その424 火竜山調査

 ◇◆◇ リィたんの場合 ◆◇◆


「ここが火竜山か」


 見上げる高い火山。

 確かに火竜レッドドラゴンがいた形跡はある。

 しかし、魔力の反応はない。火竜如きが龍の探知から逃れられるとは思えないが、法王直々にミナジリ共和国への依頼だ。ミックの頼みもある、念のため調べてみるか。

 すぐさま山頂へ行き、火口を覗く。やはり、噴火の兆候もない。

 道中に目立った形跡はなく、争った様子もない。やはり強者からの退避と考えるのが妥当か。

 メルキオールへの水晶レンタルを終えた直後となると、関連がないとは考えにくい。……いや、待て?

 何者かがここでレンタル料を徴収していたのであれば、火竜との接触は避けられない。火竜の気性は荒く獰猛どうもうだ。

 これまでに何者かと火竜の衝突があったとすればミックも知っているはずだ。しかし、そんな報告はなかった。


「……考えにくい事だが、火竜と何者かはここで共生していた……? どう思う、アーダイン、、、、、


 振り向きざまにそう言うと、木の陰に隠れていた存在――冒険者ギルド総括ギルドマスターのアーダインが、頭を掻きながら現れた。


「流石だな、気付かれるとは思っていなかった」

「私を前にそれはいささか過信が過ぎるというものだ。どうした? 私の調査が信用出来ないから付いて来たのか?」

「冒険者ギルドは冒険者ギルドで独自に調査してるんだよ。偶然、クルスの依頼と被っただけさ」


 肩をすくめて言ったアーダイン。


「それで、私の仮説をどう思う?」

「確かに、そう考えりゃ火竜の失踪も得心がいく。レンタル料の回収がなくなった事で、何者かは火竜山を去った。ソイツが火竜山を守っていたのかそうでないのかはさておき、ソイツのおかげで火竜レッドドラゴンは外敵から距離を置く事が出来ていた。ソイツがここを去ったとしたら……なるほど、火竜も裸足で逃げる訳だ」

「逃げる? 誰からだ?」

「おいおい、自分が誰なのか忘れた訳じゃないだろう? 泣く子も黙る水龍リバイアタン。法王国は今伏魔殿ふくまでんとも言うべきとんでもない場所だ。そんな場所から目と鼻の先にある火竜山。いくら火竜が強力だからといっても、逃げない方がおかしいだろう」

「……ふむ、確かにそうかもしれないな」


 私がそう言うと、アーダインはふもとの方を指差して言った。


「あっちにいつも金を置いていた場所がある。付いて来てくれ」


 どうせ何の当てもない。

 そう思って私はアーダインの後に付いて行った。

 しばらく行くと、小さな洞穴ほらあながあった。


「ここだ。金はいつもここにまとめて置いていた」

「張り込んだ事はあったのか?」

「やらないと思うか?」

「結果は?」

「今も尚調査を続けてるって事が答えになるだろう? 何日か張ってみても誰も来やしない。目を離した隙に消えるなんて事もしょっちゅうあったぜ」


 アーダインは冒険者ギルドの長。

 人間の中で言えばSSSトリプルに匹敵する実力者。

 そんなアーダインの目を盗んで金を持ち去る。そんな事が可能なのか?

 金は嵩張かさばるものだ。闇空間を使用したとしても、短時間で全てを入れるには限界がある。


「アーダイン」

「何だ?」

「この洞穴、調べたか?」

「隠し部屋があれば風魔法ですぐにわかる。出入口以外、風が通る隙間もない」

「となると残すは――」

「――『残すは』って、これ以上探す場所なんてあるのか?」

「ここだ」


 私は地面をかかとでトンと叩き、アーダインに言った。


「……なるほど、地下か」

「高位の土魔法の使い手であれば、大地を液状にし、金を地中に包み込む事が出来る」

「本当か、そんな魔法聞いた事もない……」

「古い魔法だ。テルースも使える」

「地龍か……だが、我々は使えない。どうするつもりだ? 岩盤を打ち抜く訳にもいくまい? 崩落の恐れもあるしな」

「簡単な事だ」

「あ?」

「斬ればいい」


 アーダインの呆れ眼は、よくナタリーがミックに向ける目に酷似していた。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「……世の中には信じがたい事もあるもんだな。まったく、見事な断面だ……」

「地面を斬るくらい、お前にも出来るだろう」

「程度ってもんがあるだろう…………が、ようやく尻尾が掴めたかな」


 地下は確かに存在した。

 降り立った場所は自然な空間だった。

 しかし、私とアーダインの眼前にあった金属扉だけは、紛れもなく人工的なものだった。


「ふっ」


 扉を斬り、私たちは中へと進んだ。

 次に見えたのは人工的な廊下だった。奥には更なる扉があった。


「……おい」

「罠はない。安心しろ」


 突き進む私の後ろを、アーダインが警戒しながら歩く。

 二つ目の金属扉を斬り、視界に入った部屋に私たちは目を見開いた。

 テーブル、椅子、調度品の数々。そして、ギルド通信用の水晶等。


「……水晶には何の付与もないようだな。あちこちに散らばってる紙にも何も書かれていない」


 そう言いながらアーダインが机にあった紙をめくる。


「証拠は残さない……か」


 私が言うと、アーダインがそれを否定した。


「証拠はあったさ。この火竜山には……確かに人がいたって証拠がな」

「……そうだな」


 どこか不気味さ残るこの隠し部屋を見渡し、私は思った。

 ……世界は、私が思っている程単純ではないのかもしれない、と。

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