◆その667 オリハルコンズ式脱出げえむ1
ミケラルドが講師として提案した指定任務。
その前日、夜深くまでリーガル国の王女ルナは悩んでいた。
持ち帰り可とされた説明用の冊子を前に、顔を難しくさせるルナ。
それを困った様子で眺めるヒフミヨシスターズ。
「困りましたわ、ヒミカお姉さま」
「そうね困ったわね、ヨミカ」
「どうしましょう、フミカお姉さま」
「我々に出来る事は少ないわ、ミミカ」
「「おろおろ」」
そんな四人の声をステレオで拾ったルナは、深い溜め息を吐いて言った。
「で、出来ればもう少し静かにして欲しいのだけれど……」
「「かしこまりました」」
一糸乱れぬ返答をした四人は、更に声を落として言った。
「「おろおろ」」
眉間のあたりにピクリと反応を見せたルナ。
すると、部屋にノック音が聞こえた。
直後、すっと消えるヒフミヨシスターズ。
ギョッとしたルナが催促のようなノックに反応し、ドアを見る。
「ひっ!?」
ルナが驚くのも無理はなかった。なんと、ドアの上部の天井にピタリと張り付いたヒミカ、フミカ、ミミカの三人を見つけたのだ。最後の一人であるヨミカは部屋にある唯一の窓を警戒していた。
(さ、流石はミケラルド殿が手配してくださった精鋭。動きに無駄がありませんね……)
そう思いながらルナは立ち上がり、ドアに向かう。
「はい?」
『ルナ王女殿下、レティシアにございます』
レティシアが公爵令嬢とはいえ、ルナ王女の部屋を訪れる時間としては夜も深かった。しかし、レティシアも政治や礼儀がわからない人間ではない。それでもなお訪問する、よんどころない理由がある。そう察したルナは、そっとドアを開けた。
「いかがしました、このような時間に?」
「明日の事で少々お時間を頂けないでしょうか?」
互いに知らぬ仲ではない。コクリと頷いたルナは、レティシアを部屋に招いた。ドアを閉め、振り返った瞬間、ルナはまたギョッと目を丸くした。
部屋の中には、レティシア、ヒフミヨシスターズ以外にもう一人いたのだから。
「ヒ、ヒミコ殿……!」
整列したヒフミヨシスターズの前に立つヒミコ。彼女はミケラルドが用意したレティシアの護衛。同じ寮内という事もあり、レティシアに付き従うのルナでも理解出来る。しかし、招いた覚えのない存在がいた事で驚きを露わにしてしまったのだ。
「こんばんはぁ、ルナ王女殿下。お茶が冷めてしまいますよぉ」
微笑を浮かべるヒミコ。
見れば、今まで座っていた場所には二人分の茶が用意されていた。
「はぁ……」
何度起ころうとも慣れないその環境に、ルナはまた深い溜め息を吐いた。
ルナが腰掛け、それに続きレティシアが腰掛ける。
「それで、明日の件でという事ですが、どういう事ですか?」
「私、ようやく気付いたんですっ」
テーブルから身を乗り出すように肉薄するレティシア。
「な、何がでしょう?」
「ミケラルド様は昨日私が質問した時に言いましたっ!」
「昨日……? レティシアさんの質問というと……――」
――あの……やっぱり護衛は……?
それは、ルークという護衛を付けられないのか、という質問だった。
それを思い出したルナが小首を傾げる。
「護衛の付き添いは禁止。これに気付く点なんてあるんですか?」
「問題はその前ですっ!」
更に肉薄するレティシア。
「ま、前……?」
再度思い出すルナ。
――えぇ、当日は護衛の付き添いは禁止です。
ミケラルドの言葉を思い出すと同時、ルナがハッとした様子でレティシアを見た。それはもう満面の笑みを見せるレティシアを。
「当日の護衛付き添いは禁止。しかし、当日以外であればその限りではない……そういう事ですね?」
「はい! 護衛と相談してある程度の対策や相談が出来るんです!」
「盲点でした……自分の力だけで乗り越えようと、ずっと考え込んでましたから」
そう言って、ちらりとヒミコたちを見るルナ。
彼女たちは微笑みむばかりで何も言ってこない。
(あの人たち、気付くまで黙ってましたね……)
ルナがそれに気付くも、その微笑みを覆す事は出来なかった。
「大丈夫です。まだ時間はあります!」
バッと立ち上がるレティシア。
「えぇ、勿論です」
意気込むように立ち上がるルナ。
二人はルークの部屋に行こうとドアに足を向けた。
そこに、くすくすと笑う声が届く。
背後から聞こえるヒミコに二人が振り返る。
「な、何か?」
「なーに、ヒミコ?」
「もしかしてお二方、
そう言われ、自らの姿を見合う二人。
ルナの目に映る、すっぴん寝間着姿のレティシア。
レティシアの目に映る、すっぴん寝間着姿のルナ。
たとえルナが勝気の王女だろうと、たとえレティシアが策略型公爵令嬢だろうと、顔を真っ赤に紅潮させてしまう。
ニタリと笑うヒミコが言う。
「夜深くに寝間着姿で殿方の部屋へ訪問。もはや政治を抜きにした強硬手段。流石の私も顔が火照ってしまいますわぁ。まぁ、あの御方でしたら、そちらのがお好みでしょうけど」
「「あらあらまあまあ」」
ヒミコ、ヒフミヨシスターズが顔をほんのり赤くさせ、わざとらしくはじらう。
「え、ホントッ!?」
というのはレティシアだけで、ルナ王女はそそくさと鏡台の前に座った。
「それだけ火照ってると、チークは必要ないかもしれませんねぇ?」
ヒミコがルナを煽る。
「お、おお、お黙りなさいっ! レティシアさんも早く準備を」
「えー、でもヒミコがこっちのがいいかもって言ってましたよ?」
「だ、ダメです! こ、これは高度に政治的な話なんですっ!」
「あ、だったらもう少し薄手の寝間着のがいいいかもしれませんね」
「ち、違いますっ! 断じて違うのですっ!」
指定任務前日。
重ねて説明するが、これは指定任務前日の夜の出来事である。
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