その274 オベイルとミケラルド
「【聖水】と、そしてこれがこのダンジョンの攻略報酬――!」
見かけはただのポーション。
しかし、その青く透き通った水が
「これが異世界の定番アイテム、【エリクサー】かー」
リプトゥア国のダンジョンにあった【イグドラシルの葉】が病気に対する秘薬とすれば、この【エリクサー】は怪我に対する秘薬なのだ。そしてこの両者の素晴らしい点は、魔族にでも効き目があるというところ。
つまり、これで怪我も病気も怖くなくなったという事なのだ。
とは言っても、怪我や病気をしないようにするのも必要だ。
なんせ、手に入れるまでが大変な商品だ。
検証ついでに何回か潜りたいところだが、それはまたの機会にするとしよう。
ダンジョンの転移魔方陣から出ると、胡坐をかいたオベイルがそこで待っていた。
「あ、オベイルさん、お久しぶりでーす」
「何だよその挨拶は? ったく、怪我もねぇとは流石俺様を倒しただけはあるな」
「久しぶりって事で、ヒールいります?」
「てめぇでエリクサー使ったから問題ねぇよ」
「そりゃ何よりです」
なんと勿体無い。
だが、これはオベイルの譲れないところなのだろう。
「ちょっと気になった事があってな、待ち伏せさせてもらった」
「なら……夕食がてらどうです? お話でも」
どうせこのガンドフで一晩身体を休めるつもりだったのだ。
ここでオベイルを誘っても別段問題ないだろう。
口をへの字に結んだオベイルは、すんと鼻息を吐いてから立ち上がった。
「何でお前はそんなアレなんだ?」
「アレの部分を詳しく聞きたいところです」
「普通はぶっ倒した相手を食事に誘わねぇだろうが」
「おや?
「……アレには色んな意味が含まれてるって事だけ教えといてやる」
「おっと、これは一本とられましたね。さ、行きましょう。美味しいところ紹介してください」
「ちっ、仕方ねぇ。付いてきな」
一瞬難しい顔をしたオベイルだったが、観念したかのように首都中央に向かって歩き始めたのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
薄暗くもほんのり明るい大人な雰囲気の店。
それがオベイルが紹介してくれた場所だった。
「いいですねぇ、こういうお店をミナジリ共和国にも置きたいところです」
オベイルの口利きなのか、店の奥のプライベートスペースを使う事になった俺は、ここからの話が彼にとって込み入った話になるという事を予感していた。
「いつもの」
「かしこまりました」
「ミケラルドは?」
「おすすめの果実酒を一つくださいな」
ウェイターの男性は小さく頭を下げてから消えていく。
やがてやって来た飲み物に口を付け、舌の上で味わう。
「美味しいですね」
やや酸味のきいたブドウ酒。ワインとも言い難いソレは、俺を心地よい気分にしてくれた。
「これで目の前の人が綺麗な女性だったら最高なんですけどね~」
「悪かったな、むさい男で」
「こちらとしては、まだオベイルさんの評価を出していなかったんですけどね?」
「そりゃ、ある程度の評価はあるって言いたいのか?」
「
「――それに何だ?」
「おそらく、今回の話は私にとって核心を突かれるようなお話でしょうから」
俺がそう言うと、オベイルはまた口をへの字に結んだ。
「そうやって何でも見透かした感じがいけすかねぇ」
「いけすかないヤツと食事ですか?」
「実力は一級品だからな」
「つまりソレが上回ったと?」
「そういうこった。初めて会った時、俺が背後からお前を狙ったのを覚えてるか?」
「忘れるはずもありませんねぇ」
「あの時点で既にミケラルド、お前が俺と同等に近い実力を持っている事はわかった」
そりゃ意外だな。
「だからずっと考えてた、お前の年齢でどうやってそこまでの実力を得たのかをな」
なるほど、それでオリハルコン輸送任務の時、ずっと馬車の上にいたのか。
気を張り巡らせながらも考え事が出来るのはあそこ以外にないだろうからな。
「このガンドフで、魔族との戦争を終わらせた時もそうだ。お前が纏う魔力は更に増えていた。あの時俺は確信した。『コイツは俺より強い』ってな」
「だから戦闘中にあんなちょっかいを?」
「俺様との距離を推し量っただけだよ。ま、見透かされたように距離を置かれちまったけどな」
「で、さっきだと?」
「あの時、あの場をおいて、お前と戦闘出来る機会はなかった」
「つまり、あの時オベイルさんは冷静だったと?」
「
なるほど、それはオベイルの評価を見直さなくちゃいけないな。
俺の言葉を受け取って熱くなったかと思いきや、上手い事利用して俺との戦闘に持ち込んだ訳か。
「あの後【エリクサー】で回復してな、周りの連中に聞いて回ったんだよ」
「何をです?」
俺がそう聞くと、オベイルは俺に一枚の硬貨をぴんと弾いて渡したのだ。
それをぱしんと受け取った俺は、硬貨を見る。
描かれていたのは――――水龍リバイアタン。
「決まってるだろう、ミナジリ共和国の事だよ」
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