その463 無敵のオベイル家
「酷過ぎる!」
今日二回目であろう言葉を吐き、俺は草原に
「現れたな水龍リバイアタン! 我が母が成し得なかった悲願! この場で達成してやるのだ!」
と、リィたんを指差しながら豪語する炎龍ロードディザスター。
当然、家の中に家より大きい炎龍が入る訳もない。外に用意されたテラスで、茶をしばくリィたんと剣神イヅナ。
そして、剣鬼オベイルは勇者エメリーと剣聖レミリアの剣の指導を行っている。
既にラッツ、キッカ、ハンは汗だくで倒れている様子を見ると、護衛の概念がわからなくなっているな。
まぁ当然、リィたんという
世界の均衡を崩しかねない実力者があの家に集っていると言っても過言ではない。
クレア、ナタリー、メアリィは炎龍用の花冠を作っているようだ。とても女の子している。
「できた!」
ナタリーが言った。炎龍サイズの冠をこの短時間で作るという事は、彼女たちの女の子スキルは既にMAXに近いのだろう。
「はい、【
「ロイス! それが新たな我が名かっ!」
どうやら、そういう事らしい。
俺が来る前にそんな話になったんだろう。確かに炎龍ロードディザスターでは呼びにくい。とてもナタリーらしいネーミングである。
「お、ロイスか。いい名前じゃねぇか」
エメリーの攻撃を捌いたオベイルが言う。
「ほっほっほ、まさか水龍と炎龍に囲まれて茶を
イヅナも感慨深い何かを感じているようだ。
一息吐くためか、オベイルはその場に腰を落とした。
「ふぅ、ミナジリ共和国のフェンリルには闇も驚いたろうな」
それにレミリアが反応する。
「瞬く間に列強国になりましたね、ミナジリ共和国は」
どっと腰を落とし、大の字になったエメリーが同意する。
「はぁ~、ミケラルドさんは本当に凄いです」
勇者に褒められる魔族とは、中々に微妙な気持ちである。
そしてエメリーは、何か思いついたようにガバっと起き上がる。
「今世界が協力すれば魔界も圧倒出来るんじゃないですか?」
その視線の先には、当然リィたんがいた。
「確かに、それは可能かもしれない。だが、危険である事にかわりはない」
「そんなに……ですか?」
ゴクリと喉を鳴らし、気を張るエメリーにリィたんが言う。
「先のリプトゥア国との戦争を思い出せエメリー」
「あの戦争を?」
「ミックの戦い方、異常だとは思わなかったか?」
リィたんに異常と言われる日が来るとは思わなかった。
「……あ、確かに」
勇者にそれを同意される日が来るとは思わなかった。
「確かにあれは戦争だった。その戦争をしたのにも拘わらず両国の被害はほぼないに等しい。国のトップの考えとしては異常だ」
すると、ラッツが思い出すように言う。
「確か、ミナジリ共和国の被害は
「確かに異常だ」
「だね」
ハン、キッカも、先のリィたんの言葉に同調を見せる。
それに頷いたリィたんが続ける。
「ミックはこれから先も最前線に立つつもりだ。味方の被害を減らすためにな」
なるほど、流石リィたん。俺の事をよく理解している。
だからこその【異常】か。そんな理想論、まかり通るはずもない。
すると、それまで沈黙を貫いてきた聖女アリスが、リィたんに言う。
「あの人の事……本当によくわかりません」
「ミックの底を見る事は叶わん。本来ならばアリス、お前は聖女としてミックの考えに賛同すべき立場だ。戦争が起きるのにも拘わらず被害は軽微。聖女としては喜ばしい結果だろう?」
アリスは何も答えなかった。いや、答えられなかったのだろう。
「アリスもわかっているはずだ。あの結果が異常だという事に」
「……つまりリィたんは、『ミックは魔界に対しても同じような戦い方をする』って言いたいの?」
「「っ!?」」
ナタリーの言葉に、エメリーは、いや皆が言葉を失う。
「魔界の被害はわからんが、こちらの被害を限りなく
「……なるほど、ボンの性格を考えればあり得る事だな」
イヅナが納得するも、アリスは納得していない様子だ。
「そんな事は不可能です」
人類を愛し慈しむべき聖女。しかし、その聖女からしても理想論。
確かにその通りだし、俺もそれが出来るとは思っていない。
だが、俺の力があれば、可能性は零ではない。傲慢とも無知とも言われるかもしれないが、兵を駒として見られない俺にはこの回答しか思いつかなかった。
「アリス」
リィたんがアリスに言う。
「え?」
「困ったものだな、このパーティのオリジナルメンバーは」
そう言いながらくすりと笑うリィたん。
俺は、リィたんの言葉が、困った人扱いしながらも褒めているように聞こえた。
世界は単純でありながら物凄く複雑で、複雑でありながら物凄く単純に出来ている。
俺は、彼らの談笑する姿を壊したくなかった。
そんな単純な回答があるのにも拘わらず、何故か俺はここに暗殺者として立っている。
何とも複雑な世界である。
さて、デューク・スイカ・ウォーカーの、
しっかりやって、しっかり失敗しようじゃないか。
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