その537 調査結果

 戦後処理もあるが、その処理をするために移動をしなければならない。

 何故なら、連合軍には聖騎士団も数えられているからだ。

 細かい事はラジーン、ドノバン、コバックに任せておけば何とでもなる。

 しかし、法王国におもむく場合、それは俺でなければならないのだ。


「やぁ、リィたん。昨日はありがとね」

「何を言うミック。最後の最後まで我らを残しておいただけの事だ」


 とか格好つけているが、リィたんはナタリーに全力で止められていたらしい。

 そう考えるとリィたんがとても可愛く思えてしまうのだが、そんな事は口が裂けても言えないミケラルド君だった。


「頼んだ事は?」

「問題ない。公式な手続きはとっておいたぞ。メアリィが」

「うん、まぁ……そうなっちゃうよね」


 昨日リィたんへ頼んだ事。

 それは、法王国在住の法王クルスさんに謁見の許可をもらうというもの。勿論それはミナジリ共和国としてなので、いつものような【テレパシー】会談は使えないのだ。という訳でリィたんにそれを頼んだのだが、水龍リバイアタンに事務手続きを頼むのは中々に難しい。という訳で「メアリィとかにやり方を聞いてみるのも手だよ」とは言っておいたが、まさかその通りやるとは思わなかった。いや、思ってたけどさ。


「間もなく時間だ」

「うん、それじゃあ行って来る」

「土産話を期待しよう」

「あはは、面白い話ならいいんだけどね」


 さて、今回は流石に法王クルスと友達同士という訳にもいかない。

 友国でこそあるが、そうも言ってられないのが戦争である。

 聖騎士団を送ると約束した法王国から、聖騎士団が来なかった。だからこそ、戦場にいた法王国騎士団の騎士たちが責任を感じあれ程奮戦したのだ。

 たとえ半壊しようとも、それなりの理由というものが必要となる。それを聞くのが今回の目的である。

 ホーリーキャッスルに着いた俺は、緊張を露わにする門番、文官たちに出迎えられた。彼らも内心気が気じゃないだろう。何故なら俺は法王国の責任を問い詰めに来ているのだから。

 ここで俺に対し、礼を失する事があれば、それは新たな責任追及の材料になりかねないのだ。彼らの心労は察するところだが、これから会う法王クルスにもかなりの心労を与える事だろう。

 謁見の間に通されると、そこには法王クルス、アイビス皇后が玉座に座り、その隣には法王国のギルドマスターであるアーダイン、更には聖騎士団の団長オルグ。そして副団長であるシギュンがいた。

 シギュンの顔こそ相変わらず読めないが、他の者はかなりの緊張を顔に表している。

 俺はリーガル国のブライアン王に任された連合軍の指揮官ではあるが、ここは公人の公式の場。そして冒険者として来ている訳ではないので、俺は跪く事はない。

 法王クルスの顔に書いてある事を全て読んでやりたいところだが、ここは言葉をかわす場である。


「クルス殿、今回の件の説明を求めに参りました」


 儀礼上の挨拶もなし。

 普段であれば礼を失いかねないが、今回に限りそれは違う。


「連合軍と不死王リッチの戦争。辛勝こそすれ聖騎士団の不在は他の兵たちの士気を大きく失わせた。この事実が否めない以上、指揮官である私にそれ相応の説明をしてもらいたい」

「……無論だ。ただ今回の件、その全てを知るのは余ではない。従ってその目で全てを見た聖騎士団団長のオルグに説明を任せたいが、いかがか?」

「結構」


 俺はオルグに目を向け、そして法王クルスはオルグに向かって一つ頷いた。

 神聖騎士オルグ。聖騎士団の団長にしてSSSトリプル相当の実力を持った法王国最強の聖騎士。彼が戦争に参加していればこれ程心強いものはなかった。

 さて、彼は一体何を見たのか。


「…………騎士団が法王国を発ち半日後、我々聖騎士団も法王国を発ちました。初日こそ何も起こりませんでしたが、二日目――我々は無数の瞳に捉えられたのです」

「無数の瞳?」

「【メデューサ】」

「っ! 数多あまたの蛇の髪を持ち石化攻撃や魔法を得意とする――魔族」


 オルグはコクリと頷く。


「その通りです。しかし、我々も聖騎士団。メデューサとの戦い方も心得ております。そう易々とはやられませんでした」

「では何が?」

「その後方には【ドルイド、、、、】が控えておりました」

「っ!? ……強力な魔法を操る混成魔族【魔族の賢者ドルイド】」


 色んな魔族で構成された賢者たち。それが【ドルイド】だ。魔力の強い者が多く、その実力はランクSを凌ぐとさえ言われている。


「数は?」

「【メデューサ】と合わせて二千五百はいたかと」

「……なるほど、【メデューサ】の石化攻撃を掻い潜りながら【ドルイド】の相手……確かに聖騎士団六百名では分が悪い。しかし気になります」

「……というと?」

「聖騎士団は主に接近戦を得意とします。だからこその魔法使いタイプの魔族……なのでしょうが、明らかにそれが偏り過ぎている」

「それは……確かにそうでありますが……しかしそれが一体どういう意味を?」

「むぅ……」


 と、俺は柄にもなく少し唸った後、ちらりとシギュンを見た。

 彼女も俺の視線に気づいたようだが、その意図は読めなかったように見える。


「いや、今回は魔族が一枚上手だっただけの事。聖騎士団においてはそれこそが戦争だったのでしょう。基地に戻り次第、この情報を下知するので、皆の不安も拭える事でしょう。ただし、クルス殿――」


 言いながら法王クルスを見る。


「何かね?」

「聖騎士団不在が故に、騎士団のアルゴス団長以下多くの騎士がそれを責とし心に重荷を背負って戦い、結果我々を救う程の奮戦をした。しかし、その被害は余りにも大きい。聖騎士たちは勿論の事、騎士たちにも十分な配慮を願いたい」

「しかと心に留めよう」


 法王クルスの言葉の後、俺は思い出したようにアーダインを見る。


「そうだ、アーダイン殿」

「ん? 何か?」

「リプトゥア国の冒険者たちの多くが、勇敢にも戦争に参加してくれました。ミナジリ共和国から彼らに礼をと思うのですが、この後時間はありますか?」

「それは問題ない。では冒険者ギルドに――」

「――しかし申し訳ない。戦後処理のためすぐにリプトゥア国へ戻らねばならないのです。出来ればホーリーキャッスルの応接間を使わせてもらいたいのですが……いかがか、クルス殿?」


 ちらりと法王クルスを見ると――、


「無論だ。後程、余も顔を出させてもらう」


 俺の意図をしっかりとんでくれたクルス君だった。

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