その441 白き魔女の下へ

 念のため、というより今後のリーガル国のため、結局三人のダークマーダラーの血を舐め、【呪縛】の管理下におき、悪さをしないよう指示を出した。

 先の説明を問いただすも、やはり嘘は言っていなかったようだ。

 そして俺は、ロレッソに会う前に各実家に帰省させていたルナ王女、レティシア嬢を連れ、法王国に戻ったのだった。


「いやー、すみませんね。わざわざ買い物にお付き合い頂きまして」


 ルーク姿で法王国内を歩きながら、ルナ王女とレティシア嬢に言うと、二人は笑いながら言った。


「構いません。これ程休みを満喫出来るのはルークの護衛のおかげなのですから」

「うんっ、ルークから誘ってもらった時は嬉しかったー」


 はしゃぎ喜ぶレティシア嬢に、ルナ王女が指摘を入れる。


「レティシア、はしたないですよ」

「えー、でもー」


 と、言いながら、レティシアは前方ではしゃぐナタリーとメアリィを見る。


「メアリィ見て、あれ美味しそう!」

「本当ですね! とてもいい匂いです!」


 因みに、メアリィもレティシア嬢やルナ王女並みのVIPである。

 というか、ナタリーも姫ではないにしても、国の重鎮という位置ポストにいるのだが、超都会である法王国の城下町に出れば、完全に年頃の女の子だ。

 レティシア嬢が言い訳にしたい気持ちもわかる。


「大丈夫です。すぐにクレア殿が注意をなさるでしょう」


 と、ルナ王女がレティシア嬢に言うも、


「クレア、買いましょう!」

「お任せを」


「待ってました!」と言わんばかりのクレアが、財布を握りしめて店頭へ向かう。


「……注意?」


 キョトンとしながらレティシア嬢がルナ王女を見る。

 困った様子のルナ王女が、指でこめかみを抑える。やがて俺を見て、困り顔をアピールするのだ。

 つまりルナ王女は、俺に注意をしてくれないか頼んでいるのだ。


「ルナ王女殿下、他国と言えど我々は聖騎士学校の生徒。節度さえ守れば、年相応の反応は悪い事ではありません」


 まぁ、俺個人としては、やがて国を背負う事になろうが、子供は子供でいいと思っている。


「そう……なのですか?」

「尻ぬぐいは大人がやってくれます。そのやり方を学びながら、大人になった時、子供たちを守ってやればいいのです」

「うーん……そういうものですか」

「えぇ、そういうものです。それに――」

「――それに?」

「初めてお会いした時のルナ王女殿下の方が、私はらしい、、、と思いますけどね」


 かつて、リプトゥア国への援助物資襲撃事件を調べに来た時のルナ王女を思い出しながら、俺はくすりと笑って言った。

 すると、ルナ王女は頬をほんのりと赤く染めながら言った。


「あ、あれはその……」


 無鉄砲で微笑ましい快活なルナ王女。

 そんな彼女がこういう反応をするのも珍しい。


むしろ、シェルフ族長の孫娘メアリィ様、ミナジリ共和国の建国メンバーであるナタリー様、更には水龍リバイアタンであるリィたん様と交流を深めるチャンスです。あの中に交ざって、もっと休みを満喫なさってください」

「うぅ、それを言われると私は何も返せません」


 国同士の横の繋がりは重要だしな。その重要性をわかっているルナ王女には良い言い訳、、、、、を用意出来たと思う。


「さぁ」


 王族に対しては失礼ではあるが、俺はえてラフに振舞ふるまった。ルナ王女に、首で前方にいる皆の方へ誘導したのだ。

 それを見てキョトンとしたルナ王女。レティシア嬢の上目遣いというお願い、、、もあり、ルナ王女は何かを諦めたように肩をすくめ笑った。


「行きましょう、レティシア」


 パァっと顔を綻ばせたレティシアが、大きく首を縦に振る。


「うんっ!」


 二人は小走りにナタリーたちの下へ向かう。

 話のとっかかりなど、簡単だ。仲間というグループに溶け込んだ二人が、嬉しそうな笑みをこぼしながらこちらにウィンクを送る。

 ……なるほど、二人ともとても素晴らしい女性に育ちそうである。

 周囲を警戒するリィたんも、それに気づき、俺に笑みを送ってきた。あの子には敵わないな。


「……で、何ですか、その不満そうな顔は?」


 言いながら俺は背後で言葉通りの表情をしている聖女アリスを見たのだ。


「いえ、ちょっと知らない人がいたもので」


 おかしい。聖女アリスが言う「知らない人」というのは俺の事のようだ。


「仲良くなったと思ったんですけどねぇ」

「仲のしで語れない程、私たちの仲は複雑だと思うんですけどぉ?」

「ははは、確かにそうですね」


 俺が苦笑しながら言うと、聖女アリスは真面目な表情になって俺に耳打ちした。


「ところで、何で商人ギルドへ? リルハ様に会うって言ってましたけど? ルークさん? …………ルークさん?」

「耳がくすぐったいですね」


 瞬間、顔を真っ赤にさせたアリス。


「も、もう知りません!」


 今の俺が悪いの?

 いやだって美少女の吐息が耳に集中砲火だぞ?

 免疫がない者には最強の一撃なのでは?

 場合によっては魔王すら滅ぼせる一撃に、俺は素直に感想を述べただけなのに。

 アリスがぷんすこと早歩きし、前方の女子グループに追いついた頃、俺たちは商人ギルドへと到着していた。

 ここにはレストランを紹介してもらった時以来だろうか。

 エメラさんに頼み、事前にアポを入れておいた俺は、商人ギルドのサブギルドマスター【ペイン】に通され、ギルド長室へと入った。

 そこで待っていたのは、白き魔女と呼ばれる商人ギルドマスター――【リルハ】だった。

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