その705 突破の報酬
「さて、そろそろ終わりにしようか。これ以上戦闘データを集めてもしょうがないしな」
【覚醒】、【解放】、【魔力還元】、【脚腕超同調】を使い、
「せーぇのぉ!」
力を込めた強力な右腕。
パンと弾ける大気。
それは、同時にドッペルゲンガーの身体をも巻き込んだ。
本日の白い空間のお天気――降血確率百%、ところにより肉も降るでしょう。
「うわぁ……」
俺は、呆れた時のアリスみたいな声を出し、自分の手をじっと見た。
これは、兵器と言われても仕方ないかもしれない。
「普通弾けるかな? 風船かよ」
自分の力に対し悪態を吐くも、ツッコミ担当が不在のため、俺のボケは虚空へと消える。
さて、おそらくこれでクリアのはず。
まさか
「おっ?」
遠目に光が見えた。 ポォっと光る縦一線の光を。
俺はそこへ一足跳びに近付き、光をよく調べた。
よく見ればそれは、縦一線ではなく、観音開きの扉の輪郭……扉が白い空間と同化しているのは、おそらく扉自体に【歪曲の変化】がかかっているからだろう。だが、今の俺でも見破る事の出来ない【歪曲の変化】……か。
霊龍の力は、おそらく俺のイメージする最強に近いところにあるのだろう。当然だ、魔王を打ち破る力を持つ【勇者】や【聖女】という称号を創り出しているのだから。
俺が扉に触れると、扉は奥に向かって開かれた。
直後、扉の奥にあった光が俺を包んだ。
それと共に、背後にあった白い空間は消え……俺は?
「嘘だろ……!?」
俺は自分の足下を見て
足下には……何もなかったのだ。
俺は宙に浮かんでいた。それも空ではない。ここは空よりも上……宇宙。暗い星々の下に俺が浮かんでいる。
眼下には……果てしなき大地。
だが、先程声が出たように呼吸は出来る。
これはもしかして風魔法? ……ん?
「っ!」
振り返った俺の視界には、ただ宇宙空間があるだけ。
いや、今確かにこっちに気配が?
「くっ!」
また!
振り返り、また振り返り、頭上を見、眼下を見る。
「どこだ! どこにいる!」
俺でも捉えきれない速度。
だが、確かにここにナニカいる。
品定めするように観察し、俺の死角に潜んでいるナニカが。
「最下層だと睨んでたのに、まだこんなサプライズがあるとはね」
失敗だった。
これだけの実力者……今の俺では太刀打ち出来ないだろう。
「いいえ、ここが最下層です」
「っ!」
それは、一言で言うならば……世界の母のような声だった。
正面から聞こえたその声に向かい、俺は咄嗟に魔力を放出して警戒を示したのだ。すると、先の扉のようにソレは姿を露わにした。
「……ぁ」
声に出来たのはそれだけ。
俺の前には、先に倒したドッペルゲンガーにそっくりな龍がいた。
サイズが違う。まるで山のような大きさだ。
魔力が違う。俺の魔力がまるで石ころのようだ。
存在感が違う。これが絶対なる存在だと……身体が理解してしまう程に。
俺は、息を呑み……ただただその圧倒的な存在を見上げていた。
すると、やつは静かに言った。
「ミケラルド・オード・ミナジリ……またの名をミケラルド・ヴァンプ・ワラキエル……いえ、【
「っ!?」
一瞬、相手が何を言っているのか理解出来なかった。
しかし、すぐに理解出来た。転生前の名前。それが俺――勝田勝。
そんな名前だから、俺は子供の頃「
それを知っているという事は、つまり……、
「……貴方が【
「ふふふふ、そんなに警戒しなくとも、私がアナタを害する事はありません」
やはり……!
「世界への不干渉、ですか」
「えぇ、我が力は世界に大きく影響を与えます。故に、リィたんや
そういえば、以前、
霊龍は強すぎるが故に世界に手を出せないのか。
「まさか霊龍との謁見がダンジョン攻略の報酬だとは思いませんでした。しかし、納得も出来ます。これ程の報酬……これまでのダンジョンとは比べものになりませんから」
「私と会うことにそれ程の価値を?」
「勿論ですよ、これは、世界の謎に迫れる絶好の機会と言えますからね」
「確かに、情報は時に財宝以上の価値をもたらします。しかし、その全てを私が教えるとは限りません」
全てを教えられない?
……あぁ、つまりそういう事か。
「なるほど、そこでも世界への不干渉が成立すると」
「聡明とはアナタと共にあるべき言葉なのでしょうね。その通りです、膨大な情報は世界のバランス崩壊へと繋がります」
「ではこのダンジョンの報酬とは?」
「三つです」
「は?」
「どのような質問でも、三つだけお答えしましょう」
この霊龍、出身は魔法のランプか何かだろうか?
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