その440 ギャレット商会の闇

「そうか、【ファーラ】の奴がしくじりやがったのか」


 俺の前に正座した三人。

 どうも口調と姿勢が噛み合っていないが、魔族のプライドは高いし仕方ないのだろう。

 店主の爺さんは驚くべき事にアンドゥやサイトゥと同じ種――ダークマーダラーだった。当然、背後から襲ってきた男女も同じだった。

 どうやら、過去人間界に潜伏していた生き残りのようだ。

 そう、過去とはすなわち――勇者レックスの時代。


「これまでよくバレずに生きて来られたな」

「ふん、他国の間者は全員殺されたが、リーガル国程楽に生きられる国はないからな」


 威張って言う事だろうか。

 だが、リーガル国の武力を考えれば仕方ないのかもしれない。

 シェルフだって似たような理由で狙われた訳だし。


「それで、何故ファーラは聖騎士学校に入学した?」


 店主がちらりと両サイドに座る二人を見る。

 二人は店主を見、そして意を決したかのように言った。


「「言えねぇな!」」


 中々面白い奴らだ。


「早目に言った方がいいぞ。意思を尊重してる内が華だからな」


 殺気を放ちながら俺が言うと、女のダークマーダラーの目が泳ぎ始めた。


「吸血鬼の【呪縛】って知ってるか? 実は私、アレが得意なんだ」


 男のダークマーダラーが大量の冷や汗をかきながら店主を見る。


「自我の喪失って怖いだろうなー。いや、命令に従ってくれればちょっとした制約だけで済むんだけどなー」


 店主がちらりと両サイドに座る二人を見る。

 二人は店主を見、そして意を決したかのように言った。


「「勘弁してください」」


 とても面白い奴らだ。

 土下座が黒帯レベルである。

 なるほど、人間界に長くいるせいか感情豊かなのだろう。


「ア、アッシらに連絡があったんです」

「連絡? ギルド通信か?」

「へい、あそこにあるアレでさぁ」


 店主の視線を追うと、奥にギルド通信らしき水晶が置いてあった。

 なるほど、あの水晶で魔界と連絡をとっていたのか。


「……これね」


 俺はそれを手に取り、


「「あっ!?」」


 三人が驚いている内に、俺は水晶それを【闇空間】の中に放り込んだ。


「後で新しいのをくれてやる」

「へ、へぇ。それなら……」


 まぁ、もう魔界と連絡はとれないけどな。


「で、誰から何という連絡があったんだ?」

「【ファーラ】っていう女吸血鬼を聖騎士学校に入れたいから、人間界の金を用意しろって」

「……女吸血鬼? ファーラは吸血鬼なのか?」

「い、いや、アッシらも直接会った事がないのでわかりやせんが、先方は確かにそう言ってました」

「名前は?」

「あ……えっとその……」


 何とも歯切れの悪い……。


「自我を失ったまま草原を駆け続けるプランと、自我を失ったまま壁に話しかけ続けるプラン、どっちがいい?」

「「勘弁してください」」


 土下座が達人の域にあるな。

 正直、さっさと血を吸えばよかったと後悔している。

 まぁ、これもある意味社会勉強と言える。尋問のな。


「身の安全は保障してやる。誰からの指示だ?」

「ま、魔族四天王……【スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエル】様でさぁ」


 久しぶりに名前を聞いたな、父上。

 ファーラが女吸血鬼だというのなら、確かに繋がる相手としてはスパニッシュだろう。だが、一体何故?


「奴らが何をしようとしているのかは知っているか?」

「アッシもそれが気になって聞きましたが、スパニッシュ様は教えてくれませんでした」

「つまり、お前たちは金と身元保証のためだけに利用されただけだと」

「お恥ずかしながら……」


 縮こまる店主に、俺は更に続けた。


「わかった。じゃあこっちは?」


 折れた打刀を再度見せる。


「旦那、さっきも言った通り、打った鍛冶師はわからないんでさぁ」

「打った者ではなく、ここに売りに来た者だ。それくらいはわかるだろう」


 言うと、店主は手をポンと鳴らし納得していた。

 しかし、しばらく首を捻った後……、


「思い出せねぇな……」


 くそ、このおっさん、憎めないけど残念仕様だ。

 すると、女のダークマーダラーが言った。


「ア、アタシが店番してた時だ」

「あぁ、だから覚えてねぇのか」


 俺が女に目を向けると、女は虚空を見ながら言った。


「女だった」

「どんな女だ?」

「このくらい」

「『このくらい』って……もしかして背の高さか?」


 見れば、正座したダークマーダラーたちと同じくらいの高さで女は手を止めていた。彼らは背こそ大きいものの、正座してはそれも半減である。

 この身長……ナタリーより小さいのでは?


「幼女がここに剣を売りに来たって? 信じられない話だな。第一、どうやって持って来たんだ? 身長より長いぞ、これ」


 まぁ、持てなくはないだろうが、幼女が持つには目立つ代物しろものだ。


「旦那がさっき使ってたアレ。アレから出してたんだ」

「アレってもしかして……これか?」


 言いながら発動したのは先程ギルド水晶をしまった【闇空間】。

 女は【闇空間】を指差しながら、「そうそれ」と言った。


「幼女が【闇空間】から打刀ぶきを取り出して質に入れた?」

「ですです!」


 何だろうそれ。

 あまり考えたくないな。


「いつ頃?」

「確か……二年くらい前かと」


 しかも、打刀うちがたなを購入したのはほんの一年前。

 それ以前にこのリーガル国にいた魔法が使える幼女。


「肌や目、髪の色はわかるか?」

「肌はそこら辺の人間と変わらない。目と髪は黒かったです、はい」


 むぅ……対照的な存在なら記憶にあるんだけどな。

 確かあの人は……商人ギルドのギルドマスターだったか。

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