その251 今後のプラン
『ミック、今何と言った?』
『勇者エメリーを保護したと申し上げました、
きっと今頃、ブライアン王は額を抱えているに違いない。
『……立国して三日だったか』
『えぇ』
『三日目にして国を壊しにかかったな』
ブライアン王の
何故なら、リプトゥア国がこの事実を知れば、戦争を仕掛けたとしてもおかしくない。その戦争が起こった時、リーガル国、そしてシェルフは、事が事なだけに俺たちを味方する事は出来ないのだ。
当然、リプトゥア国の言い分は「勇者を取り戻す」である。なるほど、他国が俺に手を貸せば、勇者の誘拐に手を貸した事と同義。
協力出来るはずもない。それどころか、リプトゥア国の協力要請に従わなければならないという可能性すら出てくる。
『重々理解しているつもりです』
『……だが、それが元首としてのミックの決断なのだろう?』
『えぇ、私の撒いた種でもあります』
『今後はどうするつもりだ?』
『現状ではミナジリ共和国に勇者エメリーがいる事はリプトゥア国にもバレていないでしょう。しばらくは匿うという事で、エメリー殿も納得してくれました』
『うむ、それがいいだろう。可能な限り勇者の存在は隠せ。見つかるのも時間の問題ではあるがな。……ところでミック』
『何でしょう?』
『ミックの正体については、エメリーに伏せているのか?』
『えぇ、現状は』
『という事は、折を見て触れるという事か』
『う~~ん……どうなんでしょう』
『どういう事だ?』
困った俺の言葉を受け、ブライアン王が聞く。
『あの子……おっと、エメリー殿は何となく俺の正体に気付いてるんじゃないかなーと思ってます』
『勘か……?』
『えぇ、「頼りない」が頭に付きますけど』
『ふっ、それでいい。その内その勘を頼る時がくるかもしれないぞ? 今の内に磨いておけ』
『はぁ……』
『ローディ殿にはこの話を?』
『この後連絡するつもりです』
『そうか。今度茶を飲みに来い。リプトゥア国から良い茶葉を仕入れたからな』
憎きリプトゥア国の茶は本当に美味いのだろうか。
『茶葉に罪はないと?』
『あってたまるか』
『ですね、はははは』
『ふふふ、再会を楽しみにしているぞ、ミック』
『私もです。では』
その後、シェルフの長、ローディに同様の話をし、驚かれ、呆れられ、溜め息を吐かれるという3コンボを体験した俺だった。
◇◆◇ ◆◇◆
「どうでしょう?」
「ほぉ、髪の毛の色を金にし、更に大人っぽくなったのう。大したものじゃ。儂でも【歪曲の変化】には気付けぬ」
唸りながら言ったのは、魔帝グラムス。
勇者エメリーに【チェンジ】を施す事は出来ない。
血を吸ってない上、魔族だとバラす事になるからだ。
当然候補に挙がるのは他者の視覚情報を騙す光魔法の【歪曲の変化】。これを魔帝グラムスに実演してもらい、俺が模倣する。真似出来なければ
そしてこれにより、勇者エメリーは姿を変える事が出来たのだ。
「見事だミック、この私でも目を凝らさなければ勇者エメリーと気付けないぞ」
隣で褒めてくれたのはリィたん。
そうか、彼女がそこまで言ってくれるのであれば安心だろう。
「術者が違えば魔法の威力も変わる。グラムスでなく、ミックが使うならば、エメリーの正体に気付ける者は皆無に等しい。これなら国内を歩けるだろう」
ジェイルの言葉を受け、ニコリと笑う俺。
だが、内心笑っていられないのも事実だ。
そう、絶対ではないのが怖いところなのだ。
「後は……偽名だね」
「ど、どんなのがいいでしょう……?」
エメリーからの問いは意外だった。
「え、私に聞きます?」
「あ、それ私も気になるかもー!」
子供の遊びかのようにナタリーが気に掛ける。
「ん~、じゃあ【ソフィア】で」
直後、エメリーは照れ臭そうにしながら頬を赤らめた。
どうやら気に入ってくれたようだ。
「うーん、ミックにしては中々良いネーミングかも!」
ナタリーも納得してくれたようだが、おじさんとしては心が痛むところだ。
偽名だから適当でいいやと判断した俺の脳は、【ソフィア】という名前を脳内で叩き出した。実はそれが俺がお気に入りだった
こうして、ソフィアとなった勇者エメリーは、ミナジリ共和国で研鑽を積む事となった。
ソフィアが勇者エメリーであると知っている者は少ない。
魔帝グラムスこそ雇用契約状態にあるからこそ知らせたが、剣聖レミリア、剣神イヅナは外部の人間であるが故に知らせる訳にはいかないし、冒険者ギルドなどもっての外なのだ。
だが、俺が彼女の訓練相手を買って出た時、ソレは起こった。
剣と剣が交わる音を聞くと、剣に生きる者であれば、その音に釣られてしまう。剣聖レミリアが登場し、一合切り結んだ俺とエメリーを見ただけで、彼女は言った。
「エメリーよね? 何でこんなところにいるの?」
汗をかく俺とエメリーは見合い、再びレミリアを見る。
「「……チガイマス」」
「姿形は誤魔化せても太刀筋はそうもいかないの。その剣はエメリーのものよ。……ねぇ、何があったの?」
意外でも何でもないのだが、勇者エメリーの所在がバレてしまうのは、とても早いのかもしれない。
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