その234 最強の剣士

 ◇◆◇ イヅナの場合 ◆◇◆


 ボンが戻ったおかげで戦況もだいぶ安定した。

 しかし、ボンの連れ……これまたとんでもないな。

 一人はリィたん……私が行くはずだった武闘大会の覇者と聞いている。

 あの剛力、オベイル鬼っ子の比ではない。あのような長物をあぁまで小枝のように振る舞うとは……しかもあの水色の発光。あれはまさしくオリハルコンの証明。

 一体どこで手に入れたのか。

 私の愛剣もオリハルコン製……ガイアスに依頼して造った特注品だ。だが、ガイアスがハルバードを手がけたという話は聞いた事がない。

 そしてあの男――ジェイルと言ったか?

 あの男もまたとんでもない。実力を隠しながらも他を圧倒する体捌き。

 しかしあの動き、どこかで見たような……?

 何故だ……背中の古傷が痛むのは。

 これは遙か昔、巧みに剣を使うリザードマンに斬られたもの。

 何故あの男を見ているとこの傷が痛むのか……?

 ……あのリザードマンは強かった。

 勇者レックス、聖女アイビス、魔皇ヒルダ、そして私のパーティーは破竹の勢いで冒険者として名を上げていた。しかし、あのリザードマンに出会ったが最後、我らの世界は深紅の惨劇の場となった。

 勇者レックスを斬り伏せ、泣き叫ぶアイビスを連れヒルダが逃げ、私が殿しんがりを受け持った。背中の傷は剣士の恥。倒れる私を見てリザードマンは言った。


 ――――もっと強くなれ。


 それ以降、私は勇者のいないパーティーを率い、強くあろうとした。

 結果、強くはなった。

 しかし、この力はあのリザードマンに届いたのだろうか。届いているのだろうか。

 あれ以来リザードマンには会っていない。勇者を殺した事で魔王が休眠期に入ったからだ。

 休眠期とは、すなわち魔王の力が増大するという事。

 これまでの勇者の力では対抗出来ない力を付けて復活するという事。

 勇者エメリーの強さはまだ鬼っ子にすら届いていない。そして、聖女の力のコントロールも……。だからこそ元聖女であるアイビスがガンドフまでやって来た。闇ギルドは世界が暗黒に染まっていくのを何故よしとしているのか。それが疑問でならない。


「ハハハハハ! 何度でも蘇ってみせようぞ、化け物めぇ!」

「しつこいんだよ!」

「少しは年寄りを労らんかい!」

「早く帰って寝るべきだよお爺ちゃん!」

「フハハハハハ! ならばそこを退けぃ!」

「お断り、だ!」

「ぬぉ!? 何という重厚な攻撃……!」


 確かに妙だ。

 ボンを漂う魔力。昨日より更に増えている……? 馬鹿な、戦争の直後だぞ?

 私の目測がおかしいのか、それともボンの成長速度がおかしいのか。


「おのれ化け物め!」


 化け物……確かにそうとも言える。

 ジェイルという男、リィたんという女……ボンが率いるにはおかしな実力者たち。

 しかし、彼ら二人はボンに付き従い、戦争を止めて戻って来た。

 それだけの求心力がボンにあるという事か。確かボンは……リーガル国にあるミナジリ領の領主だとか。ふむ、少し興味が湧いてきたな。

 リプトゥア国が抱えるという勇者エメリー。これから勇者エメリーの所在は秘匿とされるだろう。だが、リプトゥア国で抱えられるのも時間の問題。

 そんな中、ミナジリ領に白羽の矢が立てば面白いと思うのは……私だけだろうか。


「ボン、追加だ」

「あ、今手ぇ抜きましたよねっ!? 見てましたよ!」


 この混戦の中、私の動きを見ていたのか。

 だが、この押し寄せる波は私でもキツイ。正面の実力者たちのように振る舞えればいいのだが、身体が言うことをきかない。年波としなみには勝てぬという事か。

 先程あの闇人やみうどが良い事を言っていた。

 人は模してこそ成長する……ならば私も言うべきなのだろう。


「少しは年寄りを労らんか」

「あ、きったな!」

「ははははは! 爺もミケラルドの事を気に入ったようだな!」


 鬼っ子の言葉が全てを物語っていた。

 そうか、私はボンを気に掛けているのか。そして鬼っ子もまた。

 この依頼が終わったら、一勝負してみたいものだ。

 まぁ、ボンが受けるか受けないかは明白だが。


「絶対嫌です! やりませんよ!」

「いいじゃねぇか! これが終わったら一回! 一回だけ!」

「そう言いながら何回もやるやつでしょ! そんな美人に迫る酔っ払いみたいに言うのやめましょうよ!」

「はははは! なら強引にイけばいいじゃねぇか!」

「あ、ちょ!? 今掠った! 掠りましたよ!?」

「おっと気がはやっちまったぜ! カカカカ!」


 なるほど、鬼っ子が先か。

 ならば私はあのジェイルという男と戦ってみるか。

 あちらも先程から私を気にしているようだが、あの目……やはりどこかで見た事があるような気がする。何だ? 今ジェイルが……笑った?


「あ」


 そんな間の抜けたボンの声を聞いた気がする。

 直後、私の身体に雷の如き衝撃が走った。


竜剣、、、稲妻!」

「っ!?」


 目を見開いた私が戦慄した理由。

 ジェイルを見て古傷が痛む理由。

 二つの理由がジェイルの目に潜む正体を暴いた瞬間だった。

 あの剣技は、かつての勇者を死に至らしめた剣技……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る