その224 ドワーフの国

「へぇ、強かったのか。ソイツ」

「少なくともSSダブルの実力はありましたね」


 ガンドフに着き、門の近くで待っていた騎士に法王国の大使館へ連れて来られた俺は、その中でオベイルと合流した。

 当然、血を吸ったイチロウとジロウはミナジリ領へ送った後である。


「で、そのSSダブルを追い返すだけの実力を持っていた訳だな、お前は?」

「えぇ」

「……少しは隠そうとしねぇのか」

「いえ、そろそろ面倒になってきたのでオベイルさんの前ではいいかなーと」

「なるほど、猫を被ってた訳か」

「被った内に入りませんよ。それに、皇后様は無事ガンドフに着いたんですから、任務は成功でしょう」

「だといいがな」

「へ?」


 俺が素っ頓狂な声を出すと、オベイルがその理由を説明してくれた。


「俺の報告を受け、奥で大使と皇后が緊急会議をしている」

「何でまた?」

「そりゃあれだろ。魔族と闇ギルドが手を組んでる可能性があるからだろ」


 確かに、勇者の剣が造られる事で困るのは魔族。

 その魔族が襲撃に来ず、闇ギルドが来たというのであれば、双方に繋がりがあると考えるのは当然か。

 しかも、御者は最初から輸送隊に配されていた。情報が筒抜けだったと見るべきか。


「なるほど。けど、魔族が闇ギルドと手を組むメリットはあっても、その逆のメリットって何ですかね?」

「ガンドフの滅亡」

「そこにメリットが?」

「闇ギルドにはな、人間しかいない、、、、、、、んだよ」

「っ!」


 そうか、闇ギルドは人間至上主義組織なのか。

 ガンドフがドワーフの国である以上、滅ぶなら喜んで協力するって事か。

 道理で法王国に本部がある訳だ。


「それは本当なんですか?」

「これまで俺が戦った中には人間以外はいなかったな。剣神の爺も同じ事言ってたぜ」


 長く冒険者ギルドに関わっている剣鬼けんきと剣神の台詞なら信用出来る。

 それに、俺がこれまで戦った闇ギルドの連中の中にも、エルフやドワーフはいなかった。

 後程、ラジーンに聞いてみるか。


「何だ、知らなかったのか」

「今日含め二回しか戦った事がないので」

「にしては、詳しそうに見えるが?」


 身内に抱え込みました、なんて言う訳にもいかないよな。


「最初襲われた時に用心のため色々調べましたから。しかし、人間のみで構成されている情報までは知りませんでした」

「ふーん、まぁいい。冒険者ギルドに報告したし、違約金もストラッグが支払った。俺たちはこれでお役御免ってところだな」

「さっき『だといいがな』って……」

「そうは言っても、新たな依頼がない限り俺たちは動きたくても動けねぇって事だ」


 話を聞くに、オベイルも根は良いヤツなのだろうな。初手斬撃の挨拶がない限りは。

 すんと鼻息を吐いたオベイルが立ち上がり、扉から出て行く。

 俺もテーブルに置かれた違約金と報酬を受け取り、大使館を後にした。

 折角だし、ガンドフの観光でもしたいが、朝までまだ長い。

 仕方ないので宿に向かいこの何とも言えない疲れを癒すのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 翌朝、俺は外から聞こえる鎚の音、、、で目が覚めた。

 宿を出て、小気味良い音に釣られる事数分。俺はいつの間にか職人街へとやって来ていた。流石ドワーフの国と思えるような金属加工技術。店舗、装飾、職人が使う道具までこだわりが行き届いているように見える。

 そんな中、俺は昨晩までの仕事仲間の背中を見つけた。

 オベイルは俺に気付く事なく、職人街を奥へ進む。別段予定もなかった俺は、その後を追ったのだった。

 彼程の男が贔屓ひいきにしているのがどのような店か、当然気になるものだ。

 だが、案の定といえば案の定なのだろう。

 一際目立つ武具店へ入って行った。店の名前は【ガイアス武具店】。


「あー、なるほど」


 と、口に零してしまう程、そこはオベイルにとって当たり前の場所だった。

 おそらくここが世界最高の鍛治師ガイアスがいる場所。

 オベイルはきっと皇后からの報酬を、ガイアスから受け取ろうとしているのだろう。

 報酬とはすなわち剣のオーダーメイド、その優先権だ。

 オベイルの目的がわかってしまえば、正直ここには用がない。

 俺は踵を返し、職人街を練り歩く事にした。

 しかし、俺はそこで足を止めてしまった。止める他なかったのだ。

 正面からゆらゆら歩いて来る男の存在感が、圧力が、俺の足を止めた事は確かだった。

 男は俺を横切り、そして止まった。


「ふむ、特徴からしてランクSのミケラルド殿……かな?」


 声こそ若々しいが、彼の風貌ふうぼうは正に――、


「おう、やっぱり爺か。珍しいじゃねぇか、こんなに闘気剥き出しやがって……ん?」


 この圧力を感じ取ったであろうオベイルが店から出て来る。

 そしてオベイルは俺を見つけるなり、目を丸くしたのだ。


「なるほどな」


 オベイルは一人で納得し、店の中へ戻って行く。


「そうか、鬼っ子の知り合いだったか」

「えぇ、昨日まで一緒に仕事をしたもので」


 オベイルが言った通り、正に爺。

 飄々とした顔つきとは裏腹に、この溢れ出る闘気は正に超一流の剣士の証。


「もしかして貴方が……【剣神】?」


 俺が聞くも、その爺さんは「ほっほっほ」と笑いながら店に入って行くだけだったのだ。

【剣神イヅナ】、冒険者ギルドが抱える最高戦力の一角。

 破壊魔パーシバルと対を成すSSSトリプルの一人。

 師ジェイルを彷彿するような圧力を感じた俺は、怖いからさっさとミナジリ領へ帰る事にした。

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