その291 選定人ミケラルド

「おい、顔に出てるぞ」

「え、そんなにニヤついてます?」

「わかってるならその締まりのない顔をどうにかしたらどうだ?」

「こんな感じでしょうか?」


 俺は指で顔を押さえ、引き締まった表情を作って見せる。


「……剣神はこうも言った。『その目で直接見てボンを知るといい』とな」

「あぁ、だからここにいたんですね。本来であれば中央区にあるギルド本部でお役所仕事でしょう?」

「ま、その通りだな」

「で、その目で見て私はどうだったんでしょう?」

「……ちゃんと選別を依頼しただろう。それが答えだ」


 確かに、俺の善悪はどうあれ、ちゃんと彼も俺を選別したという事か。


「具体的にはどういったアプローチを?」

「近々冒険者ギルドよりSSダブル付き添いのランクSダンジョン探索依頼を出す。パーティメンバーは四~五人。それとミケラルドだ」

「つまり、強制的に私とパーティを組ませ、選別すればいいと? 断る方もいるのでは?」

「無論、今後断る人間も出てくるだろう。だが、それはあくまでも現段階での話だ。間もなく聖騎士学校への冒険者招致の噂が出回る予定だ。安心しろ」


 流石お役所。

 噂って予定立てて流せるものなんだなぁ。

 まぁ、エルフの印象操作した俺が言えた事でもないけどな。


「詳しい日程は追って通達する。根気のいる仕事だが、達成すればSSSトリプルへ大きく近づく事になるだろう」

「そういえば、SSSトリプルになったら何かいいことでもあるんですか? 完全な名誉職なんです?」

「依頼報酬の上乗せ、大きな信頼、法王国のSSダブルダンジョンへの侵入許可だ」

「……へ? SSダブルダンジョンってSSダブルじゃ入っちゃいけないんですか!?」

「可能だ」

「じゃあ一体どういう……?」

「パーティならばな」

「ん?」

SSダブルの冒険者でパーティを組めば侵入する事が出来る。パーティ条件はSSダブル以上の冒険者四人からだ」

「それってつまり……?」

「現在のSSダブル剣鬼けんきオベイルと魔皇まこうヒルダ、そしてミケラルドだけ。破壊魔はかいまパーシバルが行方をくらましている以上、SSSトリプルは剣神イヅナのみ」

「現実的に不可能なのでは?」

「お前がSSSトリプルになった方が早い。剣神イヅナこそ現役だが、魔皇まこうヒルダは戦線を退きつつあるからな」

「何でそんな事に?」


 俺の疑問に、アーダインは軽い口調で答える。


「勇者レックスがいた時代はSSダブルがもっといたからな。その名残だ」

「時代故、優秀な人材が減ってきたと。でも、侵入するルールは昔のまま」

「そういう事だ」


 なるほど、お役所仕事の闇を見た気がする。

 しかしどうしたものか。俺としては早いところSSダブルのダンジョンに潜りたいのだが? あ、そうだ。


「因みに――」

「――因みに、そのルールを破って単身SSダブルのダンジョンへ侵入した場合、それ相応のペナルティが発生するからな」


 ぎろりというアーダインの視線。

 まるで、これまでもそういった話があったかのように手馴れている。


「剣鬼もそう言った事があるし、私も昔そう言った。お前ならばと思い、予め回答を用意しておいた」

「あ、はい」

「ランクSの冒険者も、ランクSダンジョンへの侵入はパーティのみ許されている状況だ。ルールを守ってくれ、選定人殿?」

「……はーい」


 その後、俺はアーダインと少しの雑談の後、ランクSダンジョンへ向かった。

 こちら側は、SSダブルになった以上、一人での侵入は問題ないとの事だ。しかしその危険度はこれまでとは比較にならない。

 あの剣鬼オベイルがランクSダンジョンへ潜った時、踏破叶わず戻って来たというくらいだ。

 やはりランクSのダンジョンは一筋縄ではいかないらしい。

 自分自身の能力向上、そして選別期間に潜るダンジョンの下見という事で、俺はこれまで以上の準備をしてそこに着いたのだ。


「えーっと、ポーションとマナポーションは大量に闇空間にしまったし、ポーションとマナポーションは大量に闇空間にしまった。それにポーションとマナポーションは大量に闇空間にしまったから問題ない……はず」


 そう、用意するモノなど限られていた。

【探知】の魔法や多くの【特殊能力】、【固有能力】がある俺にとって、これ以上用意するものがなかったのだ。

 流石に聖水事件程の問題は起きないとは思うが、あの時以上に買い込んだし、多分いけるはず。

 ……ここか。

 法王国のランクSダンジョン。そもそもSSダブルにならなければ来られないとは知らなかった。まぁ、剣聖レミリアや魔帝グラムス、それに勇者エメリーを誘えば来られたが、エメリーは国外へ出しちゃまずいしなぁ。

 そんな事を考えながらダンジョン前の入り口を付近でうんうんと頷いている俺の耳に、ちょっとした口論が届く。


「そんな、困ります!」


 子供の声? そう思い声がした方へ向くと、エメリー程の少女と共に、五人の冒険者が困った表情を浮かべていた。


「昨日のお話ではランクSのダンジョンへ連れて行ってくれるお約束だったはずです! それなのに何で今になって駄目なんですかっ!」


 少女は一方的に不満を言い表しているように見えた。

 しかし、その内容には相手からの約束の反故が聞こえたのだ。

 少女の実力は……ん? 高く見積もってもランクAってところだ。

 しかし、正面で少女を拒絶するように手を前に置いた冒険者パーティのリーダー格の男は……ランクSといったところか。


「あ~、回復の助っ人が別に見つかっちゃってさ。悪いんだけど他を当たってくれる?」

「ランクSの冒険者パーティなんて、そう簡単に見つかる訳ないです!」

「しょうがないだろう? こっちも命が懸かった商売だ。ランクAの君より、ランクSの冒険者を連れてった方が生き残る確率が上がる。それは君もよくわかっているはずだ」

「っ!」

「それに、【聖女】なら俺たちなんかと一緒じゃなくても、すぐに仲間は見つかるでしょ?」


 へぇ、あれが噂の……【聖女】だって?。

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