムガと戦った時。
ミナジリ共和国を守るため、雷龍シュガリオンと戦った時。
明らかに俺の意思とは違うナニカがあった。
暴走という一言では括れないナニカが。
それなのに……!
俺は不満を隠せなかった。たったそれだけの事なのに。
目を伏せた霊龍。まるで、子供の癇癪がおさまるのを待つ母のように、ただ沈黙を貫いていた。
いつの間にか、握った掌からは血が流れていた。
霊龍は質問に答えた。自身の役目をこなしただけだ。
霊龍にその不満をぶつけるべきではない。そんな考え自体が間違っている。
そう自分に言い聞かせ、俺はすっと手の力を抜き、大きな溜め息を吐いた。
「……もう一度ダンジョンに潜ったら報酬は貰えるんですかね?」
そして、いつもの俺に戻ったのだ。
そう、霊龍が答える質問は三つだけ。
しかし、四つ目を質問してはいけないという制限はなかったはずだ。それに、この質問は、霊龍にとっても重要なはずだから。
すると、霊龍は言った。
「ふふふふ、まさか四つ目の質問があるとは思いませんでした。が、それには答えねばならないでしょうね。私と、アナタのために」
「えぇ、私の労力と、貴方の労力のために」
ニヤリと笑った俺と、くすりと笑った霊龍。
調査という名目なれど、今回のこの一件……どう報告書をまとめればいいものか。
困ったアーダインの顔を前に、茶をしばくのも面白いかもしれない。
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