その360 ご帰宅

「という訳で、闇魔法を使える人間が非常に多い以上、明確な証拠がなければお話にならないという事です♪」


 久しぶりのミックスマイルに、本人もご満悦である。

 調査能力は高いが、詰めが甘々だったな。ここは年相応といったところか。


「そ、そんな……これじゃ聖騎士学校が……」


 おかしい、何故彼女の口から聖騎士学校の話が?


「おや、聖騎士学校に入学なさるので?」

「父上が……この事件を解決出来たら入学させてくれると……うぅ」


 半泣きである。

 王女が半泣きである。

 一体何を考えてるんだ、ブライアン王は?

 ルナ王女を聖騎士学校に入学させる気なんてサラサラないだろう。

 だがしかし待て。ここで泣かれても困る。

 事件の真相がルナ王女にバレても全く問題ないのだ。ここはバラしてその涙を引っ込めてもらうか? いや、そうしたらそうしたで色々面倒だ。

 ここは何か妙案で乗り切るしかない。元の鞘に収まるような、そんな妙案を……ん、待てよ?


「ルナ王女、では一つ助け船を出しましょう」

「っ! 本当ですかっ!?」


 凄い変わり身だ。とても先程まで俺を犯人にしようとしてた人とは思えない。

 まぁ、俺は実行犯じゃないから否定したけど、ラジーンに手引きしたのは事実だしな。ルナ王女に対する教訓はここまで、ならば飴を与える頃合だろう。


「ドマーク商会を襲った賊に目を向けるのではなく、何故ドマーク商会を狙ったかですよ」

「それは、物資を奪えるため。相手に物資を与えないため……でしょうか?」

「ドマーク商会が狙われた場所は?」

「首都リーガルを南下してすぐです」

「つまり相手は、輸送隊の出発時刻を知っていた可能性が高い」

「入念な下調べがあったのでしょう」

「もし、仮りに我がミナジリ共和国が賊だとしたら、あの段階で下調べをする暇はありませんでしたよ」

「むぅ!」

「仮りに、ですからね。あの時あの場を置いて、輸送隊の正確な出発時刻を知っていた方は二人」

「そんなにいるんですかっ!?」


 肉薄する可憐な少女から良き匂い。

 なんとも将来有望な姫君であらせられる。


「一つ、輸送隊。そしてもう一つは――」

「――父上……! そうか、相手はリプトゥア国。これまでの事を考えればミナジリ共和国に情報を流して然るべき!」


 そうそう、こういった問題は元の鞘に収めなくてはいけない。

 詳しく言えば輸送隊のメンバーだとか、王城の誰かだとか色々あるが、大まかに絞ったとてさしたる問題はない。俺は答えを知っているからこそ、ルナ王女の推理に粗があろうと関係がないのだ。


「ミ、ミケラルド様! お騒がせして申し訳ない! すぐに戻ります!」


 うんうん、若さって大事だよね。

 こういう部分、おじさんなくしちゃってるからなぁ。

 ある意味羨ましいが、戻ってもデメリットしかないと考えると、今の生活も悪くはないのだろう。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 正に台風一過。

 ルナ王女という名の嵐が去った後、ドマークがちらりと顔を見せた。

 まるで、「ルナ王女帰った?」と言いたげなつぶらな瞳である。


「帰りましたよ、父上の下にね」

「おやおや、行き着いてしまいましたか。これは後で怒られてしまいますな」

「何故ブライアン王はこんな事を? 聖騎士学校に入学。大いに結構だと思いますけどね?」

「いえいえ、前向きに検討されているからこそ甘め、、の任務をルナ王女に課したのですよ」

「それはつまり、答えに行き着くと信じていたから……と?」

「ミケラルド様がバラすと信じていた、とも言えるのでは?」


 なるほど、ブライアン王なりの娘への気遣いか。

 俺への迷惑を考えながらもそうしたって事は……もしやブライアン王は俺にルナ王女を紹介したかったのか? だとしたら辻褄が合うな。

 王女の顔見せ、他国の元首となった俺ではそう簡単に起こるものでもない。だが、調査団としてやってくるとなれば、その限りではない。

 相変わらず一石二鳥が上手い人だ。俺も見習わなければいけないな。

 まぁ、せめてもの仕返しに、後で少しだけイビってやろう。少しだけな。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 その後、俺は普段のミケラルドの姿を捨て、顔と髪色を変え、黒髪の青年となって法王国へと向かった。当然、これは闇ギルド対策である。

 向かう先は冒険者ギルド本部。

 約束の場所はギルド本部長室。

 そう、俺はアーダインに会いに来たのだ。

 しかし、普段のミケラルドならいざ知らず、この姿ではギルド本部に入れる訳もない。ので、アーダインとの約束通り、俺はギルド本部長室へ忍び込んだのだった。


「……ミックか」

「お久しぶりです、アーダインさん」

「見事だな、侵入に気付かなかった」


 そりゃ壁抜けして来たしな。


「それで、どうするんですか? 皆さんの監督をするにしても、表の私の顔は知られ過ぎちゃいましたよ?」

「まったく、こちらの苦労も考えてくれればよかったものを」

「今や闇ギルドはイヅナさん以上に私を警戒しているでしょうね」

破壊魔はかいまとあれだけの戦闘を全世界に見せたんだ。警戒もするだろうよ。で、その姿は長時間維持出来るのか?」

「まぁ、問題ないですけど?」

「なら話は簡単だ。依頼主は冒険者ギルドでミケラルドに依頼を出す。ランクSダンジョンでは偽名を名乗ればいい」

「雑ですね」


 アーダインが依頼表に俺の名前を書いている。

 なるほど、本部長直々の依頼ともなれば、請け負った冒険者がミケラルドだと知るのは世界でこの場にいる二人のみ、という事か。


「規則を破ってはいけないが、仕事の内容は自由だからな」

「仕事を請け負った冒険者が偽名を名乗るのも自由だと?」

「そういう事だ」


 ニヤリと笑うアーダインに、俺は溜め息を一つ吐く。

 渡された依頼表を見ると日付に驚く。


「明日からって……マジですか?」

「大マジだ」


 どうやら俺は、明日から聖騎士学校入学者の査定官となるようだ。

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