その305 レベル7
「よし! よしっ!」
まるで、闘魂型主人公みたいな喜び方だ。
「クリアしましたよ、レベル6っ!」
「えぇ、五十体のアリスさんが無残な姿になってますね」
「酷い絵面です……でも! クリアしました!」
昨日クリア出来なかったのがよっぽど悔しかったのだろう。
拳を強く握り、嬉しそうなアリスは年相応の女の子に見えた。
「じゃ、レベル7ですね」
「……もう少し余韻を! 断固として余韻を求めていきたいです!」
挙手をしながら政治家みたいな発言をするアリスに微笑みを見せ、俺は言った。
「…………はい、始めましょう」
「今の間で与えたつもりだと!?」
「では想像してみましょう」
「何をです?」
「子供子供と言われ続けた聖女が強力無比な力を手に入れたとします」
「せめて『神々しい力』と言い換えて欲しいですね」
「そんなゴリマッチョな聖女を見た人々はどう思うでしょう!?」
「今ゴリマッチョって言いました!? 言いましたよねぇ!?」
「皆はひれ伏し、これまでの悪態を恥じ、『Oh、聖女様!』と自らの行いを悔い、改めるでしょう! その時得られる究極の優越感! 感じてみたいと思いませんか!?」
「ミケラルドさんは私を強欲な人間にしたいんですかね?」
「欲なしで人間が生きられる訳ないじゃないですか♪」
「程度ってものがあります!」
「でも、見返してやりたいとは思うでしょう?」
「ぐっ、そ、それは否定できないですけど……」
とても人間らしい聖女で、おじさんとしてはとても安心していられます。
「では、そのためには?」
「……レベル7です」
「おや? 声が小さいですね?」
「レ、レベル7ですぅ!」
「はい、よくできました!」
俺はそう言いながら手をポンと鳴らし、新たな土人形を出現させた。
「ひっ!?」
出現した土人形の顔は、凶悪な顔をしたモンスター。
「ゴ、ゴブリンです……?」
「そうです」
「ランクSのマスターゴブリンより強そうですけど。ナニコレ、凄く怖い……」
グロテスクな化け物を見るような表情で、アリスが零す。
「恐怖心を煽るために普通のゴブリンより強くて怖そうな造形にしました」
「数は五十体。それは変わりませんが、ここからは土人形が陣形を組んだり防御したりします」
「もう余り驚きませんけど、ミケラルドさんの魔法技術って異常ですよ」
「え、そうですか?」
「普通は土塊操作で作った人形が動くなんてあり得ないですし、跳ねたり、防御したりも出来ないんですよ。知ってました?」
とてもバカにされている気分である。
「跳ねた瞬間地面から離れるので、その段階で操作権は失われますけど、地面に接地した段階で新たな魔法を行使しています。この繰り返しですね。これが中々難しいんですよ」
「五十体全て同じ事やってるってだけで異常なんです。一体でも大変なんですからね!」
「一体全体何なんだという感じですか」
「全然上手くないですから!」
「はい、始めまーす」
「鬼!」
◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆
「もうゴブリン嫌ぁ……」
私は両手で顔を覆い、悲しみの言葉を漏らす。
レベル7のゴブリン土人形は、まるで一国の騎士団かのように強固だった。
五体一組のゴブリン集団の内、盾を装備したゴブリンが魔法を防ぎ、上手く隙を衝いて盾ゴブリンを倒したとしても、別のゴブリンが盾ゴブリンに変わる。速度もこれまで以上に早く、判断を誤るとすぐに詰め寄られてしまう。
あの凶悪な顔で迫られると恐怖心を煽られ、その判断すらも正しく出来なくなる。これはある意味実戦訓練なんだなと思い知ったのは、こうしてゴブリン土人形たちに見下ろされてからだった。
ミケラルドさんは微笑みながら私の下にある大地を魔法で持ち上げる。
その大地はやがて装飾が美しい台になり、それをゴブリン土人形が担いで移動していく。
「これじゃあゴブリンたちへの生贄みたいじゃないですかぁ……」
「ゴブリンたちの上でそれだけ悪態を吐くんです。どう考えても生贄じゃなくてボスの方でしょう」
「そんな聖女、嫌だと思いません?」
「そういう聖女がいたとしても、私はいいと思いますよ?」
またミケラルドさんは微笑んで言った。
「嫌は嫌ですけど」
ちゃんと個人的見解を含めて。
「やっぱり嫌なんじゃないですか!」
「ゴブリン姫に乗り気とは驚きですね」
「乗り気じゃありません! 何ですかこのレベル7! とっても難しいですよ! このままいけばどうせ全員が盾を装備するのが目に見えてるじゃないですか!」
「それはレベル8です」
「早すぎです! どう考えてもレベル十五くらいの難度です、それは!」
「そこの者、姫がご乱心だ。おろしてやれ」
「ゴブリンの表情変えなくてもいいですから! 何でそんな焦った顔で可愛くなるんですか!」
「聖女人形を沢山作って売るために、色んな表情を研究中です。個人的には二頭身聖女のウィンクバージョンがお気に入りです」
「私に許可を得ず発売するつもりですか!?」
「失敬な、これが企画書です」
何だろう、この文字? 人間が書いた字じゃないような?
とても無機質な文字で、文字と文字の連なりに人間性を感じない?
一体これは何?
「この文字は?」
「おや、やはり活版印刷には抵抗がある感じですかね?」
「いえ、読み慣れればどうという事はないですけど、ミケラルドさんが書いてない事だけはわかりました。活版印刷って?」
「今度お教えします。で、出来はいかがですか? あ、こちらが原型です」
言いながら盾ゴブリンの顔を変えたミケラルドさん。
凄い、私だけど、どこか絵画のような。それでいて親しみのある私の二頭身人形だ。
正直、欲しい。
「け、検討します!」
その日私は、ミケラルドさんに貰った企画書を大事に持って帰ったのだった。
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