その306 ランクAからランクSへ
「……おかしいです!」
アリスと出会って一週間が経った頃。
ダンジョンの宝箱を開け、帰る途中でアリスが叫ぶように言った。
「どうしたんです、アリスさん?」
「今日は五階層まで侵入したのに、全然疲れてません!?」
何だ、そんな事か。
「それは、これから疲れるからですよ」
「それもおかしいです!?」
「ダンジョンの立ち回りは、同じ敵であればある程、習性や動きを学んでいきますからね。どんどん楽になりますし、効率化されるでしょうね。でも、この後の
「私って普通じゃない事してたんだ……」
「何故そこで
「理不尽です」
聖女の年齢を考えれば、確かに当たり前の反応ではある。
何度か打ち上げをしている内に彼女が教えてくれた。どうやらナタリーの二つ上の十四歳だそうだ。そう考えると、酷な話でもある。
「では今日はお休みにしましょう」
「えっ!?」
まぁ、一週間頑張った褒美としては安いが、これくらいしか俺には出来ないからな。
それに、休みとなれば俺もやる事がある。
「本当ですか!?」
「本当です」
「本当の本当ですか!?」
再確認は必要だよな。
「えぇ、本当の本当です」
「ほんとぉ~~~に、休んじゃいますよ!?」
「相手が私じゃなかったら、一回の確認で済んでるやつでは?」
「いえ、『わかりました』で済む話です」
「つまり、私はアリスさんの知人の中で三段階上の存在という事ですね?」
「確かに、三段階上の解釈はされてますね」
「ふふふ、私の中でもアリスさんは大きな存在となってますよ」
「うわぁ、胡散臭い笑みですねぇ」
「お褒めに与り光栄です」
「五段階くらい上の解釈してますね」
それはもう最上位の存在なのでは?
「ともかく、今日の午後はお休みにしましょう。ゆっくり休まれてはいかがです?」
「やったー! 実は気になってたところがあるんです!」
「それはいいですね。是非、羽を伸ばしてきてください」
◇◆◇ ◆◇◆
「いらっしゃいませ!
「絶対おかしい! ずぇったいおかしいですって! 何でここにミケラルドさんがいるんですか!」
「安定した収入を求めた結果、こうなりました」
「
「勇者と聖女が世界を平和に導いた後、冒険者の仕事は本当にあるのか。そう考えたら朝も昼も夜も眠れて大変でした」
「ぐっすりじゃないですか!」
「おや? 世界平和のために日夜奮闘されてるのはどこの聖女様でしたっけ?」
「…………はぁ、信頼の証って事で受け取っておきます」
「それは何よりです」
「そう受け取らないと、終わりが見えなさそうなので。けど、凄い盛況ですね」
周囲を見渡すアリス。
多くの女性客がショーウィンドウを見、キャッキャウフフしている。
「ありがとうございます。このエメラ商会では、会長のエメラがデザインしたアクセサリーを、優秀な技師が作り販売、修理、そしてオーダーメイドも行っております」
「なんだか、とても
「ははは、そんなまさか。今も緊張して手に汗握ってますよ。ほら」
俺はアリスに掌をひらいて見せる。
「…………その汗は一瞬で蒸発したんですか?」
「……【ウォーター】。ほら」
「これは水です。というかこんな水滴レベルの【ウォーター】なんて初めて見ましたよ」
「どうです? 何か買って行かれますか?」
「あ、そうだった! ちょっと見て来ます!」
とてとてと小走りにショーウィンドウへ向かうアリス。
年頃の女の子だ、こういうファッションに興味がない訳じゃないという事か。
「
そう俺を呼んだのは、エメラ商会の会長だった。
「エメラさん」
「あの子が噂の聖女さんですか?」
「えぇ、アリスさんです。可愛いでしょう?」
「とても。それにとても濃密な魔力を帯びてます」
「でしょ? 近接戦闘はランクA、後衛を任せれば文句なしでランクSの実力はありますよ」
「それは、ミケラルドさんが鍛えたからでしょう」
「潜在能力を考えれば当然です」
「でもここにいらっしゃるって驚いたのでは?」
「そうなんですよ。あ、だから私の事は伏せといてくださいね」
俺が口元に人差し指を持って行くと、エメラはくすりと笑ってそれを受け取った。
「『新規ブランドを立ち上げる』なんて言われた時には驚きました」
「
「まぁ、嬉しいです。でも本当の目的は別にあるんでしょう?」
流石、エメラの魔眼には誰にも敵わないな。
「
「それも時間の問題でしょうねぇ」
「えぇ、でも店に迷惑がかかる事は抑えられるかと」
「相変わらずお優しいですね」
「どこかの聖女さんには鬼とか言われてますけどね」
「彼女もミケラルドさんの優しさには気付いていると思いますけど?」
「えぇ、本当ですか?」
「まぁ、私の言葉を信用してくださらないと?」
エメラはほんの少し演技がかった様子で言った。
「だってあの子今、私に向かってアッカンベーかましてくれちゃってますよ?」
「とても可愛らしいじゃないですか。それに、とても理想的な関係ですよ」
「私も同じように返せばいいですかね?」
「微笑んで手を振りましょう」
俺はエメラに言われるがままにアリスに微笑み手を振った。
するとアリスはほんのり顔を赤らめながら、自分を隠すようにマダムたちの波に入って行ったのだった。
「逃げられちゃいましたよ?」
「えぇ、逃げますね」
「じゃあどうしてです?」
「多分、あの子の頭の中には……『それは卑怯だ』という言葉があるんじゃないでしょうか」
「へ?」
「普段のミケラルドさんで返さず、私の助言に従った事によるギャップですね」
「なるほど、それは情報商材として売れそうですね」
「私はミケラルドさんの自伝が読みたいところです」
何それ、超恥ずかしい。
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