その379 アリスの成長
「はぁっ!」
まるでバター……いや、バターは意外に硬い時がある。そう、豆腐のようにマスターゴブリンが斬られた。ラッツの一撃にはそれだけの破魔の力が宿っていたのだ。
凄い、完全とはいかないまでも、アリスの【聖加護】は実用段階まで高まったという事だ。
「おらっ! そっち行ったぞ、キッカ!」
ハンの攻撃を掻い潜ったマスターゴブリン一体。
三体を相手していたのだから無理はない。
「プロテクションッ!」
アリスがマスターゴブリンに例の
以前はアリスの攻撃だけ透過する仕様だったが、今回は……!
「えいっ!」
お見事、キッカの攻撃も透過するようにパーティ指定出来ている。
流石は魔帝グラムス。しっかりちゃっかり魔法技術を向上させてくれたみたいだ。
ラッツとハンも素晴らしい動きだ。武器に【聖加護】があるも、それに依存せず、通常状態でも対応出来る動きを心がけている。なるほど、【聖加護】があるからこそ、視野が広がるという訳か。
オベイルの指導か……あの人の事だ、厳しかったんだろうな。
「前方よし!」
「後方問題ありません!」
ラッツとアリスが前後の確認。
「全モンスター、チェックだ!」
稀に死んだふりをするゴブリンもいるからな。
マスターゴブリンと言えどそれがないとは言い切れない。ハンの確認も
「傷は?」
「問題ない」
「おーけーだ」
「大丈夫です」
戦闘終了毎の怪我チェック。ここら辺は流石【
アリスも彼等を見て学び、ランクAパーティ然とした風格を身に付けている。
その後も、オリハルコンズの皆は、適宜、素晴らしい動きを見せ、【
各階層で最初に
そこからどうやってパーティ用の動きに広げていくかはパーティの仕事である。
四階層では、ムシュフシュとゴブリンチャンピオンが出現する。ムシュフシュを倒した後、ラッツは意外な事を言ってきたのだ。
「デューク殿、素晴らしいお手前です」
「ありがとうございます」
「後はゴブリンチャンピオンですね」
「ゴブリンチャンピオン? 二階層で見せましたよね?」
「いえ、ムシュフシュと組んだ時のゴブリンチャンピオンの動きは見せて頂いてません」
な、る、ほ、ど。
いや、言われてみればそうなのだが、これまで誰もそれを言ってこなかった。
別にそれが駄目という訳ではない。現に、ムシュフシュを倒す際、偶然一緒に現れたゴブリンチャンピオンもいた。その時ばかりは実演したが、以降ムシュフシュが出た場合に限りそれを実演してきたのだ。
だが、ラッツは違った。
これを聞き、「甘え」と取る者こそ冒険を軽んじている。
冒険には準備が必要である。その準備すら怠るのであれば、冒険をする資格がない。今回の準備とは、俺による実演で戦闘前の予習が出来る事だ。
つまり、貰えるモノは貰っておけという事だ。
別に卑しい訳ではない。せっかく見られる機会があるのだ。見ないのは損であり、準備を怠ったとも言える。いや、素晴らしい。
「このように、ムシュフシュと一緒に現れた時、ゴブリンチャンピオンはムシュフシュの尻尾の毒蛇――これの死角を塞ぐように動き回ります。先程説明したように、ムシュフシュは尻尾の毒蛇さえ切断してしまえば、比較的優位に立ち回れる相手です。しかし、ゴブリンチャンピオンはその死角を塞いでしまう。まるでムシュフシュの弱点がそこであると知っているかのように。ならばどうするか。解毒剤片手に特攻というのは現実的ではありません。まずはこうして……ムシュフシュにフェイントを仕掛け、身体の向きを変えさせます。すると、ゴブリンチャンピオンも、ムシュフシュの身体の向きに合わせ、尻尾の死角へと移動します。がしかし、どうしてもその反応は遅れてしまう。この時、ゴブリンチャンピオンの動きを何らかの手段で止める、もしくはその間ムシュフシュの尻尾を切断する等の動きを心がければ……はい、これで堅牢な牙城が切り崩れてしまいましたね。いかがでしょう、参考になりましたか?」
そんな俺の動きを見たハンが、ポカンと口を開けている。
「はえ~……とんでもなかったな、今の。手刀でムシュフシュの尻尾切ったよな?」
「それだけ威力が絶大だという事だ」
「ラッツさんのご指摘は
「うっそ、ホントですかっ!?」
キッカの反応も仕方ない。
このモンスター討伐の実演は、あくまでも圧倒的に倒しているように見せているだけなのだから。
「派手な攻撃は派手に見えるだけで、その実、地味な攻撃でも
「過程……」
俯くアリスが思考を巡らせる。
「私のアドバイスはここまでです。後はオリハルコンズの皆さん次第ですよ」
さぁ、パーティとしての回答はいかに。
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